130 / 178
第五章 共和国
第二十九話 処理
しおりを挟むウーレンフートに居たメンバーが、俺の前で跪いている。
見たことがある顔が半分くらいで、残りは知らない(覚えていない)者も居る。前の方に居るのは、よく知るメンバーだ。ニヤニヤしている所を見ると、こいつらの仕込みだと考えるのが妥当だな。
無視するのがいいだろう。
後ろから襲ってきた奴らをしっかりと捕縛している。
「兄ちゃん。遅かった?」
「いや、丁度良かった」
尋問をしているクォートとカルラの方から、悲鳴が聞こえる。
結界を解除したようだ。連れてこられた者たちの顔色が変わっていくのがいい感じだ。
アルトワ町の町長が反抗的な態度を取ったのだろうか?
腕を切り飛ばして居る。そのままくっつけて、また飛ばしている。あれ、拷問としては最低だよな。腕を切り飛ばす時に、血が流れるから、どんどん思考が鈍くなるけど、痛みがあるから、覚醒する。そのうえで、くっ付けられて、また切られる。恐怖しかない。
もう一人の町長?も顔色が青を通り越して、白になっている。
アルバンたちが確保した者たちも、ガクガクと震えている。
恐怖だろう。お前たちは、俺たちを殺そうとした。今更、命乞いをしても遅い。
「大将」
マスター。旦那様。兄ちゃん。今度は、”大将”か・・・。
「ん?」
スラムの顔役だった、ベルメルトまで来たのか?
よく見ると、子供たちも多い。
「大将。ここで、何をやるのか知らないが、俺に、俺たちにも・・・」
ベルメルトが、地面に頭をつける位に下げる。
よく見ると、ベルメルトの両隣の顔も名前は忘れたけど、知っている。スラムに居た者たちだ。立派になって・・・。と、いうのもおかしいけど、ホームで仕事を始めてから、変わったとは聞いていたけど、こんなに変われるのだな。前は、良くても”チンピラ”だったけど、今では”代官”と言っても通ってしまいそうだ。
「そうだな。ベルメルトたちなら、任せられる」
後ろまで、声を上げて喜んでいる。
アルトワ町は、共和国の”町”だ。ここを拠点にするのもいいけど、ダンジョンの周辺を実行支配してもいいのかもしれない。ベルメルトたちが来ているのなら、アルトワ町にこだわる必要がなくなる。
「大将。俺たちに任せてくれ!それで、何をやったらいい?こいつらを殺すのなら・・・」
盗賊の親分にも見える。ベルメルトが凄む。捕えられている者たちが震えるのがわかる。
「いや、こいつらには使い道がある」
「使い道?」
「アル!」
「何?」
「ベルメルトたちを連れて、アルトワ町には立ち寄らないようにしてダンジョンまで移動してくれ」
「うん。いいけど・・・」
「どうした?」
「道が・・・」
「あぁそうか、エイダを連れて行ってくれ、エイダなら、迷わないだろう」
「うん!」
アルバンが、馬車に走るのを見送ってから、ベルメルトが立ち上がった。
「大将。それで、本当に俺たちにやらせたいのは?」
「あぁ簡単に言えば、ダンジョンの実効支配だ」
「ん?実効支配?攻略は終わっているのか?」
「あぁ最下層まで、俺とアルの二人で攻略できた。難易度は、それほどでは無かったが、今は難易度が上がっている」
「ハハハ。わかった。持ってきた物資を使って、実効支配をすればいいのか?」
「そうだ。少しだけ試したいことがある」
「試したいこと?」
「そうだ。ベルメルトたちは、ダンジョンについてどこまで知っている?」
ベルメルトだけではなく、ウーレンフートから来ていた者が首をひねる。
話を聞くと、通り一遍の内容だけが伝わっている。最下層に関しての話や、ウーレンフートにあるようなサーバルームは伝わっていない。当然だけど、噂話でも出ているのかと思ったが、出ていないようだ。
アルトワのダンジョンを攻略して、新しく気が付いたのは、ダンジョンは地上部にも伸ばせることだ。地上に、ダンジョンを作る。内容は、よくわからないが、地上にダンジョンの機能を使った建物が設置できる。
ウーレンフートでは限定的だったので、あまり意味は無かったが、アルトワのダンジョンでは意味が出て来る。
実効支配を行う時に、ホームの設置が楽にできるのだ。この場所で説明をしても、理解ができないだろうし、アルトワ町の者たちに余計な情報を与えるつもりはない。
「わかった。そこで捕まえた者たちは、ダンジョンの攻略を行わせる」
「え?あっ・・・」
ベルメルトは解ったようだが、捕えられている者たちは理解が出来ていない。
正直、この場で殺されても文句が言えない奴らだけど、ここで殺しても、なんのメリットにもならない。ダンジョンの中なら、多少のメリットにもなるし、ドロップアイテムを拾ってきたら、ラッキーくらいには使えるだろう。ベルメルトも、俺のいいたいことが解ったのだろう。少しだけ顔を引き攣らせている。
戻ってきた、アルバンを先頭に、ダンジョンに向かってもらう。
俺は、馬車に戻って、端末を取り出す。
尋問はまだ続いている。野盗の生き残りや、町長たちと一緒にいた生き残りも、ベルメルトに預ける。うまく利用してくれるだろう。
到着まで、一日くらいだろう。
町は無理でも、砦くらいなら構築できそうだ。
ウーレンフートから必要な物を融通すればいい。
宿屋になりそうな建物と、ダンジョンの入口を覆うようにホームの建物を作成する。
砦は、少しだけ形にこだわって、六芒星にしよう。六芒星の三角形の頂点同士を塀で繋いで、水堀を作成する。水は、ダンジョンから供給して、ダンジョンに返すようにすればいい。
入口を作り忘れた。六芒星だと入口が難しい。適当でいいかな。攻められても困らないようにしておけばいい。塀の上には、バリスタを配置しよう。全部で、50門も用意すれば防御は大丈夫かな?
塔も立てておこう。
楽しくなってきた。砦の中には、畑になるような場所を作ろう。あとは、家にしておけばいい。店として使えそうな建物だけを集めた場所と、鍛冶仕事ができるような場所を分けて設置する。1,000人くらいが生活できる場所にすれば十分だな。
街道は、ベルメルトたちが考えればいい。
本当は、アルバンをダンジョン町においていきたいけど・・・。説得は、無理だろう。
カルラとクォートの尋問を聞いていると、共和国が”腐っている”と思える。
よそから来た商隊を襲うのは当然なことだと思っているようだ。他でもやっているから、当然自分たちにも権利があると言い出している。その権利を行使するのは勝手だが、その結果、捕えられているのだから、それでもあれだけ喚き散らせる感覚がわからない。
もしかして、王国のほうが、意識という一点では”まし”とさえ思えてしまう。同じ、選民意識だけど、共和国の選民意識は自らが”選ばれた”存在だと強固に考えている。王国の貴族たちも似たような感覚だとは思うが、”貴族とは”こういう物だという刷り込みがあるだけ”まし”に思えて来る。
選ばれた人間は、何をしても大丈夫だとすり替えている。王国の腐った貴族と同じか、それ以上の意識だ。
まぁいい。
必要な情報は抜き取れたようだ。
「マスター」
「余罪は?」
「・・・」
解らない。ではなくて、多すぎるようだ。
「カルラ。王国で裁けるか?」
「可能ですが、その場合には、旦那様の身分を・・・」
ライムバッハの名前を出せば可能だということだな。
そこまでする意味もない。
「アルトワ町の町長には、俺たちを優遇するのなら、生かしておこう。町に連れて行って、全部の罪を暴露しろ。クォートとシャープ。頼む」
二人が、恭しく頭を下げる。
アルトワ町の町長は、生かしておくことで、使い道がある。
隣町の町長は、生かしておく意味が一切ない。
「カルラ」
「はっ」
カルラも、解っていたのだろう。
アルトワ町の町長の目の前で、隣町の町長の首を切る。血が噴き出してくる。そのまま、前に倒れ込んで、数回、身体を弛緩させてから、動かなくなった。死んだのは、誰の目にも明らかだ。
「カルラ。ウーレンフートから来た者たちと一緒に、この遺体と野盗どもを一緒に隣町に届けろ。移動中に襲ってきた、野盗の集団だと言えばいい。この町長は、野盗として処理する。共和国が、どうするのか見てみよう」
「かしこまりました。町長が指揮をしていたことにしますか?」
「必要ない。一緒に襲ってきたから、倒したと言えばいい」
「わかりました」
さて、俺は、ユニコーンとバイコーンと一緒に隣町に移動だな。
0
お気に入りに追加
306
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~
北きつね
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。
ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。
一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。
ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。
おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。
女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。
注)作者が楽しむ為に書いています。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。
職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~
新米少尉
ファンタジー
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません」
多くの者達が英雄を目指す中、彼はそんなことは望んでいなかった。
ただ一つ、自ら選択した道を黙々と歩むだけを目指した。
その道が他者からは忌み嫌われるものであろうとも彼には誇りと信念があった。
彼が自ら選んだのはネクロマンサーとしての生き方。
これは職業「死霊術師」を自ら選んだ男の物語。
~他のサイトで投稿していた小説の転載です。完結済の作品ですが、若干の修正をしながらきりのよい部分で一括投稿していきますので試しに覗いていただけると嬉しく思います~
黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》
Siranui
ファンタジー
そこは現代であり、剣や魔法が存在する――歪みきった世界。
遥か昔、恋人のエレイナ諸共神々が住む天界を焼き尽くし、厄災竜と呼ばれたヤマタノオロチは死後天罰として記憶を持ったまま現代の人間に転生した。そこで英雄と称えられるものの、ある日突如現れた少女二人によってその命の灯火を消された。
二度の死と英雄としての屈辱を味わい、宿命に弄ばれている事の絶望を悟ったオロチは、死後の世界で謎の少女アカネとの出会いをきっかけに再び人間として生まれ変わる事を決意する。
しかしそこは本来存在しないはずの未来……英雄と呼ばれた時代に誰もオロチに殺されていない世界線、即ち『歪みきった世界』であった。
そんな嘘偽りの世界で、オロチは今度こそエレイナを……大切な存在が生き続ける未来を取り戻すため、『死の宿命』との戦いに足を踏み入れる。
全ては過去の現実を変えるために――
伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。
帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~
北きつね
ファンタジー
世界各国から、孤児ばかり300名が消えた。異世界に召喚されたのだ。
異世界召喚。
無事、魔物の王を討伐したのは、29名の召喚された勇者たちだった。
そして、召喚された勇者たちは、それぞれの思い、目的を持って地球に帰還した。
帰還した勇者たちを待っていたのは、29名の勇者たちが想像していたよりもひどい現実だった。
そんな現実を受け止めて、7年の月日を戦い抜いた召喚勇者たちは、自分たちの目的を果たすために動き出すのだった。
異世界で得た仲間たちと、異世界で学んだ戦い方と、異世界で会得したスキルを使って、召喚勇者たちは、復讐を開始する。
魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~
月見酒
ファンタジー
俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。
そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。
しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。
「ここはどこだよ!」
夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。
あげくにステータスを見ると魔力は皆無。
仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。
「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」
それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?
それから五年後。
どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。
魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!
見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる!
「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」
================================
月見酒です。
正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが
アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。
右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。
青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。
そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。
青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。
三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。
【登場人物紹介】
マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。
ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。
クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。
ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。
デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。
ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。
ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。
ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。
ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。
【お知らせ】
◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。
◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。
◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。
◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。
◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。
◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。
◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。
※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる