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第三章 ダンジョン
第七十八話 地上で
しおりを挟む転移してきたのは、他の階層から戻ってくる時の同じ場所だ。
周りには誰も居なかった。もしかしたら、深夜帯なのかもしれない。24時間で待機はしているのだが、深夜は冒険者の動きも少ないので、監視員の数が少なくなっている。
カードを示して、外に出る。周りは暗くまだ夜の時間帯だが、東の空が朝焼けに染まりつつ有るので、日の出が近いのかもしれない。
ホームには向かわずに、そのまま、街の外に作った、村に向かう。
村はすでに動き出している。鍛冶職が多いので、昼夜の区別をしないで人が動いている。それに生活スタイルが合わせっているので、朝焼けの時間でも人が動いているようだ。
俺のカードを提示すれば、ウーレンフートと同様に村にも、すんなりと入ることが出来た。
待ち合わせ場所に指定したのは、ホームの出張所だ。場所も以前に来ているので、問題はない。奴隷だった者たちは、問題がない者は全て解放した。そのうえで、この村に住むのなら、見合った給金を支払うように伝えた。紛れ込んでいた、貴族のスパイも排除した。塀を高くして、堀も設置した。鍛冶屋が集まる場所となったので、武器や防具を求める者たちが多く集まっている。
鍛冶屋は、武器や防具以外にも日用品の作成を行っている。ホームで使うために製品を専属で作ってもらっている鍛冶屋も多く有る。
「あっマスター!」
ホームで受付をしているのは、元奴隷だった女の子だ。
奴隷から解放後に、孤児院に入ったのだが、仕事をしたいと言われたので、ホームの受付を担当させている。
「こっちに来ていたのか?」
「はい!鍛冶に興味があったので、こちらで勉強をさせてもらっています」
「そうか、楽しいか?」
「はい!すごく楽しいです。前は、仕事が嫌だったのですが、今はすごく楽しいです。マスターのおかげです!」
「そう言ってもらえると嬉しいけど、俺が渡したのはきっかけだけで、それを掴んだのは君だからな」
「はい!ありがとうございます。これかも、マスターの為に、ホームの為に、そして何よりも自分自身の為にがんばります」
「うん。俺の為とか必要はない。まずは、自分の為に頑張ってくれ」
「はい!ありがとうございます。それで、マスター、何か御用ですか?」
「そうだった。アルバンが来ていると思うけど、いつも、何時くらいに来る?」
「昼前には来ます」
「わかった。待っているよ。どっかに空いている部屋はある?」
「マスターの部屋があります。ご案内します」
必要ないと言っていたのに、作ったのだな。
文句を言ってもしょうがないし、ありがたく使わせてもらおう。
案内された部屋はホームの二階の奥に作られていた部屋だ。調度品は、華美な物はなく好感が持てる作りになっている。
机や資料を置く場所はなく、ソファーとテーブルが置かれているだけだ。会議室に使うには丁度いい作りだ。
「アルバンが来ましたら、通しします」
「うん。お願い。それから、アルバンが誰かを呼びに行くと言ったら、先にそっちを優先させるように言ってくれ、俺はやることがあるから気にしなくていい」
「わかりました。何か、お飲み物やお食事をお持ちしましょうか?」
「そうだな。紅茶があればお願い。食事は、摂ってきたからいいよ」
「わかりました」
受付をしていた女の子は、一礼して部屋から出ていった。
ソファーに座って、FX-870PとW-ZERO3を取り出す。
FX-870Pは使える。BASICでのプログラムも作成出来る。CASLは使えるが、魔法の発動には使えないようだ。ライブラリのコールが出来ない。元々、決められた言語体系で学習(情報処理試験)用のアセンブリ言語だ。しょうがないのだろう。BASICでは、魔法のインターフェースがコール出来る。”RUN”命令で魔法定義したファイルを呼び出すことが出来るようだ。日本語が使えないので、呼び出し時には、アスキー文字で作られた定義だけだが、俺が定義した物も呼び出して実行することが出来る。条件文や繰り返しが使える。それだけで強力な魔法をプログラミング出来る。入力インターフェースが限られているので、条件は自分が主体になってしまっているが、それでも、長々詠唱しなければならない問題は解決する。
それだけではなく、内蔵されているメモリ内に作成したプログラムを保存して”デバッグ”作業が出来るのが嬉しい。C言語モードでも同じようなことが出来る。
楽しくなってきた。
W-ZERO3は、起き出すまで時間が必要だった。
バッテリーも使えるようだ。動き出している。電話帳を確認すると、アイが登録されている。
『もしもし』
昔の癖で、電話だと”もしもし”と言ってしまう。
”マスター?!どうやって!?”
『アイなのか?』
”はい”
『最下層だよな?』
”もちろんです。マスターが、念話で繋がるのですか?”
『あぁ・・・。長くなりそうだから、次に戻った時に、話をするよ』
電話を切ると、アイの言葉が聞こえなくなった。
電話は念話なのか?検証は必要だけど、最下層に居るアイと繋がれたのは嬉しい。念話が無理な場合でも、携帯電話やスマホを探して持たせれば、遠隔地でも話ができる。どの位の距離で念話が成立するのか試しておいたほうがいいだろう。W-ZERO3の中には、ネットワークを必要とする機能は消えているが、W-ZERO3だけで動作する物は残されている。開発環境を用意するのは難しいから、Android系列のスマホが流れ着いていないか確認してみよう。アプリの作成が可能で、転送方法があれば、魔法の発動媒体としての需要はあるだろう。
モバイルパソコンも起動するが、しっかりと使えるようだ。
嬉しく思えてしまう。ただ、ダンジョンから離れてしまっているのが原因だとは思うが、接続のエラーが出てしまっている。よく見ると、ダンジョンの監視用のプログラムが起動していた。タスクマネージャーからプログラムを終了させたら、エラーの表示もなくなった。ウルトラモバイルパソコンでサイズも小さいと言っても、ノートパソコンから比べたら十分に大きい。魔法の発動と考えれば、モバイルパソコンは複雑なプログラムを組めることから候補なのだが、小さいと言っても持ち運ぶのは難しい。戦闘中に、目をパソコンに向けなければならない。戦闘には向かないだろう。拠点防衛には丁度いいのかもしれない。
持ち込んだ、3つの端末が正常に使えたので、実験の第一段階は終了した。
あとは、バッテリーの保ちがどのくらいになるのか調べる。簡単に触って動かした所では、バッテリーが減った様子はない。
ここまで検証した時に、タイミングが良くドアがノックされた。
「マスター。アルバンとカルラです」
「わかった。部屋に入ってもらってくれ」
ドアが相手、二人が中に入ってくる。
「にいちゃん!」
「アルバン。マナベ様でしょ」
「いいよ。アルは、アルだからな。それに、カルラは”はじめまして”だよな?」
「はい。はじめまして、カルラです。今年で17歳です」
「カルラ姉ちゃん。確か、去年も17歳と言っていたよな?」
「アルバン。女は17歳から年を取らないのです」
「え・・・」「アル。カルラが17歳と言っているのだから、17歳だ。いいな」
一つの間違いを指摘したら、10になって文句が返ってくるタイプだ。
「マナベ様。ありがとうございます。概ねの内容は、クリスティーネ様から聞いています。私たちは、まずは何をしたらよろしいのですか?」
「まずは、説明をする。その後で、やってほしいことを伝える。いいか?」
「問題はありません」「うん。わかった」
ダンジョンの最下層までの話を簡潔に説明した。クリスたちを別れてからの攻略は、ホームとして情報を持っておいたほうがいいだろう。30階層以前は駆け足で説明したが、31階層からは丁寧に説明した。
「わかりました。情報は、まとめてホームに渡します。公開してよろしいのですか?」
「大丈夫だ。これで、死者が減るのなら、公開した意味が出てくる」
「かしこまりました。少し・・・。2-3日の時間を頂けますか?」
「わかった。さて、31階層からの話は、丁寧に話をするな。ホームとしても、冒険者ギルドにしても有意義な内容だろう」
「はい。お願いします」
カルラとのやり取りになった。アルは、眠そうにしている。興味はあるが、難しい話が多く頭の処理が追いつかなくなってしまっている。
最下層までの説明を終えて、一息を入れることにした。部屋付きのメイドを呼んで、飲み物を頼んだ。
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