スキルイータ

北きつね

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第三章 潜入

第四十話

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/*** リア(リーリアの偽名) Side ***/

「司祭様」
「どうした?」
「門番がご挨拶をしたいという事です」
「わかった」

 人族1が交渉したのだが、”御尊顔を”とか言っていたようです。ようするに、確認させろって事だと思いました。

 門番も人族だが、汚らしい、臭い。ご主人様と同じ種族だとは思えないですね。

 馬車に乗り込む事なく終わってホッとしました。
 私の事も怪しむ雰囲気が有ったのですが、人族1が”司祭様の”というと納得したようです。その後で、魔核を3つほど握らせることで問題はなくなりました。私が身分証がない事が問題になりそうでしたが、司祭が教会で保証して、後ほど教会で作るということで大丈夫になりました。

 大きな問題なく、アンクラムの街に潜入する事ができました。

 それにしても、人族の街というから期待してきたのですが、期待はずれですね。広さは、ご主人様がお作りになった(正確には、スーンらのエントだが)獣人族の居住区の方が広いです。建物1つ1つも、ご主人様がお作りになった(正確には、エントとドリュアスや眷属たちだが)ログハウスの方が立派なのです。
 酷いのは、下水道が無いのでしょう。排泄物の匂いが酷いことです。さすがに、ボア司祭の住んでいる所には、何かしらのスキルが使われている---風のスキルを一定期間利用する---ようですね。匂いが籠もらないようになっているようです。
 ダンジョンが無いので、排泄物の処理もしないまま、近くを流れる川に流しているのですね。本当に酷いですね。害悪しか垂れ流さない人族は、やはり、ご主人様以外を抹殺すべきでしょう。帰ったら、ご主人様に”そう”進言する事を心に決めました。

 さて、ご主人様からご命令されている。情報収集ですが、思った以上に簡単に進みそうです。

 このボア司祭が思っていた以上に、重要人物だったようです。
 教会施設で一番いい部屋を使っています。私は、従者という立場ですが、教会に残った人たちから見たら、ボア司祭が連れてきた大切な人という位置づけになっています。そうなるように、操作しました。部屋も小さいながらも個室が用意され、ここから、人族を操作する事ができます。

 この街のトップがボア司祭に面会を申し込んできました。
 事情がわからないので、暫くは、無視する事にしました。そのくらいの権力はあるようです。

 街の中に散った人族からの情報が集まってきています。
 どうやら、アンクラムで雇っていた奴隷商や、冒険者のほとんどが、ご主人様のご領地である(リーリアの誤解)ブルーフォレストに向かったようです。街に残っているのは、街を守れる最低限度の兵だけのようです。
 話を聞いていると、最初は、ミュルダを攻めて、ミュルダに豊富にある食料や水資源を奪うことが目的だったようです。ミュルダは、穀倉地帯として、穀物が豊富にあるようです。しかし、ミュルダの領主が、人族ではなかったために、教会は、ミュルダとの取引にいい顔をしません。そこで、ミュルダを攻めて、隷属化する事で、救済するとボア司祭がいい出したそうなのです。それに、同調した一部の狂信者が暴走したのが、始まりです。最初はうまく言ったようです。
 アトフィア教に働きかけて---貢物を送って---ミュルダを異端認定する事はできたのですが、思っていた以上に、ミュルダが困らなかった。実際問題として、”薪”の問題だけだったようです。この辺りは、イサークさんたちから詳しい事が聞けることでしょう。

 アンクラムの街は、ミュルダを異端認定してしまった事で、自分たちが苦しむ事になってしまったようです。
 実際問題として、ミュルダに攻め込むと言っていた人たちも、ブルーフォレストに向かった兵たちが戻ってこない事や、戻ってきても、精神が壊れてしまったり、無傷のものは皆無。スキルも武装もすべて失って帰ってきているのです。そんな状況では、アンクラムに攻め込むのは実質的に不可能になってしまっています。
 さらに、協会関係者が、自分たちの失策を隠すために、街に残っている。獣人族---殆どが、隷属化されている。主人が居る状態---を、殺し回っていたのです。街の住人と、教会の関係は悪くなっていく一方なようです。

 そんな中に私たちが帰ってきたのです。
 ボア司祭は怪我を追っているという設定ですが、今までの中では最良の状態。他の人族に関しても、性格が変わったと言われている者も居ますが、激しい戦闘の結果だと思われています。兵には冷たい街の人達も、私が操作している人族には一定の距離は置いていますが、優しくしてくれます。ご主人様が言っている、”人族全部が悪いわけではない”と、いう事が、なんとなくわかってきました。

