異世界でもプログラム

北きつね

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第五章 共和国

第六十話 死闘

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 クラーラ!
 お前だけは、お前だけは・・・。

『アルノルト様。その”絡繰り”はダメです』

 指を鳴らす音が響いた。

「アルノルト様!」

 カルラが慌てて、俺に駆け寄ってくる。
 剣は構えたままだが、クラーラの姿が見えない。スキルを使うが、クラーラを補足さえできない。

「アルノルト様!クォートとシャープが!」

 カルラに指摘されて、二人を見ると、糸が切れたかのように、身体から力が抜けて、座り込んでいる。
 バックアップは作成してあるので、復元はできるだろう。

 しかし・・・。

 その前に、クラーラは、”何を”やったのだ?
 それに、”絡繰り”と言っている。方法は解らないが、クォートとシャープを”絡繰り”と呼んでいる。もしかして、似たような技術が確立しているのか?

『おや。違うのですね。動かなくなった様ですが・・・。ふむ。盟主様に、ご報告しなくては・・・』

 クラーラの声だけが聞こえる。

「クラーラ!どこにいる!出てこい!殺してやる!」

『怖い。怖い。アルノルト様。貴方様は、いろいろな所で恨まれていますよ。注意してください。貴方様は、盟主の贄なのです』

「クラーラ!贄とはなんだ!俺に何をさせたい!」

廃棄物失敗作で申し訳ないのですが、遊んでください。それでは、またお会いするまで、ご壮健であられますよう』

「クラーラァァァァァァァァァ!」

 俺の声だけが、虚しく森に吸い込まれていく・・・。

 探索スキルを限界まで広げたが、ヒットしない。
 転移?そんな事ができるのか?
 似たような事はしているが、あれはダンジョンの権能を使っている。ダンジョンの領域内でなければ使えない。

 奴らは、ダンジョンの外でもダンジョンの権能が使えるのか?

「アルノルト様!黒い獣です。数、多数!」

「何!?アルは!」

「だ、大丈夫。兄ちゃん。戦える」

 頬を叩く。
 そうだ、クラーラに構っていられない。

 アルバンとカルラと生きて帰らなければ、約束が・・・。

「すまん。アル。俺と一緒に突っ込むぞ。カルラは、補助。行くぞ!」

「「はい」」

 黒い獣の置き土産

 これではっきりとした。
 黒い石と黒い獣は、帝国の・・・。クラーラが属している組織が作った物だ。解ったから、何か解決するわけではない。しかし、点と点が結ばれた。

 正面だけではない。
 後ろ以外から黒い獣が攻め込んでくる。

 立ち止まっていれば、囲まれてしまう。ワクチンのスキルを発動するが、効き目がない。
 新しくワクチンを作っている暇はなさそうだ。

 後ろは安全だとは思う。
 クォートとシャープの後をついてきた”元アルトワ町の住人”たちだ。戦いは難しそうだ。
 唯一の救いは、疲れ切っているのか、心が死んでいるのか、黒い獣を見ても、反応が薄い。


 大声を上げられたり、暴れられたり、パニックになって黒い獣のヘイトを獲得しないだけ”まし”だと思っておこう。
 黒い獣が、俺たち以外に向っていくのは、別に構わない。その結果、元住民が殺されても、かまわない。自分の身は、自分で守って欲しい。俺が懸念するのは、住民がヘイトを獲得してしまって、パニックになって逃げ出すのが怖い。黒い獣が群れでまとまっているので対処が出来ている状況なのに、住民を襲うために、戦線が広がってしまうと、俺とアルバンとカルラだけで支えるのは不可能だ。

 今の広がりでギリギリなんとか戦えている。
 もしかして、クラーラが俺たちを分析して・・・。

 今は、あいつの事は考えない。考えるな。

 まずは、この戦場から生きて帰る。

 クォートとシャープが動いてくれれば、戦線の維持が楽になるのに、ダメなようだ。
 二人を感じることは出来ている。しかし、生体情報が壊れているのか?情報伝達が出来ていないのか?動くことが出来ないようだ。

「アル!」

「うん!」

 アルバンが、下がって俺を回り込んで反対側に移動する。

 スキルを発動して、アルバンが居た場所に石壁を作成する。

「カルラ」

「はい!」

 カルラが、石壁を回り込んで、黒い獣の集団に切り込む。
 空いたスペースにアルバンが追い打ちをかける。

「アル!カルラ!下がれ!」

 そこに、雷龍のスキルを放つ。
 今まで、黒い獣と対峙してきた。戦いを経験して、”雷”が効果的なのは解っている。

 雷龍は二人が下がった隙間に降り立つ。
 加速して、黒い獣に襲い掛かる。クォートやシャープたちの戦闘経験から動きも洗練されている。出し惜しみはしない。プログラムが付与されている魔石も利用して、雷龍を産み出す。

「カルラ!」

「およそ、1割」

 まだ10%程度しか倒していないのか?
 スキルがギリギリだ。魔石の残数は多くない。帰るだけだと思って、アルトワダンジョンに置いて来てしまっている。

「くっ」

 弓?
 道具を使う者がいるのか?

「カルラ。後方に、遠距離を攻撃できる奴がいる。対処できるか?」

「兄ちゃん。おいらが!」

「アルは、雷龍が倒し損ねた奴を頼む」

「うん」

「やってみます」

 カルラがスキルを発動する。
 弓の精度を上げて、弓で攻撃を行うようだ。

 スキルでの攻撃では、仕留めきれないと判断したのだろう。

 アルバンは、俺の前に出て、襲ってくる黒い獣を切り始めている。

 1体1体なら対処は容易だ。
 1撃では屠れないが、負ける事はない。

 戦闘が開始して10分近くが経過した。
 雷龍の消耗から、時間を予測したのだが・・・。

 徐々に、黒い獣との距離が空き始めている。

 今なら逃げられるが、アルバンもカルラも逃げるという選択肢はないようだ。

 後ろにいる住民たちから距離が出来たと思えばいいのか?

 アルバンとカルラも、俺の意図がわかるのだろう。
 徐々に黒い獣との距離を詰める。

 木々が生い茂っている部分まで、後退させたい。

 何度かの攻撃の波を乗り越えた。
 黒い獣は、木々の辺りまで押し返せた。

「カルラ。右側に石壁を出せるか?」

「はい!」

 カルラが、俺のいる位置まで戻ってきて、スキルを発動する。
 右側に石壁が現れた。

 俺も、カルラのスキルに合わせて、左側に石壁を生成する。
 空地を石壁で覆う必要はない。

 黒い獣が出て来る部分を少なくするのが目的だ。

 戦闘時間は長くなるが、負担が減る。

「アル。休め。カルラ。前を頼む」

「兄ちゃん!おいら」「アル。ダメだ。まだ、半分にも到達していない。休める時に休め」

「わかった」

 アルバンが抜けた場所をカルラが支える。
 カルラ一人では、前衛を任せられないので、俺も近接戦闘に切り替える。

 アルバンが復活してきて、前線が安定した。
 1時間くらいが経過した。

「カルラ。下がれ」

「私は、大丈夫です。先に・・・」「カルラ!」

 カルラの疲れが酷い。
 支えられている間に休んで貰ったほうがいい。

 言わなくても解っているだろうけど、焦りが見え始めている。

「わかりました」

 カルラが後方に下がる。スキルを中心にして戦っていたアルバンが前線に上がってくる。

 3人でローテーションを行い黒い獣を倒し続ける。

 カルラの宣言で、残り半分。

 スキルの底が見え始めている。
 既に魔石は使い切ってしまっている。

 相手が、死体が残らないのが攻めもの救いだ。
 もう何体切ったのか、何体スキルで倒したのか解らない。

 数体だけど、普通の魔物が混じっていた。

 石壁への攻撃がないのも助かっている。
 ひたすら、俺たちだけを狙ってきている。

 クラーラの目的が解らない。
 ”廃棄物失敗作”と呼んでいた。物量で押し切る為の黒い獣ではないのか?

 終わりが見えてきた。
 本当に終わるのか解らないが、黒い獣の圧力が明らかに弱くなっている。

 何とかなるのか?
 刀を持つ腕に力を入れる。

 アルバンもカルラも満身創痍だ。
 怪我は無いようだが、疲労の色は隠せない。

 後ろの使えない奴らは、本当に何ができるのだ?
 俺たちの戦いを、眺めているだけだ。助けようともサポートもしようとしていない。
 それどころか、生きているのさえ怪しい。息はしているようだけど、動きが遅い上に、規則的な動きしかしていない。初期に作ったヒューマノイドタイプのようだ。学習が施されていないのだろうか?
 違う。人間だ。
 ヒューマノイドではない。生きている。

 でも、”死んでいない”状態にしか見えない。

「おいおい。クラーラ。最後に、それは・・・」

 カルラがラスト1体と言ってから出てきたのは、今まで獣が狼型や猪型や鹿型などの野生動物の姿をしていたのに、最後に姿を現したのは・・・。

「ドラゴン?」

 アルバンの呻きとも取れる呟きから、最後の相手は”ドラゴン”のようだ。
 黒いドラゴン。ブラックドラゴンでないことを祈ろう。

「アルバン!カルラ!出し惜しみはなしだ!やるぞ!俺たちなら倒せる!」
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