異世界でもプログラム

北きつね

文字の大きさ
上 下
99 / 178
第四章 ダンジョン・プログラム

第十四話 エヴァとギルと・・・

しおりを挟む

「エヴァ!」

「あ!ギルベルト様」

「辞めてくれよ。友達の嫁さんに、”様”付けされると、気持ちが落ち着かない。”ギル”で頼む」

 一気に言い切るが、エヴァの顔色が赤くなっていくのがわかる。
 アルノルトの”嫁”と言われるのは慣れないようだ。実感が無いだけかもしれないが、俺たちの中では既定路線だ。

「いえ・・・。そうですね。ギルさん」

「まだ、昔のクセが抜けないな。そうだ!エヴァ。奴から、手紙と贈り物を預かってきた」

「え?」

 エヴァは、すでに”聖女”と呼ばれている。
 回復だけではなく、アンデット系の魔物に対する優位な魔法を極めている。学校では、口にしていないようだが”アルノルト”のためだ。アルの情報は、エヴァに定期的に流している。ユリウス・・・。違うな、我らのトップクリスからの命令で、アルの情報を届けて流している。知らなければいい情報もあるとは思うが、女性陣は違った解釈をしている。俺とユリウスは、アルが危ない目に有った情報は隠すべきだと思っていた・・・。

 アルが作った腕輪を渡す。
 シルバーに見えるが、総ミスリル製だ。アルの考えがわからないが、アルだから問題はないと考えた。アルの従者となった者から、依頼を受け取ったときには”バカ”なのかと思ったが、なぜかエヴァならアルの真意を見抜くのではないかと思ってしまった。

「あ・・・。ありがとうございます」

 腕輪を受け取って、内側を指で触り始める。
 気がついているのだろう?俺が説明をしたほうが良いのだろうか?

「ギルさん。少しだけ待っていただけますか?」

「どうした?大丈夫だぞ?この後は、ディアナに会って行くだけだからな」

「そうですか、それなら少しだけ急いで書きますので、アルノルト・・・。違った、マナベ様にお礼の手紙を渡してください」

「え?エヴァ?お礼?あっそうか、腕輪はそれだけの品物だな」

「そうですね。腕輪には・・・」

 アルの奴!何か、仕掛けをしていると思っていたけど、エヴァにだけわかるようにしていたようだ。
 魔石を組み込んでいたのは知っていたが、エヴァの魔力に反応してメッセージが念話で伝わるようにしていたとは、アルの奴に文句の1つや2つや3つや4つや5つくらい並べ立ててやりたい。たしかに、見た目は地味な腕輪だ。低い鑑定スキルでは、偽装された情報しか読み取れない。
 それは、1万歩譲って・・・、納得しよう。宝石類を腕輪の中に仕込んだのにも理由があったのか・・・。魔法のトリガーにしているのか・・・。
 国宝に指定されるような腕輪を届けさせないで欲しい。それに、偽装を施して”銀製”の腕輪にしか見えない物にしないで欲しかった。アルの奴は、エヴァ以外にも女性陣にペンダントトップやイヤリングを作った。エヴァ用とは違って、ミスリル製に見える状態の物だ。俺たちから代金を徴収していたが、エヴァの腕輪の話を聞いた、女性陣からの視線が痛かった俺たちは、アルに頼んで作ってもらった。

 エヴァの説明は、魔石と宝石を使った待機型の魔法の話だ。

「エヴァ?」

「はい。なんでしょうか?」

「奴から渡された宝石は、ダイヤモンドdiamond/エメラルドemerald/アクアマリンaquamarine/ルビーruby/ユークレースeuclase/サファイアsapphire/トパーズtopazだ。サイズを調整して、順番まで指定してきた。奴にしては珍しく、細かく、間違えないように指示をしてきた。エヴァ。もう一度だけ聞く、奴から何か伝言はなかったのか?」