「リア様」
「なに?」

 人族1の様です。

「そろそろ、司祭様の所に行く、お時間です。いかが致しましょうか?」
「そうね。わかりました。待たせるのも問題でしょう。すぐに伺います」
「ありがとうございます」

 ドアの外からの声がけです。
 私ですから、入ってきても良かったのですが、スーン様から、序列は大事にしなさいと言われております。

 教会の祭壇がある部屋に急ぎます。
 人族1には、私が着替えて、祭壇に入ってから、客を案内するように言っています。手順は問題なく守られるでしょう。なんと言っても、私ですので、タイミングを間違えるはずがありません。

 今日は、ボア司祭が祭壇で、アトフィア神に祈りを捧げる事になっています。もともと、ボア司祭が最上位である事や、生き残っている唯一の上位者なのです。祈りを捧げて、死者に安らかな眠りの時間を与えなければなりません。
 私は、それを手伝う立場なのです。ボア司祭に神具を渡す役目が私なのです。

 これで、ボア司祭が私を保護しているのが、皆に印象付けられるわけです。

 今日は、これだけですが、明日が大変なのです。
 領主との面談が決まってしまいました。ボア司祭が対応することになります。

 今日は、そのために、ボア司祭の祈りは1回だけになります。通常は、2回らしいのです。

 私が操作していない。人族の神官が、ボア司祭に言ってきます。遠征に出かける前は、ボア司祭の祈りの時間は、祭壇の周りが人族で溢れかえっていたそうです。偉そうにしているボア司祭の独り言を聞いて何が楽しいのかわかりませんが、人族にとっては大事な時間なのでしょう。
 教会の仕事はそれだけではなく、癒やしを求める人族への対応を行っているそうです。スキル治療を使うわけではなく、薬草を与えたり、話をきくだけの場合もあるそうです。

 ご主人様からは、ミュルダに向かう兵の状態や状況の情報を最優先に調べるように言われています。近くに居る、エント兄さまたちにお伝えしておりますが、すぐの侵攻は難しいようです。獣人族確保に向かった者たちの7割以上を失い、戻ってきた者もほとんどが精神がやんでしまっているためだと思われています。実は、それ以上に問題になっているのが、スキルカードと武具の損失という話なのです。戦闘で使うスキルカードはもちろん、それ以外の生活で必要なカードも持ち出されたようです。それらは、ご主人様の手元に来ているのですが、そんな事は関係ありません。自業自得なのです。
 スキルカードの数が減少した上に、今までミュルダとの取引で得ていた物も入ってこなくなっているので、当然いろいろな所が滞ってしまっているのです。
 多分、明日の領主からの話は、そういった事への不満だと思われています。

 帰還してきた者たちの言葉をまとめると、協会関係者で、ボア司祭以外にも、もう1人生存者が居たとのことです。
 この者は、アンクラムに帰らずに、スキルカードや魔物素材や魔核、戦利品を持って、逃げたと噂されています。それでは、どこに逃げた事になっているのかと言えば、アトフィア教の総本山が置かれている街に逃げたのではないかと言われています。

 アンクラムの教会で、No.3だった男のようです。そして、獣人刈りを、一番に行っていた、狂信者だと評判です。小さな男子をいたぶるのが好きな下衆野郎で、去勢した男児を側に置いていたようです。声変わりが来る前に、去勢していつまでも幼い状態にしておくようです。夜の世話もさせていたようです。教皇の覚えがよく、政治力が有ったために、ボア司祭を追い落として、自分がアンクラムのNo.1になる事を考えていたようです。部屋に、そのような資料が大量に残されていました。去勢した男児の”ブツ”も保管しているようなクズです。見つけ次第殺したほうがいいでしょう。

 ボア司祭は、眠ったようですね。
 今日は、教会の周りを、人族4~8が守るようです。通常なら大丈夫な戦力と言われています。

 私は、ハーフで眠る必要はあるのですが、ご主人さまから名前を承ってから寝る必要が少なくなりました。以前と比べてです。前は、3日に一度姿を戻して、睡眠を取っていましたが、今では、5日に一度、人の姿のまま眠る事で十分なのです。これが進化した結果なのでしょう。

「リア様」

 ご主人様の事を考えていたら、朝になってしまったようです。

「なんでしょう?」
「領主が面談に訪れています。お通ししてよろしいでしょうか?」
「面談室ですよね?」
「はい。その予定でございます」
「わかりました。私も、伺います」
「かしこまりました」

 私が、飲み物やつまむものを用意した方がよろしいのでしょうが、教会にアルものと比べて、質が違いすぎたので、教会にある物で対応する事にしました。改めて、思ったのですが、人族が食べている物で、ご主人様にお出しできる物は一切なさそうです。調理方法も、貧弱です。焼くか、煮るかしかありません。人族1に命令して、アンクラムで手に入る、食材や武器や防具や道具を集めさせていますが、あまり良い物がなさそうです。食材では、私たちが知らない物や、種子にも知らない物がありましたので、ご主人様へのお土産になりそうです。

 さて、後始末のためのお時間なのです。

「司祭様。よくご無事で」
「ふん。そんな事を言うためにわざわざ着たのか?」
「まずは、司祭様のご様子伺いですよ」
「白々しい・・・それで、何が目的なのじゃ?」

 領主がボア司祭をにらみます。
 私に目を向けますが、それだけです。

「はぁ・・・わが街は、今危機に瀕しております。それも、今までにない危機です」
「それは大変だな」
「えぇ大変なのです。あなた達が、奴隷である獣人族を殺して廻って、ミュルダに異端認定なんか出したおかげでね。それだけなら、まだ大丈夫だったかも知れないのに、あなた達が先導して、ブルーフォレストに向かったおかげで、我が街の常備兵の9割が使い物にならなくなってしまいました。そして、隷属化していた者が死んで、隷属化が緩んだ獣人共が、蜂起したり、逃げ出したり、それはそれは大変な危機なのです」
「それで?それを言うために来たのか?」
「えぇ現状を、司祭様に知ってもらいたかったのです。貴方様は、1人の少女を救った立派な方です。そんな立派な方に、我が街も救って頂きたいのですよ」

「無理じゃな」
「は?」
「無理と言ったのだ」
「はぁ?」
「儂らが先導した?どこにそんな証拠がある?それに、儂らは、自分たちで雇った冒険者と共に戻ってきた。それも、お主が言っている通り、リアを助けてな。お主が散々自慢していた、その・・・「常備兵」あぁ常備兵は、そんなに弱かったのか?聞いた所によると、スキルカードを無断で持ち出したり、武具を持ち出して、全部を失ったそうじゃないか?男も女も関係なく、全裸にされて、逃げ帰ってきたと聞いておるぞ?獣人どもを救済しないで、勝手に連れ出したのは、お主の常備兵ではないのか?」

 領主がテーブルを叩く

「怒る所を見ると図星のようじゃな。なぜ、そんなお主の失策を儂ら教会が補填せねばならない。儂らは、獣人族を捉える事はできなんだが、成果はあげておるぞ?」
「なに?」
「言葉だけでは、信じられないだろう。リア。見せてあげなさい」
「はい。司祭様」

 テーブルの上に、ご主人さまから預かっているレベル5の魔核を広げる。
 そして、レベル5や6のスキルカードを10枚ずつテーブルの上に出す。そして、ご主人様に作ってもらった、レベル4の魔核に、レベル4体調管理が固定されている魔核と、レベル5魔核に隷属化を回数制限あり(13回)で付与した物を出す。

 どのくらいあれば、成果として十分か聞いた所帰ってきた答えの分量だけ出します。

「これは?」
「儂らが、戦闘で得たものじゃ。魔物を狩って出た物や、獣人族が所持していた物を奪った物だ」

「へ?本当・・なのですか?」
「嘘を言ってどうする?」

 触らせて欲しいというので、自由にどうぞと伝えさせた。

「これは、どうなさるのですか?」
「どうすると聞かれてもな。儂たちが得たものじゃからな」
「は?!俺の・・・いや失礼、私の街の兵を使っておきながら、その言い方はあまりにも・・・」
「だから?」
「は?」
「お主は、儂が、獣人族を差し出せと言った時になんと言った?同じ事じゃよ」
「な?それでは、どう有っても?」
「そうだな。いくつかの条件次第じゃな」
「条件とは?」
「言わなくてもわかっているだろう?このまちに居る獣人族すべてを渡してもらおう。救済しなければならない。あぁついでに、お主の宝物を、儂の子を産んで貰おうかの?そろそろ、子が産める身体になったであろう?二人おったな?ふたりとも順番にかわいがってやる。なんなら、お主の目の前でかわいがっても良いのだぞ?二人を交互にかわいがっていれば、いずれどちらかが子を産むだろう。そうしたら、お主に返してやろう。その後で、嫁にでも出せばよかろう」

 領主は、テーブルのカップを床にたたきつけて、乱暴にテーブルを蹴って、帰っていった。
 予想通りの行動に出てくれると嬉しいのだけどな。そうならないと、ボア司祭たちの処分に困ってしまう。
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