117 / 178
第五章 共和国
第十六話 準備
しおりを挟むアルバンの武器を作った。
結局、投げナイフは諦めた。作成は可能だったが、単価があまりにも高くなってしまう。同じ単価なら、違う武器を作ったほうがいい。
アルバンに、戯れで作った多節棍を見せた所、何が気に入ったのか解らないが。多節棍を主武器に変更すると言い出した。
武器として考えると取り扱いは難しいが、難しい部分は、プログラムの補助を組み込むことで対処を行った。複雑な動きは、アルバンの訓練が必要になってしまったが、プログラムの補助を得て、アルバンの思い通りに動かすことができた。
単価で考えると、投げナイフで10本くらいのコストが必要になってしまったが、右手と左手で二つの多節棍を使うことで、アルバンの戦闘力は飛躍的に上がった。見た目はナイフのように作成した。釣り竿のように、ナイフの形状から多節棍に変わっていくような作りだ。
プログラムもアルバン用に少しだけ工夫した。
俺が使うのなら、複雑な仕組みだとしても、都度パラメータの入力を行ってもよかったのだが、試しに使わせたところ、考えてしまって、戦闘では使えないと判断した。起動に時間が掛かってしまうのだ。
パラメータは、”強い”・”普通”・”弱い”の三パターンに絞って、属性は一つの多節棍で二つに絞った。これ以上は、アルバンの対応が難しいと判断した。相性が良い属性を付与するプログラムを作成して、スイッチを触りながら、パラメータで強さを渡すと、多節棍が属性を纏う。
多節棍の動きは、プログラムは複雑になったが、アルバンの負担を減らす方向にした。
元々が、多節棍は動きが不規則になるのが、相手を惑わす形になる。なので、プログラムしてしまうと、規則性がある動きになってしまうのだが、アルバンが操るのは、先端の部分のみにした。それ以外は、アルバンが操っている先端部分を補助するようなプログラムにした。これが面倒だった。形にはなったが、まだ実践に本格投入できる状況ではない。
「アル。一応、形にはなってきたが、最終調整がまだできていない」
「えぇ兄ちゃん。これで十分だよ。戦えるよ?」
「ダメだ」
アルバンから、多節棍を取り上げて、最終調整を行う方法を考える。
実際に、俺が使っても意味がない。俺では、プログラムの中身を理解して、無難な動きをしてしまう。動作確認にはなるが、問題点の洗い出しには向かない。
「そうだ!アル。近くに、発生したばかりのダンジョンがあると言ったよな?」
「え?あっうん。どのくらい前に産まれたのかわからないけど、若いと思うよ?」
若い?
ダンジョンの表現方法か?
「俺とアルだけで、潜っても大丈夫か?」
「うん。余裕だと思う。おいらだけだと、状態異常になってしまうと、大変だけど、兄ちゃんが一緒なら、状態異常も怖くない」
「そうか、罠の可能性もあるよな?エイダを連れていくか?」
「うん!それなら、制覇もできると思う!」
「そうか、朝早く出れば、夜明け前にはダンジョンにアタックできるか?」
「うん!」
「それなら、昼くらいまで探索をして、帰ってくる感じで考えてくれ」
「わかった。食事は?」
「一応、持っていこう。武器は、多節棍を主に使ってくれ、予備の短剣も忘れるなよ」
「うん!ありがとう!」
アルバンと明日の予定を決めて、クォートに伝える。
予定では、明日にはカルラが戻ってくるのだが、1-2日程度は遅れる可能性が示唆されている。
ウーレンフートからは先ぶれも来ていないから、急に明日に到着はない。
”エイダ。アルから聞いているだろうけど、明日は俺たちに付き合ってくれ、プログラムの解析とログの確認を頼む”
エイダからは了承の返事がある。アルバンが、エイダに状況を説明している最中だ。
ダンジョンの位置を地図上に表示している。
正しい位置は、現地に到着してから微調整する必要はあるが、方向さえわかっていれば、あとはエイダが探せるだろう。
俺も、サーチを使えば探し出せるだろう。
慢心は禁物だが、今回に関していえば問題はないだろう。
翌朝というか、闇夜が少しだけ明るくなりかけた時間に、シャープに起こされた。
「旦那様」
「ん?あぁそんな時間か?まだ、朝にもなっていないよな?」
「はい。アルバン様がすでに準備を完了されています」
「ふぅ・・・。わかった。シャープ。悪いけど、何か暖かい飲み物を頼む」
「かしこまりました。アルバン様の分も用意いたしますか?」
「そうだな。軽く食べられる物も頼む」
「はい」
ベッドから起き上がって、身支度をして、会議を行う部屋に移動すると、アルバンとエイダが待っていた。
「兄ちゃん。おはよう!」
「アル。まだ、朝じゃなくて、夜だぞ?」
「えぇもう明るくなってきたから、朝だよ!それに、兄ちゃんも起きたから、行こう!」
「わかった。わかった。シャープが朝食を持ってきてくれるから、食べたら行こう」
「・・・。わかった」
「アル。食事は大事だぞ。それに、朝になっていないと、森の中は暗くて危険だぞ?」
「うぅぅ・・・。わかった」
アルバンの説得には成功したようだ。
エイダも心なしかほっとした表情をしている。もしかしたら、寝ていないのか?
遠足前の小学生のように、今日が楽しみで寝られなかったのかもしれない。エイダは寝なくても大丈夫だけど、付き合わされるのは、辛かったのだろう。食事の最中くらいはリフレッシュをさせてあげたい。具体的に何ができるのか解らないけど、アルバンからエイダを引き放つ理由にはなるだろう。
「アル。エイダをメンテナンスする」
「え?あっうん。そうだよね。ダンジョンに入るから、いつものエイダとは、魔法を変えないと危ないね」
「あぁ」
エイダはパラメータ処理を複雑にしても、プログラムでプログラムを起動するので、混乱して起動が遅くはならない。人とプログラムで比べるときの優位点だ。あと、パラメータを間違えないので、指示をショートカットのように設置ができる。
普段の御者台に座っている時よりも攻撃性が強いショートカットに編成を変えておく、防御の数を減らす代わりに、回復系のプログラムをショートカットに加える。そのあとで、情報整理のために、リスタートを行う。
ショートカットの確認を行う。省略できるパラメートのデフォルト値を攻撃よりに設定を変更する。
「エイダ!」
『マイマスター。設定の確認を行います』
「始めてくれ」
初期値やショートカットやプログラムに矛盾がないか自動チェックを行う。
バグだしではなく、明らかに実行が不可能な設定を見つけ出すことができる。
エイダの自動チェックが始まったと同時くらいに、シャープが朝食を持ってきた。
「兄ちゃん?」
「ん?」
「エイダは何を?」
「簡単にいうと、人で考えると・・・。そうだな、寝ている状態と思えばいい」
「え?寝るの?」
「寝る必要はないけど、エイダの中に貯めこまれている情報は、そのままにしておくと古い物から消されてしまう」
「へぇ・・・」
「それで、データの整理をしなければならない。人も同じで、寝るときに記憶が定着する。らしい」
「そうなの?」
「あぁ」
「ふぅーん。それで、エイダは、寝ることで、記憶を整理しているの?」
「そうだな。エイダの場合には、全部の記憶を、コピーしていると思ったほうがいいかな」
「へぇ・・・。どのくらいは、覚えていられるの?」
「そうだな。平常時だと、4-50日は平気だけど、戦闘とか人が多い場所・・・。王都とかだと、30日が限界かな?まぁ10日に一度、寝れば十分だと覚えておけばいい」
「わかった!安全を見るなら、7日に一度、おいらと一緒に寝ればいいよね?」
「そうだな。安全の確保が最優先だから、多少のオーバーなら大丈夫だからな」
「わかった!」
アルバンが納得したのなら、これ以上の説明は混乱を招くだけだな。
シャープを見ると、シャープも頷いているから大丈夫だろう。
食事が終わって、飲み物のお代わりを飲んでいたら、エイダの処理が自動チェックとバックアップが終了した。
「さて、アル。行くか!」
「うん!行こう!ダンジョン。ダンジョン。ダンジョン!」
なぜか、テンションが爆上がりのアルバンの頭を撫でてから、エイダをアルバンに渡す。
武器と荷物の確認をして、村から見えない場所をつたって、村の外に出る。
今日も、俺とアルバンは宿の中に居てもらう。
そのために、クォートとシャープが残ることになっている。だから出もないが、俺とアルバンが宿の中に居るのだから、馬車も動かさない。俺たちは、徒歩でダンジョンに向かった。
0
お気に入りに追加
306
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~
北きつね
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。
ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。
一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。
ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。
おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。
女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。
注)作者が楽しむ為に書いています。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。
職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~
新米少尉
ファンタジー
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません」
多くの者達が英雄を目指す中、彼はそんなことは望んでいなかった。
ただ一つ、自ら選択した道を黙々と歩むだけを目指した。
その道が他者からは忌み嫌われるものであろうとも彼には誇りと信念があった。
彼が自ら選んだのはネクロマンサーとしての生き方。
これは職業「死霊術師」を自ら選んだ男の物語。
~他のサイトで投稿していた小説の転載です。完結済の作品ですが、若干の修正をしながらきりのよい部分で一括投稿していきますので試しに覗いていただけると嬉しく思います~
帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~
北きつね
ファンタジー
世界各国から、孤児ばかり300名が消えた。異世界に召喚されたのだ。
異世界召喚。
無事、魔物の王を討伐したのは、29名の召喚された勇者たちだった。
そして、召喚された勇者たちは、それぞれの思い、目的を持って地球に帰還した。
帰還した勇者たちを待っていたのは、29名の勇者たちが想像していたよりもひどい現実だった。
そんな現実を受け止めて、7年の月日を戦い抜いた召喚勇者たちは、自分たちの目的を果たすために動き出すのだった。
異世界で得た仲間たちと、異世界で学んだ戦い方と、異世界で会得したスキルを使って、召喚勇者たちは、復讐を開始する。
魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~
月見酒
ファンタジー
俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。
そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。
しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。
「ここはどこだよ!」
夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。
あげくにステータスを見ると魔力は皆無。
仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。
「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」
それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?
それから五年後。
どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。
魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!
見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる!
「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」
================================
月見酒です。
正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。
黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》
Siranui
ファンタジー
そこは現代であり、剣や魔法が存在する――歪みきった世界。
遥か昔、恋人のエレイナ諸共神々が住む天界を焼き尽くし、厄災竜と呼ばれたヤマタノオロチは死後天罰として記憶を持ったまま現代の人間に転生した。そこで英雄と称えられるものの、ある日突如現れた少女二人によってその命の灯火を消された。
二度の死と英雄としての屈辱を味わい、宿命に弄ばれている事の絶望を悟ったオロチは、死後の世界で謎の少女アカネとの出会いをきっかけに再び人間として生まれ変わる事を決意する。
しかしそこは本来存在しないはずの未来……英雄と呼ばれた時代に誰もオロチに殺されていない世界線、即ち『歪みきった世界』であった。
そんな嘘偽りの世界で、オロチは今度こそエレイナを……大切な存在が生き続ける未来を取り戻すため、『死の宿命』との戦いに足を踏み入れる。
全ては過去の現実を変えるために――
伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが
アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。
右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。
青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。
そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。
青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。
三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。
【登場人物紹介】
マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。
ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。
クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。
ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。
デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。
ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。
ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。
ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。
ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。
【お知らせ】
◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。
◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。
◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。
◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。
◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。
◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。
◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。
※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる