異世界でもプログラム

北きつね

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第五章 共和国

第四十六話 地上

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 地上には一気に戻らなかった。最下層のボスが居た場所には、魔法陣が出現している。
 一気に戻る方法は存在している。戻る場所がダンジョンの外側に設定されているために、使うのを躊躇っていた。エイダの解析でも、設定の変更は不可能だと言われてしまった。ダンジョンに組み込まれている機能のようだ。オーバライドが可能かもしれないが、解析を行って、組み込みを作るのなら、俺たちしか使わないことを考えれば必要がない。入口近くに転移するゲートを設置したほうが合理的だ。

「カルラ。アル」

 二人を呼び寄せて、俺の考えを伝える。

「兄ちゃん?わざわざ?」

「そうだ。エイダが、ダンジョンに接続が完了しているから、”人”の把握が出来ている」

「人を避けて、途中から戦っている所を見せながら戻る?」

「そうだ。俺たちが、中層で戻ってきたと印象を植え付ける。必要があるとは思えないけど、何か言われた時の為に・・・」

「解った。中層なら、おいらだけでも対応ができるけど・・・」

「そうだな。カルラと一緒に戦うようにしてくれ。あと、ときどきで構わないから、エイダと戦ってくれ」

 カルラを見ると頷いているので、俺の意図は伝わったのだろう。
 最下層には行けないが、中層では困らないくらいの力だと思わせておきたい。深層では、戦えないから、中層で討伐を行って、採取をしていた。その程度の実力だと思われるのが丁度いい。
 自分から、吹聴する予定はないが、カバーストーリーは必要だ。

 それに、このダンジョンに面白い物が流れ着いていた。
 転生する前にも持っていたが、プログラムを作る前にこっちに来てしまった。数年前から商品としては存在していたが、実用に耐えられる物になってきた所だった。

 商品としてはARグラスだが、HMDと一緒になったシリーズだ。
 装着した状態での戦闘は不可能に思える。情報を表示しながら作業を行うのには、適したソリューションだ。音声認識やハンドゼスチャーが組み込まれているだけでも意味がある。他のARグラスと違って、他のデバイスとの接続が必要なく、最低限のことは本体に組み込まれている機能で実現できる。
 今は、エイダに協力してもらって、ダンジョンの情報を表示するようにしてある。
 マップを表示して、人と魔物を表示している。

「アル!次は、右だ」

「うん!」

 俺が後ろで指示を出して、アルバンとカルラが討伐を行う。
 潜っている奴らも表示されているから、避けるのは簡単だ。

 20階層程度から、人が近くに居る魔物を狙って討伐を行って。
 印象を持たれるような行動をしている。

 それでなくても、3人とエイダだけで行動している。特に、戦闘は目立つだろう。

 地上まで戻ってきた。
 ドロップ率は、徐々に絞るようにしているから、まだ問題には発展していない。

 地上では、相変わらず、ダンジョンに入る者たちの審査?が行われている。
 俺たちと同様にダンジョンから出て来る者たちは、何かしらの採取品を持っている。

 俺たちも、カルラとアルバンが採取した物を持って、ダンジョンの入口近くに居る商隊に売りに行った。相場を調べる意味があり、今までも全部ではないが、採取した物は売るようにしていた。
 徐々に値段が上がっている物が多くなっている。それだけではなく、採取リストを配り始めている業者も現れている。
 絞った状況で、影響が現れ始めている。しっかりと記憶していなければ、解らない程度だが、物資が足りなくなってきている。供給量が大きくは減っていないことから、まだ大きな混乱にはなっていない。

 カルラとアルバンが、売りに言っている最中に、俺は物資の補給という名目で何店舗か、露天商に話を聞いたが、”よく売れるようになってきた”という話だ。よく売れるから徐々に値段が上がっている。露天商も、値段が上がっていると認識はしているが、問題だとは思っていない。仕入れは、大きく値段が上がっていないのだろう。

 カルラとアルバンが、戻ってきた。カルラが、アルバンに何かを言っている。

 俺を見つけて、アルバンが駆け寄ってくる。

「兄ちゃん?」

 アルバンが少しだけ不安な表情で俺の所に来た。普段では見せない表情だ。カルラを気にしているのか?
 カルラを連れている事から、カルラが主体でなく、アルバンが主体なのだろう。カルラは、アルバンの後ろに控えるように立っている。アルバンに任せるようだ。

「どうした?」

 深刻な表情だけど、すぐに何かが発生している状況ではないだろう。
 もし、即座の対応が必要なら、アルバンではなくカルラが俺に報告してきて対応を決めるように言ってくるだろう。

「うーん」

 アルバンの表情を見ると、どうやって説明していいのか困っている感じだ。

「アルバン?何か、引っかかったのなら報告をしなさい」

「カルラ。いいよ。それで、アル。何か、気になったのか?」

 多分、カルラに話をした時に、うまく伝わらなくて、痺れを切らしたカルラが俺の所に報告に行くように話をしたのだろう。

「うん。おいらの勘違いだと思うけど・・・」

 アルバンが周りを気にしているので、エイダがスキルを発動した。
 結界ではないが、俺たちの声が周りに漏れないようにした。

 アルバンが感じたのは、ダンジョンの中での視線だ。視線の中に、不思議な視線を感じたようだ。

「カルラは感じたのか?」

 俺の質問にカルラは首を横に振る。
 俺も感じなかった。

 感じなかったが、もしかしたらARグラスに夢中で・・・。

 そんなことが・・・。あり得る。新しい玩具が楽しくて、いろいろ試していた。安全な状況になってからは、ARグラスでいろいろと情報を表示させて遊んでいた。そのうちARグラスで、”戦闘力5か、ゴミめ”遊びをやろうと考えていた。
 ステータスは存在していないが、戦闘力は数値化できる可能性は残されている。どうせ、数値化は考えていた。戦闘力という曖昧な物なら、それほどおおきな影響はないだろう。戦闘力以上に、経験が関係してくるの。経験の数値化は無理だと思っている。現状のスキルの状況から、係数で疑似的な”戦闘力”を算出ができる。はずだ。

「アル。他には、何か感じたのか?」

「うん。一人だけ、異様な雰囲気・・・」

「アルバン。”異様”では解りませんよ!」

 カルラは、アルバンに報告の仕方を教えようとしているのか?
 それとも、自分が感じられなかった事を、アルバンが感じたのが気に入らないのか?

「ゴメン。兄ちゃん。黒い石に侵された魔物に似た雰囲気があった。でも、人しか居なかった。それに、黒い石もなかったから・・・」

 人から黒い石の雰囲気?
 魔物が変異するのと同じで、人も黒い石に侵される?

 でも、そうなると、人にもプログラムが作用することになってしまう。その時の、動力源は?魔石を埋め込んでいるのか?それとも、人にプログラムを埋め込むことができるのか?
 纏っていただけなら、”雰囲気”とはアルバンは感じないだろう。
 魔石を使った武器や防具は存在している。それを持っていただけか?

「どの辺りだ?」

「ん?あっ・・・。たしか、2階層だと思う。おいらとエイダで戦っていた時だから・・・」

 アルバンは、少しだけ考えてから、2階層と答えた。
 2階層で、魔石を使っている武器や防具を装備している連中が居るとは思えない。

「感じたのは、その時だけか?」

「うん。1度だけ、それも、一瞬だから、勘違いかも・・・」

 一瞬というのがまた気になる。
 ON/OFFができるのか?アルバンの勘違いだと考えるのが簡単だが、アルバンの雰囲気から、黒い石と同じような雰囲気を持った”人”が居たのだろう。俺が、アルバンを疑う理由はない。
 ”居ない”と考えて行動するよりも、”居る”と考えて行動方針を決めた方がいいだろう。

「わかった。アル。2階層だな?」

「うん」

 2階層なら、今日と明日だけ監視をしておけばいいだろう。
 深く潜るのなら、エイダの監視網にヒットする。ダンジョンは、俺たちの監視下にある。出て来る奴らを監視すればいい。

「アル。カルラ。暫く、ダンジョンの出口を見ていてくれ、出てくる奴らを監視してくれ」

 二人に指示を出して、俺は、ダンジョンの入口に並んでいる連中を観察する。
 黒い石を持ち込んでいる連中が居るのなら、ここに並んでいる可能性が高い。

 露天商や商隊には、黒い石を扱うメリットはない。”ない”と考えて大丈夫だろう。ないよな?

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