 俺の言葉を聞いて、エヴァが一気に赤くなる。
 やはり、アルからのメッセージなのだろう。深く聞くのは控えたほうがいいかもしれないが・・・。今日は、突っ込んで聞いておかないと・・・。女性陣からの質問に答えられない。

 クリスだけではなく、ディアナやザシャやイレーネから、強く言われている。
 学校で、エヴァをなんとか自分の陣営に取り込もうとする者たちが湧き出ているらしい。特に、男爵や豪商が強硬手段に出る可能性がある。それだけではなく、可愛くなっているエヴァを妾にしようと動いているバカどもがいると教えられた。
 牽制の意味もあり、エヴァには”男”がいると印象づける必要がある。腕輪はいい贈り物だ。
 俺が皇太孫派閥の人間だと周知されている。聞き耳を立てている連中も”マナベ”が誰なのかわからない可能性があるが、俺たちの派閥にいる人間だと思う可能性が高い。もしかしたら、”マナベ”は、ユリウスが市井にいるときの偽名だと思う可能性だって有る。

「ギルさん」

 言い淀むエヴァを見て確信した。

「エヴァ。(いいか、本当のことを言う必要はない。ただ、周りで聞き耳を立てている連中に、教えてやればいい)わかったか?」

 頭を縦に振るエヴァを見て、同じ質問を繰り返した。今度は、エヴァも解っていたのか、先程よりは顔を上げて応えてくれた。
 しっかりと、マナベ様と口に出している。宝石の意味は教えてくれなかったが、高価な宝石が埋め込まれていること、それにより魔法の発動を助ける役割をもたせてあること、”銀”に見えるが実は”総ミスリル”であることを説明している。宝石と魔石をあしらった杖に匹敵する魔法発動媒体になっていると説明した。
 聞き耳を立てている連中にはこれで十分だろう。

 それに、俺の商会が、ウーレンフートに立ち上がったことも調べればすぐに判明するだろう。その上で、商会が”とある”ホームと親密になっていることも、ウーレンフートで少しでも聞き込みをすればわかってしまう。そのホームのオーナーの名前も・・・。
 今は、これで十分だ。

 俺は、暴力を使われると、アルとエヴァを守ることは不可能だ。なら、俺が得意とすることでアルとエヴァを守る。政治的な分野は、ユリウスとクリスに任せればいい。腐っても皇太孫だ。権力に近い奴らほど、ユリウスの言葉に従うだろう。アルノルトなら、ユリウスとクリスが守れば十分だが、マナベとなってしまうと話が変わってくる。冒険者マナベの後ろ盾が必要だ。ユリウスでは、マナベとアルノルトが結びついてしまう可能性がある。だから、俺が・・・。俺の商会が、冒険者マナベのスポンサーだと思わせればいい。
 俺が、ウーレンフートで存在感を出せば、有象無象はどこにいるのかわからない冒険者マナベではなく、俺に集ってくる。
 ユリウスたちが、アルノルトを守るのなら、俺はマナベを守る。

「ギルさん。ありがとうございます。それから、手紙をお願いします。マナベ様に届けてください。あと・・・。”お待ちしています”とお伝え下さい」

 エヴァは、聖女らしからぬ、とろけた表情で腕輪を触りながら、”マナベ”とはっきりと聞こえるように、発言している。
 俺にではなく、聞き耳をたてている連中に向けての発言なのだろう。”待っている”とエヴァ聖女に言わせる人物がいるのだと知らせることができれば十分な成果だろう。

「手紙は、ウーレンフート経由になるけどいいよな?」

「はい。任せします」

 今のエヴァを見て、横槍を入れてくる無粋な奴が居るとは思えないが、世の中にはバカはどこにでも居る。
 俺の役目は、そのバカたちをウーレンフートに釘付けにすることだ。エヴァには、クリスからアルの動向が伝えられている。アルが、ウーレンフートに居ないこともすでに伝わっているのだろう。

