59 / 178
第三章 ダンジョン
閑話 グスタフの憂鬱/チェルソの事情
しおりを挟む(ふぅ・・・なんなのだ。あれは?)
グスタフは、アルノルトが出ていったドアを見つめている。
アルノルトが居なくなった事を確認してから、大きく空気を吸い込んでから吐き出す。自分の緊張を身体から追い出すような仕草だ。
「おい」
ギルドマスターの部屋の1角に向けて声をかける。
「はい」
壁だと思われた場所が開かれて、一人の男が出てきた。
「お前から見て、彼はどう見えた」
「化物です」
「それは?」
男は、グスタフの正面。アルノルトが座っていた所に腰をおろした。
「マスター。奴は、ランドルのパーティーを一人で無力化しました」
「あぁでも、お前でもそれは可能だろう?」
「そうですね。事前準備をして、1対多にならないように誘導して戦えば可能です」
「なら」
「私が言いたいのはそこではありません。正直に言えば、奴がやった事なら、上位者なら可能でしょう」
グスタフは、男が言っている上位者が誰を言っているのか理解している。
しかし、それが一握りの人間である事も理解している。
グスタフや男から見た場合に、アルノルトは一握りの人間と同等の力を持っていると判断した事になる。
「・・・」
「私たちの事はいいですよね」
「あぁ。今は、彼の事を聞きたい」
問われた男は、やはりそうなるのかと思いながら、覚悟を決めてセリフを吐き出す。
「わかりませんでした」
「え?」
「正確にはわかった事だけを書き出せば、貴方もわかると思います」
そう言って、男は懐から一枚の羊皮紙を取り出して、グスタフに渡した。
---
名前:シンイチ・アル・マナベ
魔法制御:0.95
精霊の加護
火の加護:1.01
---
「は?」
グスタフは、渡された羊皮紙をキレイな二度見をした。裏返して、続きが裏に有るのではないかまで考えた。
「ハハハ。そうなるだろう?」
「何かの間違いじゃないのか?」
「間違っていない。鑑定ではそうなっている。嘘だと思うのなら、他の鑑定持ちに見てもらえばいい」
「わかった。お前を疑ったわけじゃない。”なぜ”これで勝てるのかわからなかっただけだ」
男は、グスタフの問に明確な発言を避けるように視線を外した。
自分が書いた物だが、自分でも信じられないのだ。
グスタフの問は男が知りたかった事でもある。
「マスター。奴の戦い方を見たが、正直に言っていいか?」
「もちろんだ」
「奴は、加護を隠蔽している。もしかしたら、偽装しているかもしれない。それなら説明がつく事が多い」
「おい。隠蔽なら、鑑定で見破れるだろう?」
「あぁでも、俺の加護を上回っていたら見破れない可能性がある」
唖然とした顔で、男を見るグスタフだが、男が真剣に話をしている事はわかる。
男が自分を騙す必要がない事も理解している。
「検証する事は、難しい。不可能と言ってもいい。難しい問題だ。それに、お前の加護を上回る・・・。どれだけの修羅場を・・・。違うな・・・」
グスタフは自分の思考に引っ張られてしまって、そこから何も進まなくなってしまっている。
「マスター。今は、伝説級の偽装ができると仮定して話をするぞ?」
「あぁ」
男の話をグスタフは黙って聞いていた。
黙っていたのは反論できる情報が無いからなのだがそれ以上にアルノルトという冒険者に興味が出てきてしまったからだ。
「お前の話を総合すると、彼は風の加護と火の加護。もしかしたら、炎の加護と木の加護と闇の加護を持っているという事か?」
「あぁそうだ。仮定の話だと前置きはしたが、間違っていないと思うぞ」
グスタフはそれでもかなりの違和感を覚えていた。
「お前、彼と対峙していないよな?」
「あぁ」
「先程、彼の正面に座った。正直、お前たちのボスと対峙するよりも怖かった」
「・・・。マスター。それは肯定しますが、あまり言わないほうが・・・」
「解っている。お前だけだ」
男は、敬々しく頭を下げた。
「それで、お前なら彼に勝てるか?」
「わかりません。わかりませんが、なんでもありの戦いだと負けるかもしれません。彼に加護を使わせないように条件を絞って、殺す事が前提の戦いなら勝てると思います」
グスタフは、その言葉を聞いて少しだけ安心した。
眼の前に座る男が勝てないような”冒険者”が下のランクではいろいろとまずい事になってしまう。
「彼が、ランクアップを受けてくれればいいのだけどな・・・」
「マスター。彼は、理知的な印象を受けます。彼が保有している権利を侵害しない限り、彼はマスターの意に添った行動をしてくれると思います」
「わかった。テオフィラがやろうとした事の逆を殺ればいいのだな」
「そうなります」
二人は、お互いの顔を見ながら笑いあったのだが、グスタフは不思議と”それ”だけでは終わらないような気がしていた。
理由はわからないのだが、アルノルトが問題を引き起こすわけではなく、彼の周りで問題が発生するような気がしてならなかった。
グスタフの憂鬱は始まったばかりだ。
後日、アルノルトが本格的に動き出してからすぐに、商業ギルドからの苦情が寄せられて、その後に、鍛冶ギルドから同じような苦情が、グスタフの所に寄せられる。
少しだけ遠慮したような感じで、宿屋ギルドからも苦情が寄せられる未来が待っているのだが、このときにはグスタフは考えても居なかった。
その後、大きな大きな爆弾が落とされて、冒険者ギルドだけではなくウーレンフート全体が上へ下へのてんやわんやの大騒ぎになるのだが、まだその事実を知る者は誰も居ない。
グスタフと男も、アルノルトの事を過小評価していた。所詮、冒険者だと思ってしまっていた。少し事情がある程度だと思ってしまっていたのだ。そのために、王都にある各ギルドや王宮や教会に問い合わせをしなかった。
アルノルトの正体になりえる情報を、後から来た者に打ち明けられた時に、ひどく後悔する事になるのだが、その時に初めてアルノルトと敵対しなかった自分たちの行動が間違っていなかったと心から思うのだった。
--- チェルソの事情
模擬戦でランドルが負けを認める前の話
(あぁやっぱりな)
チェルソと呼ばれた男が、闘技場の最上段から模擬戦の様子を伺っていた。
(使えそうな駒だったけど、ダメになっちゃったな)
(でも、彼は異常だな。加護の力で強引に戦っている印象が有るけど、多分、僕では全力を出しても勝てそうにない。ダブルナンバーの上位かシングルナンバーの下位じゃないと勝つことは難しいだろう)
チェルソは、アルノルトの戦いを見ながら情報収集を行っている。
(少し目立ちすぎたからな。あの方からの命令は果たしたから、ウーレンフートは退去しよう)
チェルソが担っていた事は、簡単だった。
ウーレンフートにあるダンジョンの調査だ。実際に、パーティーとしての攻略とは別に組織のメンバーとの攻略では、最下層の一歩手前まで攻略が進められていた。
そこで攻略が止まってしまった。トラップが突破できなかったのだ。
チェルソが出した結論は、このトラップは突破できないという物だった。組織に問い合わせたのだが”誰にも”読めないと結論が出た。盟主や組織の人間たちが解読を行っているが、それでも数年はかかるという結論が出た為に、攻略は必要ないという連絡が来た。組織としては、自分たち以外が攻略しなければそれで十分なのだ。
(あの方への土産話もできたし、帝国に帰ろう)
闘技場では、ランドルの腕が切り飛ばされている所だった。
チェルソは、興味がなくなってしまったおもちゃを見つめる目でランドルを一瞥してから、新しいおもちゃになりえるアルノルトを興味津々な表情で観察してから、魔道具を発動させた。
チェルソの居た場所には、もう誰も立っていなかった。
少しだけ風が凪いでいるだけの空間になってしまっていた。
0
お気に入りに追加
306
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした
宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。
聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。
「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」
イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。
「……どうしたんだ、イリス?」
アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。
だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。
そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。
「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」
女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
マーラッシュ
ファンタジー
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる