異世界でもプログラム

北きつね

文字の大きさ
上 下
164 / 178
第五章 共和国

第六十三話 声なき声

しおりを挟む

 戦闘は終わった。

 体力も気力も限界だ。
 精神的に疲れたので動きたくない。

 カルラも珍しく座り込んでいる。アルバンは、横になって目を閉じている。

 確かに、周りには脅威になるような物はない。

 クォートとシャープもユニコーンもバイコーンも機能が十全に使えるようになって、確認をしてから移動を開始した。

 クォートたちが帰って来るまで休憩する。
 さすがに、疲れた。

 葬送を終わらせて、やっと終わった感じがしている。
 辺りは、先頭の余韻が漂っているが、しばらくしたら消えるだろう。

 自然が戦闘を隠して、元の状態に戻すだろう。
 無残に奪われた命は、大地を撫でる風が拡散してくれている。

 クラーラへの復讐は、俺がやらなければならない。
 奴には奴なりの正義があるのかもしれない。

 ”正義のため”などというつもりはない。俺が行おうとしているのは、俺の我儘だ。傲慢な考えだと思っている。奴が属している組織にも興味が出てしまった。目的が解らない。共和国での”黒い石”の実験を行ったようだが、クラーラは関わっていないと言っていた。組織と言っても、皆が同じ方向を見ていない可能性もある。大きな組織や、トップが絶大なる力を持っている組織では、下が上の顔色を伺いながら別々の方向を向いてしまう。

 身体を起こして、足を投げ出して座る。
 風が心地よい。

 開発だけをして過ごしたいのに・・・。

---

 いきなり暗くなった?
 俺は寝ていたのか?

 違う。
 記憶が飛んでいる?
 何も見えない。

 二人の気配がしない。

 違う。
 二人だけではない。感じていた風も、大地も、何も感じない。

 スキルが何も反応しない。
 どうなっている?

「カルラ・・・?」

 自分の声が聞こえない?
 音が吸収されている?

 違う。
 声が出ていない。

「アルバン!カルラ!」

 二人が居ない。
 違う。俺が隔離された?

 どうやって?
 スキルか?

 解らない。
 解らない。

 解らない。

 考えろ。
 考えろ。

 ダメだ。
 思考を止めるな。

 何故だ。
 何があった?

 俺は・・・。

「アルノルト様!アルノルト様!」

 誰だ!
 俺は・・・。

「アルノルト様!」

 そうだ。
 俺は、アルノルト。アルノルト・フォン・ライムバッハ。

 背中・・・。

 違う。脇腹が熱い。
 刺された?

 誰に?

 カルラとアルバンは無事なのか?

 身体が動かない。

「カ・・・ル・・・ラ?」

 大丈夫だ。声が出る。
 音も聞こえる。

 風も感じる。

「あぁ・・・。アルノルト様。申し訳ございません」

「なにが・・・」

 俺は、倒れているのか?
 大地を感じる。

 カルラは片腕で俺を支えている?

 カルラの顔が血で染まっている。カルラの血か?

「アル・・・バン・・・は?」

「・・・。さい・・・しょ・・・に、・・・アル・・・バンが・・・。か・・・ば・・・」

 カルラは、何を言っている?

「っ!」

 動けよ!
 俺の身体!

 動け!動け!動け!

「アル!アルバン!」

「にぃぃ・・・。ちゃん。よ・・・かっ・・・た」

「アル!アル!アルゥゥゥゥゥゥ!!!目を瞑るな。アル!アルバン!まっていろ!いま、治して」

「にぃぃ・・・ちゃん。おい・・・ら、にいちゃんを、まもれ・・・た」

「もちろん。アル。だから、だから、だから、アルバン!」

「よ、かっ・・・た。にい・・・ちゃん・・・あ、りが・・・とう。おい・・ら。がん・・・ばった」

「アル!アル!カルラ!アルの近くに、俺を、俺を、いそいで・・・。え?カルラ?」

 なんで、カルラまで・・・。

「ア・・・ルノル・・・トさ・・・ま。わた・・・しも、おいと・・・ま、を・・・いただ・・・きたく・・・」

「ダメだ!カルラ!」

 なんで、アルバンとカルラを!誰だ!何故だ!

「いえ・・・。もう、わたし・・・は、アル・・・ノル・・・トさまの、おや・・く・・には・・・た・・・てま・・・せん」

「ちがう。カルラ。アルバン。おれには、お前たちが、カルラ!お前が必要だ。ゆるさ、ない」

「さいごに・・・。アルノルトさま。おねがいが」

「カルラ。さいご?ちがう・・・。これからも」

「アルノルトさま。わたしの、ほんとうのなまえ・・・。アーシャと、よんで・・・くだ・・・」

「アーシャ!アーシャ。なんどでも呼んでやる!だから・・・。だから!アーシャャャャャ!!!!」

「あり、が、と、う、ご、ざい、ます。アーシャは、しあ、わせ、もの、です」

「アーシャ。アーシャ!」

「・・・。あるのるとさま。おしたいしておりました、あるのるとさまのほんかいを・・・。おてつだい、できなく、なる、ふしま、つを、おゆ、るし・・・」

 なんで、俺は動けない!
 動け!動け!動け!

 カルラ!アーシャを!アルバンを!

 許さない。許さない。
 許さない。許さない。

---

 遠くで、誰かが笑っている。
 気持ち悪い笑い方だ。

 俺は、寝ていたのか?

 そうだ!

「カルラ!アルバン!」

『マスター。ご気分は?』

「エイダ?」

『はい。マスターの生体反応が微弱になったために、ウーレンフートに向かうのをキャンセルしました』

「・・・。カルラとアルバンは?」

『遺体は回収いたしました。私たちが到着した時には、手遅れな状態でした』

「・・・。エイダ。嘘だよな?」

『クォートとシャープが確認をおこないました。カルラ。アルバン。両名の生体反応が停止しているのを確認いたしました』

 揺れている所を見ると、馬車か?

「エイダ。どこに向っている?」

『国境です。捕えた者は、処分しますか?』

 俺は、こんなに冷静に考えている。
 頭の中は、冷めきっている。

 心がざわついている。

「そもそも、何があった?カルラとアルバンは、誰にやられた?」

 少しだけだけど、身体が動くようになっている。

「エイダ!」

『現在、調査を行っております』

「調査?何か残されていたのか?」

『暗殺に使われたと思われるナイフが残されておりました。カルラが始末したと思われる遺体が多数。辛うじて生体反応が残されていた者が5名。手足の腱を切られた状態で放置されていました』

「ナイフ?」

『はい。詳細な調査を行っております。簡易検査の結果をお伝えしますか?』

「あぁ」

 エイダの報告を聞いている。
 心がざわついて気持ちが悪い。頭だけがどんどん冷めていき・・・。そして、遠い世界からの言葉を聞いている気分になってくる。

 俺は、慢心していたのか?俺の油断で、カルラとアルバンを失ったのか?
 油断はしていなかった。

 ナイフには、”黒い石”と同じ成分が使われていた。
 問題は、ナイフに塗られていた毒だ。

 これが、利用者をも蝕んでいた。
 俺が刺された、黒い石を細かく砕いた物が塗られていた。どんな作用があるのか解っていないが、人を死に至らしめる毒になっているのだろう。

 簡易的な検査によると、黒い粉は、人の憎悪を増幅する作用があるらしい。
 俺は、刺されて、黒い粉が身体の中に入った。それで、”殺したい程”に憎んだのか?

 今は、その反動でざわついているけど、頭が冷えて、どこか他人事のように感じているのか?

 エイダの報告では、俺が助かったのは、偶然の産物らしい。
 カルラとアルバンは、持っていたポーションやワクチンを俺に使用した。自分たちにも使用すれば・・・。違うな。俺が刺された事で、俺を助けようと動いてくれた。順番は解らないが、俺が刺された。致命傷にはならなかった。次の攻撃をアルバンが防いだ。アルバンが、傷をおいながら俺を助けている間に、カルラが敵を殲滅した。

 解らないが、カルラとアルバンなら・・・。

 何が作用したのかわからないが、俺は助かった?
 でも、俺を助けるために、カルラとアルバンは・・・。絶対に、仇は取る。

『マスター。一部の記憶ですが、捕えた者たちからの抜き取りが成功しました』

「クォートを呼んでくれ」

『はい』

「生き残った奴らを尋問する」

『わかりました』
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

おっす、わしロマ爺。ぴっちぴちの新米教皇~もう辞めさせとくれっ!?~

月白ヤトヒコ
ファンタジー
 教皇ロマンシス。歴代教皇の中でも八十九歳という最高齢で就任。  前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。  元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。  しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。  教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。  また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。 その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。 短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。

勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。  ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。  一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。  ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。  おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。  女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。

職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉
ファンタジー
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません」 多くの者達が英雄を目指す中、彼はそんなことは望んでいなかった。 ただ一つ、自ら選択した道を黙々と歩むだけを目指した。 その道が他者からは忌み嫌われるものであろうとも彼には誇りと信念があった。 彼が自ら選んだのはネクロマンサーとしての生き方。 これは職業「死霊術師」を自ら選んだ男の物語。 ~他のサイトで投稿していた小説の転載です。完結済の作品ですが、若干の修正をしながらきりのよい部分で一括投稿していきますので試しに覗いていただけると嬉しく思います~

黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》

Siranui
ファンタジー
 そこは現代であり、剣や魔法が存在する――歪みきった世界。  遥か昔、恋人のエレイナ諸共神々が住む天界を焼き尽くし、厄災竜と呼ばれたヤマタノオロチは死後天罰として記憶を持ったまま現代の人間に転生した。そこで英雄と称えられるものの、ある日突如現れた少女二人によってその命の灯火を消された。  二度の死と英雄としての屈辱を味わい、宿命に弄ばれている事の絶望を悟ったオロチは、死後の世界で謎の少女アカネとの出会いをきっかけに再び人間として生まれ変わる事を決意する。  しかしそこは本来存在しないはずの未来……英雄と呼ばれた時代に誰もオロチに殺されていない世界線、即ち『歪みきった世界』であった。  そんな嘘偽りの世界で、オロチは今度こそエレイナを……大切な存在が生き続ける未来を取り戻すため、『死の宿命』との戦いに足を踏み入れる。    全ては過去の現実を変えるために――

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~

北きつね
ファンタジー
 世界各国から、孤児ばかり300名が消えた。異世界に召喚されたのだ。  異世界召喚。  無事、魔物の王を討伐したのは、29名の召喚された勇者たちだった。  そして、召喚された勇者たちは、それぞれの思い、目的を持って地球に帰還した。  帰還した勇者たちを待っていたのは、29名の勇者たちが想像していたよりもひどい現実だった。  そんな現実を受け止めて、7年の月日を戦い抜いた召喚勇者たちは、自分たちの目的を果たすために動き出すのだった。  異世界で得た仲間たちと、異世界で学んだ戦い方と、異世界で会得したスキルを使って、召喚勇者たちは、復讐を開始する。

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...