異世界でもプログラム

北きつね

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第四章 ダンジョン・プログラム

第十三話 ユリウスの覚悟

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「クリス。カルラからの報告書が届いたのか?」

「えぇギルベルト様の商会が届けてくれました」

「それで?アルは?」

 俺は、アルノルトに勝つためなら、皇太孫の地位なぞ妹に譲り渡しても良いと思っている。
 期待されているのは解っている。だが、俺は・・・。

「ユリウス様?」

「すまん。バカの顔を思い出していただけだ」

「そうですか・・・。カルラからの報告では、アルノルト様は共和国に行くつもりのようです」

「それは聞いた。他にも何か有るのだろう?」

 カルラからの報告は、”孤児”や”農民”に関しての”噂”だ。

「孤児が消えている?」

「はい。カルラもまだ全容がつかめていないようです」

「わかった。調査を進めてくれ、それで?」

「はい」

 アル・・・。お前が、きにする必要がない。俺の仕事を残しておいて欲しい。

 『ウーレンフートのホームが孤児だけではなく、農民の受け入れを行っている。犯罪歴がなければ、誰でも構わない』
 『辺境伯ヘーゲルヒ家が、寄り子の貴族に税を更に上げるように指示した』

 それに、マナベ商会の権利をホームに渡す?意味が解っているのか?
 いや、解っていてやっているのだろう。ウーレンフートの価値が1段どころではなく上がったことを意味する。それだけではない。マナベ商会が取り仕切っているのなら問題はないが、ホームが取り扱うとなると・・・。

「クリス!」

「はい。ギルベルト様も解っておられます。すでに、ホームにマナベ商会の役割を移動させております」

「そうか・・・。しかし・・・」

「はい。アルノルト様に、”また”借りが出来てしまいました」

「あぁ・・・。借りを返す前に、新しい借りか・・・。そのためにも、貴族関連の情報を集めよう」

 カルラ経由だが、俺たちを頼ってくれている。アルでは難しいと判断したのだろう。俺たちならできると、俺たちを頼ってくれた。

「はい。エヴァンジェリーナ様にもご連絡しておきます」

「頼む」

 クリスが何を言いたいのかはわからない。解らないが、カルラも容赦がない。『孤児や農民や女は、帝国に高値で売れるから、税が払えなければ差し出せ』と噂を流すつもりらしい。噂を聞いた孤児や農民がウーレンフートに押し寄せるだろう。

「それにしても・・・」

 報告では、鍛冶の村は”森”になってしまったらしい。意味がわからなかったが、詳細を取り寄せて確認をしたて初めて異常性に気がついた。まだ調査段階だが、ウーレンフートの周りは、魔法が浸透しやすい状態になっている。今まで気が付かれていなかったのだが、アルが大手ホームを掌握して、ウーレンフートを実質的に支配したことで、今まで行われていなかった”農業”が行われるように変わった。街の中は、一般的な”農地に適した場所”と同程度なのだが、街の城壁から少しだけ離れた場所では、農作物が異常な成長を見せた。カルラからの報告を読んで、ギルが検証を行った。ザシャにも協力してもらって、検証を行った。
 魔力が浸透している場所では、作物が異常な速度で育ったり、変異したり、大きく育つことが報告されていた。通常は、強い魔物が居る場所が該当するために、調査も検証も出来なかった。強い魔物が居る場所は、魔物からあふれる魔力が浸透して、自然と影響を与えていると考えられていた。

 人が持つ程度の魔力では影響は出ないが、ダンジョンが持つ大量の魔力が周りに影響を与えると、考えられていた。しかし、検証されてこなかった。ダンジョンが資源であり、領地や国を潤す場所だと考えていたためだ。
 ウーレンフートは、城壁を広げるというアイディアも有ったが却下されている。
 せっかく、城壁の近くで”農業”が行える状況を変えたくないと考えたのだ。アルのホームが主体となり、ウーレンフートの周りでは作物が育てられている。質がよい野菜が、取れ始めているとカルラの報告にも書かれている。

「はい。ウーレンフートだけではなく、ライムバッハ領にとっても・・・」

 そうだ。
 ライムバッハ領は、たしかに広大な領地だが、食料の自給率はそれほど高くない。特に、他の領と接している街は、税も安いことから、不作が発生した年には大量の移民で溢れかえってしまう。それらの移民を養うために、歴代のライムバッハ辺境伯は、私財を切り崩して内部の街から、食料を運んで対処を行っていた。それだけで足りないときには、領都に近い街や村の者たちも、辺境伯の求めに応じて余剰の作物を救援物資として放出している。
 領内からの批判は上がっていないが、自給率が上がってウーレンフートで作物が取れれば、救援物資を減らすこともできる。

「出荷はまだ先だな?」

「はい。ギルベルト様が中心になって、ウーレンフートに入り込んでいた害虫を駆除しています。それが終わり次第、ウーレンフートで販売を始める予定になっています」

 今まで、食料を消費するだけだったウーレンフートが、食料の生産拠点となれば、ライムバッハ領として大きなメリットになる。周辺の村や街の役割も変わってくる。
 ギルが排除している、他の貴族が送り込んできていた商人たちが駆逐できれば、食料の放出が開始できる。周辺の村への支援策の実行が可能になる。

「他には?」

「はい。カルラからの報告ではなくて・・・」

「大丈夫だ」

「はい。アルバンが、ベア系の魔物と一緒に居るという報告が上がっています」

「ん?しかし、アルバンはテイマー系やサモナー系のスキルはないよな?」

「はい。ありません。そのベア系の魔物ですが、大きさは、アルバンの膝の高さ程度で、どうみても”ぬいぐるみ”にしか見えないと書かれています」

「は?」

「それだけではなく、アルバンが”言葉で命令”をしているようだと書かれています。実際には、”話しかけている”と考えて良さそうです」

「クリス。俺がバカなのか、理解できない。今の話を聞くと、”ベア型のぬいぐるみが自立して動いていて、自我もある”と聞こえるのだが?」

「はい。その解釈で間違っていないと思います」

「アルが何か作ったのか?」

「その可能性は否定できません。それから・・・」

「まだあるのか?」

「はい。ギルベルト様経由ですが、アルノルト様が作らせた馬車が完成して、アルバンとベアが、テスト走行を行ったようです」

「そうか、アルが前に言っていた馬車が出来たのか・・・。俺も欲しいと思っていたのだが・・・」

「カルラから、馬車の報告が来ています。販売は、”自由にしていい”ということです」

「アルが?」

「はい。それで、馬車の販売は、”私たちに任せる”と、言われました」

「ん?販売?俺たち?」

「はい。偶然見ていた貴族や商人から、ホームだけではなく、ギルベルト様の所にまで問い合わせが来たそうです」

 たしかに、ホームとギルの商会は別だが、事情を知っている者も多い。問い合わせが行くのは当然の成り行きだ。

「ギルからも問い合わせが来たのか?」

「はい。来ました。今、購入を希望する者たちの一覧を作成してもらっています」

「わかった。ライムバッハ家に利益になるように動け」

「はい。ギルベルト様からも同じ様に言われています」

 やはり、ギルもアルへの”借り”を返したいと思っているのだろう。返せる”借り”ではないが、少しでもアルが望む形に近づけたい。

「それから・・・」

「ん?」

「アルバンがテストしていた馬車なのですが・・・。正確には、馬車と呼べるのかわかりません」

「は?」

「魔馬と呼べばいいのか、一般的に知られている”馬”ではない、何かが・・・」

「ん?馬ではない?それなら、牛型の魔物か?馬型の魔物でも無いのか?」

「いえ、魔物には間違い無いようなのですが、アルバンが”言葉”で命令をしていたようなのです」

「・・・。アルの仕業だと考えていいようだな」

「はい。推測ですが、ベア型の魔物と同種だと思われます」

「そうか・・・。アルバンも、カルラも、ギルも、何も言ってきていないのだな?」

「報告にはありません。しかし・・・」

「わかっている。出現のタイミングを考えれば、アルに原因があると考えるしかないだろう」

「はい」

「・・・。わかった。アルに聞いてもわからないだろうから、カルラに問い合わせだけをしておいてくれ」

「すでに、連絡はしました」

「わかった。これだけか?」

「アルノルト様に関係しそうな報告は以上です。次は、領内に関してですが・・・」

 クリスが居てくれて助かっている。
 ライムバッハ領という辺境の領地だけだが、こんなに大変なのに、王国をまとめると考えたら・・・。アルに任された場所だ、死ぬ気でおさめる。辺境伯に返す時まで、俺が守り抜く。
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