147 / 178
第五章 共和国
第四十六話 地上
しおりを挟む地上には一気に戻らなかった。最下層のボスが居た場所には、魔法陣が出現している。
一気に戻る方法は存在している。戻る場所がダンジョンの外側に設定されているために、使うのを躊躇っていた。エイダの解析でも、設定の変更は不可能だと言われてしまった。ダンジョンに組み込まれている機能のようだ。オーバライドが可能かもしれないが、解析を行って、組み込みを作るのなら、俺たちしか使わないことを考えれば必要がない。入口近くに転移するゲートを設置したほうが合理的だ。
「カルラ。アル」
二人を呼び寄せて、俺の考えを伝える。
「兄ちゃん?わざわざ?」
「そうだ。エイダが、ダンジョンに接続が完了しているから、”人”の把握が出来ている」
「人を避けて、途中から戦っている所を見せながら戻る?」
「そうだ。俺たちが、中層で戻ってきたと印象を植え付ける。必要があるとは思えないけど、何か言われた時の為に・・・」
「解った。中層なら、おいらだけでも対応ができるけど・・・」
「そうだな。カルラと一緒に戦うようにしてくれ。あと、ときどきで構わないから、エイダと戦ってくれ」
カルラを見ると頷いているので、俺の意図は伝わったのだろう。
最下層には行けないが、中層では困らないくらいの力だと思わせておきたい。深層では、戦えないから、中層で討伐を行って、採取をしていた。その程度の実力だと思われるのが丁度いい。
自分から、吹聴する予定はないが、カバーストーリーは必要だ。
それに、このダンジョンに面白い物が流れ着いていた。
転生する前にも持っていたが、プログラムを作る前にこっちに来てしまった。数年前から商品としては存在していたが、実用に耐えられる物になってきた所だった。
商品としてはARグラスだが、HMDと一緒になったシリーズだ。
装着した状態での戦闘は不可能に思える。情報を表示しながら作業を行うのには、適したソリューションだ。音声認識やハンドゼスチャーが組み込まれているだけでも意味がある。他のARグラスと違って、他のデバイスとの接続が必要なく、最低限のことは本体に組み込まれている機能で実現できる。
今は、エイダに協力してもらって、ダンジョンの情報を表示するようにしてある。
マップを表示して、人と魔物を表示している。
「アル!次は、右だ」
「うん!」
俺が後ろで指示を出して、アルバンとカルラが討伐を行う。
潜っている奴らも表示されているから、避けるのは簡単だ。
20階層程度から、人が近くに居る魔物を狙って討伐を行って。
印象を持たれるような行動をしている。
それでなくても、3人とエイダだけで行動している。特に、戦闘は目立つだろう。
地上まで戻ってきた。
ドロップ率は、徐々に絞るようにしているから、まだ問題には発展していない。
地上では、相変わらず、ダンジョンに入る者たちの審査?が行われている。
俺たちと同様にダンジョンから出て来る者たちは、何かしらの採取品を持っている。
俺たちも、カルラとアルバンが採取した物を持って、ダンジョンの入口近くに居る商隊に売りに行った。相場を調べる意味があり、今までも全部ではないが、採取した物は売るようにしていた。
徐々に値段が上がっている物が多くなっている。それだけではなく、採取リストを配り始めている業者も現れている。
絞った状況で、影響が現れ始めている。しっかりと記憶していなければ、解らない程度だが、物資が足りなくなってきている。供給量が大きくは減っていないことから、まだ大きな混乱にはなっていない。
カルラとアルバンが、売りに言っている最中に、俺は物資の補給という名目で何店舗か、露天商に話を聞いたが、”よく売れるようになってきた”という話だ。よく売れるから徐々に値段が上がっている。露天商も、値段が上がっていると認識はしているが、問題だとは思っていない。仕入れは、大きく値段が上がっていないのだろう。
カルラとアルバンが、戻ってきた。カルラが、アルバンに何かを言っている。
俺を見つけて、アルバンが駆け寄ってくる。
「兄ちゃん?」
アルバンが少しだけ不安な表情で俺の所に来た。普段では見せない表情だ。カルラを気にしているのか?
カルラを連れている事から、カルラが主体でなく、アルバンが主体なのだろう。カルラは、アルバンの後ろに控えるように立っている。アルバンに任せるようだ。
「どうした?」
深刻な表情だけど、すぐに何かが発生している状況ではないだろう。
もし、即座の対応が必要なら、アルバンではなくカルラが俺に報告してきて対応を決めるように言ってくるだろう。
「うーん」
アルバンの表情を見ると、どうやって説明していいのか困っている感じだ。
「アルバン?何か、引っかかったのなら報告をしなさい」
「カルラ。いいよ。それで、アル。何か、気になったのか?」
多分、カルラに話をした時に、うまく伝わらなくて、痺れを切らしたカルラが俺の所に報告に行くように話をしたのだろう。
「うん。おいらの勘違いだと思うけど・・・」
アルバンが周りを気にしているので、エイダがスキルを発動した。
結界ではないが、俺たちの声が周りに漏れないようにした。
アルバンが感じたのは、ダンジョンの中での視線だ。視線の中に、不思議な視線を感じたようだ。
「カルラは感じたのか?」
俺の質問にカルラは首を横に振る。
俺も感じなかった。
感じなかったが、もしかしたらARグラスに夢中で・・・。
そんなことが・・・。あり得る。新しい玩具が楽しくて、いろいろ試していた。安全な状況になってからは、ARグラスでいろいろと情報を表示させて遊んでいた。そのうちARグラスで、”戦闘力5か、ゴミめ”遊びをやろうと考えていた。
ステータスは存在していないが、戦闘力は数値化できる可能性は残されている。どうせ、数値化は考えていた。戦闘力という曖昧な物なら、それほどおおきな影響はないだろう。戦闘力以上に、経験が関係してくるの。経験の数値化は無理だと思っている。現状のスキルの状況から、係数で疑似的な”戦闘力”を算出ができる。はずだ。
「アル。他には、何か感じたのか?」
「うん。一人だけ、異様な雰囲気・・・」
「アルバン。”異様”では解りませんよ!」
カルラは、アルバンに報告の仕方を教えようとしているのか?
それとも、自分が感じられなかった事を、アルバンが感じたのが気に入らないのか?
「ゴメン。兄ちゃん。黒い石に侵された魔物に似た雰囲気があった。でも、人しか居なかった。それに、黒い石もなかったから・・・」
人から黒い石の雰囲気?
魔物が変異するのと同じで、人も黒い石に侵される?
でも、そうなると、人にもプログラムが作用することになってしまう。その時の、動力源は?魔石を埋め込んでいるのか?それとも、人にプログラムを埋め込むことができるのか?
纏っていただけなら、”雰囲気”とはアルバンは感じないだろう。
魔石を使った武器や防具は存在している。それを持っていただけか?
「どの辺りだ?」
「ん?あっ・・・。たしか、2階層だと思う。おいらとエイダで戦っていた時だから・・・」
アルバンは、少しだけ考えてから、2階層と答えた。
2階層で、魔石を使っている武器や防具を装備している連中が居るとは思えない。
「感じたのは、その時だけか?」
「うん。1度だけ、それも、一瞬だから、勘違いかも・・・」
一瞬というのがまた気になる。
ON/OFFができるのか?アルバンの勘違いだと考えるのが簡単だが、アルバンの雰囲気から、黒い石と同じような雰囲気を持った”人”が居たのだろう。俺が、アルバンを疑う理由はない。
”居ない”と考えて行動するよりも、”居る”と考えて行動方針を決めた方がいいだろう。
「わかった。アル。2階層だな?」
「うん」
2階層なら、今日と明日だけ監視をしておけばいいだろう。
深く潜るのなら、エイダの監視網にヒットする。ダンジョンは、俺たちの監視下にある。出て来る奴らを監視すればいい。
「アル。カルラ。暫く、ダンジョンの出口を見ていてくれ、出てくる奴らを監視してくれ」
二人に指示を出して、俺は、ダンジョンの入口に並んでいる連中を観察する。
黒い石を持ち込んでいる連中が居るのなら、ここに並んでいる可能性が高い。
露天商や商隊には、黒い石を扱うメリットはない。”ない”と考えて大丈夫だろう。ないよな?
0
お気に入りに追加
306
あなたにおすすめの小説
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
奴隷市場
北きつね
ライト文芸
国が少子高齢化対策の目玉として打ち出した政策が奴隷制度の導入だ。
狂った制度である事は間違いないのだが、高齢者が自分を介護させる為に、奴隷を購入する。奴隷も、介護が終われば開放される事になる。そして、住む場所やうまくすれば財産も手に入る。
男は、奴隷市場で1人の少女と出会った。
家族を無くし、親戚からは疎まれて、学校ではいじめに有っていた少女。
男は、少女に惹かれる。入札するなと言われていた、少女に男は入札した。
徐々に明らかになっていく、二人の因果。そして、その先に待ち受けていた事とは・・・。
二人が得た物は、そして失った物は?
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる