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第五章 移動
第六話 資料
しおりを挟む晴海と夕花が、ベンチで固まっていると、礼登からのコールが入り、排除の完了が知らせられた。
二人は、トレーラーまで戻って小屋に入った。
「晴海さん。圏央道に入るのですよね?」
「そう聞いているよ?」
「いえ、谷田部パーキングエリアから、圏央道に入るジャンクションでは検問が有ったと思うのですが?」
「あるよ。でも大丈夫だよ。トレーラーの中までは調べないし、調べられても困らないからね」
「え?」
「だって、別にトレーラーで車や小屋を運んではダメだという法律は無いし、僕たちが荷物だとしても合法だよ」
「あ・・・。そうでした」
「そうだよ。別に、どこかの藩で何かしたわけじゃないからね」
晴海は、”藩”という呼び名を使ったが、正確には”州”と呼ぶか、”州国”と呼ぶのが正しい区分になる。
2000年初頭に発生した疫病と食料などの物資不足による地方の疲弊で、都道府県制度と中央集権が崩れた。日本という国の単位では、2つの問題を同時には対応が出来なかったのだ。地方自治体の力が強くなり、有効な手立てをこうじたトップが居る県に人口が集中した。権力を誇っていた、中央は崩壊した。権力機構だけが残る形になった。中央も、しばらくは踏みとどまっていた。憲法改正や中央政府にしか出来ない政策を打ち出したが、手遅れ状態になってしまった。
人口が増えた県は、中央から来ている役人を無視して、独自の法解釈を行い。独自に統治を行い始めた。人口が減った県は余計に中央への不満が増えた。結果、中央に反旗を翻した。
最初は、九州の8県と沖縄県が中央からの独立を宣言する。次いで四国が4県をまとめた香川県が盟主となり独立を宣言。中央も即座に対応策をこうじた、重大な事案として地方交付税の停止や選出議員の議会出席禁止と各地に九州、沖縄、四国への移動を禁止し、物資や資金面の締め付けを行うが、逆効果となる。中央に反感を持っていた、北海道、大阪、愛知、京都、静岡、各地で独自政策を発布し、九州や四国とのやり取りを行う。東京という権力の牙城である官僚内閣制が崩れる。東京を除く、道府県が独立を宣言するまで、官僚と中央議員は何も出来なかった。民衆の力を読み間違えたのだ。
当時、総理の椅子に座っている者が、自分の責任だと言って辞職を言い出してから、更に再編は加速する。
廃藩置県を経て、1876年の大規模合併で民衆の声を無視した中央の都合がいい改革を押し付けられてきた地方の反乱が始まったのだ。1888年に愛媛県から香川県が独立したのを最後に行われていなかった都道府県の分割が始まった。まずは、長野県から筑摩県が独立した。兵庫県が、摂津・丹波・但馬・播磨・美作・備前・淡路に行政を分けたが、大きく兵庫州国と宣言した。
日本国は、各州国の代表から選ばれる総理と、全国民の投票から選ばれる大統領に権力が別れている。一人が、内政と外政を行う旧態依然とした政治体制からの脱却だ。官僚の数も大幅に減らされた。中央に養えるだけの税収がなくなったのが大きな理由だ。中央は、外政を行うための機関だけが残された。
市区町村制度は残った。市区町村の再編には100年の期間が必要となった。一番小さい単位の市区町村が尊重される政治体勢になった。州国と市区町村も日本国と同じで、内政を行う領主と外政を行う首相に別れた。権力の集中が出来ないように、領主と首相は同一人物が担当してはならない。また、六親等以内での兼任も禁止となる。二世議員が問題になった過去から、三親等以内の者が同じ行政区分からの立候補/推薦を禁止した。
晴海と夕花が、向かっている伊豆も静岡県から独立した伊豆州なのだ。駿河と遠江と静岡も分離した。伊豆と駿河が山梨の一部と合併して、富士州国となった。各州国の国境は閉鎖してはならないという不文律がある。検問を行うのは、疫病の蔓延を停められなかった中央政府の失策から学んだことだ。
大きく行政が変わったが、変わらないものもあった。日本国民の移動には制限をかけない。独自の基準を設けて、入州国を禁止にすることは出来るが、審査を受けさせないのは基本憲法に反すると宣言された。
基本的な法律は、2000年代に制定している物がベースになっているが、各州国で策定出来る項目が増えた。
奴隷制度も、そんな時代に生まれた。中央政府の苦し紛れの法律なのだ。
「動き出したな?夕花」
「はい。何か、お飲みになりますか?」
「今はいいかな。それよりも、隣に座って」
「はい」
晴海は、夕花がポットを棚に戻して、隣に座るのを見ていた。
先程、押し倒した時に感じた、壊れてしまいそうな柔らかさを、狂おしいほどに甘い匂いを、激しく壊れてしまいそうな心臓が、そして、吸い込まれそうな瞳を、夕花のすべてが欲しいと思えた。
(夕花は、奴隷だ。僕の言葉に逆らわない。でも・・・。それでは、夕花のすべてが手に入らない。夕花の身体も、心も、全て、全てが欲しい。命までも、僕は手に入れる)
「どうしました?」
晴海が夕花を見て固まっているのを感じて、何か有ったのかと思ったのだ。
「ん?あぁ大丈夫だよ。少し、考えていただけだからね」
「考え事ですか?」
「うーん。夕花が可愛いと思っていただけだよ」
「うぅぅ。そうやって、晴海さん。もう、ごまかされません!」
「本当だよ。でもそうだね。ほら、トレーラーに乗る前に、見ている奴らが居るって話したよね?」
「はい」
「アイツラは、僕たちを狙っていなかった。礼登たちが対処したけど、今後も増えるだろうと思ってね」
「そうですね」
「気にしてもしょうがないか」
「はい。次は、どこに寄るのですか?」
「忘れた。停まったら、礼登が教えてくれるだろう」
「わかりました。晴海さん。お休みになりますか?」
「可愛い奥さんの膝枕で寝たから、大丈夫だよ。夕花は、身体を休ませておいて欲しい、伊豆に着いたらいろいろやってもらう」
「・・・。わかりました。休ませていただきます」
夕花は晴海の指示に素直に従った。疲れてはいないが、寝るように言われた。夕花は、晴海から指示をされるのが心地よく思えているのだ。
夕花が、ベッドに潜り込んだのを確認してから、晴海は谷田部パーキングエリアで渡された紙片を取り出す。
(面倒な・・・。この文字列から、単純暗号じゃないな。ish か?)
(当たりだな)
晴海は、紙片に書かれていた、3000文字に渡る文字を情報端末に入力する。
テキストから、バイナリーに変換する。バイナリーは、暗号化されているファイルだ。復号化してから、圧縮を解除する。
(面倒だ!)
すでに、晴海はどうでもいいかと思い始めている。能見がこんな面倒な手段で渡してきた情報だ。大事な情報なのだろう。
解除されたファイルを確認する。
(能見!!!!!)
ファイルには、アクセスコードが書かれている。それ以外は、能見の晴海への愛情が書き込まれたファイルだ。
晴海は、アクセスコード以外を削除して、システムに読み込ませる。生体認証を通して、アクセスを行うと複数のデータが情報端末に送られてきた。
(こんな面倒なら、コールしてこい!)
7つのデータが送られてきた。大本が削除されたのを確認して、切断した。7つのデータは、このままでは見られない。
(あいつ!)
晴海への愛情が書き込まれていた状態にファイルを復元して、アクセスコードを削除する。不自然な改行になっていた。改行しないように調整した。想像通り、縦読みでデータの並び順が判明した。データを正しい順番に並び替えをしても内容が読めない。データをバイナリー化して確認する。圧縮後に暗号化されている。圧縮方法もマイナーな方式をつかっているのが解る。晴海は、文句をいいながら圧縮を解除してから、復号化する。
やっとデータの参照が可能になった。内容にバイナリーが含まれていないか、アクセスコードが紛れ込んでいないか、チェックを通してから、データを閲覧する。
「え?」
晴海は、データを閲覧して思わず、ベッドで寝ている夕花を見てしまった。
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