「エヴァ。他に、何か伝言はあるか?」

「いえ・・・。あっユリウス様への伝言でも大丈夫ですか?」

「あぁウーレンフートに寄ったら、領都に行く予定になっているから大丈夫だ」

「よかった・・・」

 エヴァは、アルからの贈り物である腕輪を触りながら、ユリウスへの伝言を話し始める。
 俺やクリスが掴んでいる情報の裏付けになるような物では無いが、確信に近づく情報だ。エヴァも、アルの為に戦っている。神殿勢力は、貴族に寄っている連中が多い。金払いがいいからだ。その中で、エヴァは数少ない庶民派に分類される。貴族派閥の中には、帝国に情報を流している者たちが居る。
 その中で、エヴァは献身的に庶民を助けて、貧民を癒やしている。聖女と呼ばれる所以である。しかし、エヴァの行動はすべてアルの為だ。クリスと相談しながら、効率よくライムバッハ家の味方を増やしている。そうなると、自然と情報が流れてくるのだ。エヴァの歓心を買おうとして情報を持ってくる者。エヴァに下心丸出しで情報を売ろうとする者。動機は、いろいろだが、商人や貴族の中で流れる情報とは別に、神殿に流れる情報が集まってくる。

 俺も、クリスも、ユリウスも、そして、エヴァも、一人の寂しがり屋で、強情者の男を助けるために動いている。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

おっす、わしロマ爺。ぴっちぴちの新米教皇~もう辞めさせとくれっ!?~

月白ヤトヒコ
ファンタジー
 教皇ロマンシス。歴代教皇の中でも八十九歳という最高齢で就任。  前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。  元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。  しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。  教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。  また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。 その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。 短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。

勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。  ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。  一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。  ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。  おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。  女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。

職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉
ファンタジー
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません」 多くの者達が英雄を目指す中、彼はそんなことは望んでいなかった。 ただ一つ、自ら選択した道を黙々と歩むだけを目指した。 その道が他者からは忌み嫌われるものであろうとも彼には誇りと信念があった。 彼が自ら選んだのはネクロマンサーとしての生き方。 これは職業「死霊術師」を自ら選んだ男の物語。 ~他のサイトで投稿していた小説の転載です。完結済の作品ですが、若干の修正をしながらきりのよい部分で一括投稿していきますので試しに覗いていただけると嬉しく思います~

黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》

Siranui
ファンタジー
 そこは現代であり、剣や魔法が存在する――歪みきった世界。  遥か昔、恋人のエレイナ諸共神々が住む天界を焼き尽くし、厄災竜と呼ばれたヤマタノオロチは死後天罰として記憶を持ったまま現代の人間に転生した。そこで英雄と称えられるものの、ある日突如現れた少女二人によってその命の灯火を消された。  二度の死と英雄としての屈辱を味わい、宿命に弄ばれている事の絶望を悟ったオロチは、死後の世界で謎の少女アカネとの出会いをきっかけに再び人間として生まれ変わる事を決意する。  しかしそこは本来存在しないはずの未来……英雄と呼ばれた時代に誰もオロチに殺されていない世界線、即ち『歪みきった世界』であった。  そんな嘘偽りの世界で、オロチは今度こそエレイナを……大切な存在が生き続ける未来を取り戻すため、『死の宿命』との戦いに足を踏み入れる。    全ては過去の現実を変えるために――

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~

北きつね
ファンタジー
 世界各国から、孤児ばかり300名が消えた。異世界に召喚されたのだ。  異世界召喚。  無事、魔物の王を討伐したのは、29名の召喚された勇者たちだった。  そして、召喚された勇者たちは、それぞれの思い、目的を持って地球に帰還した。  帰還した勇者たちを待っていたのは、29名の勇者たちが想像していたよりもひどい現実だった。  そんな現実を受け止めて、7年の月日を戦い抜いた召喚勇者たちは、自分たちの目的を果たすために動き出すのだった。  異世界で得た仲間たちと、異世界で学んだ戦い方と、異世界で会得したスキルを使って、召喚勇者たちは、復讐を開始する。

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...