聖女様?城にいんだろ。

護茶丸夫

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おっぱい探しは成人した後

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 次の日、何となく昼の時間に家に戻り辛かった男は、すきっ腹を抱えて帰路に就く。
 長男が今日もサボっていたら、明日には家を出てもらう。
 つもりだったのだが、やっぱり言い過ぎたかもしれないと、一日中考えていた。

「おう、今帰ったぞー。」

 いつものように家の中に入る前に汚れを叩き落とす。
 祈るような気持ちで中に入る。
 長男は不貞腐れた表情でおかえりと出迎えた。

「ちゃんと手伝った。」
「お?今日は母ちゃんに甘えなかったのか? 赤ちゃん大人の『くちだけ』よぉ。はっ何日持つか。明日にはまたサボってんじゃねーの? はぁーん?」

 違う、そうじゃない。
 褒めたいのに、褒められない。
 嫁はあきれた顔でこっちを見ている。
 長男以外の子供達も、嫁と似た顔で男を見る。

 気まずい思いを押し殺して、夕食を食べる。
 気持ちしょっぱい。
 そそくさと寝室へ行き、後悔しながら横になる。

「ねぇ、あんた。あの子は間違いなくあんたに似たんだよ。」

 しみじみと嫁に言われ、内心「そうだな。」と返しながら眠りにつく。
 明日は褒めたい。

 今日もまた早朝から家を出る。
 子供達はまだ眠っているが、昨日の今日でかける言葉も考えつかない。

 溜息をつきながら仕事をし、昼飯をとりに家へ戻る。
 長男は黙って母親の仕事の代わりをしている。
 洗濯はまだ腕が使えないので、嫁が行っているのだろう。
 時間はかかるが、ちゃんと家事をしている長男。
 ほっとしつつ、また仕事に戻る。

 仕事が終わりいつものように帰宅。
 中に入ると長男は不貞腐れた顔のまま、怪我が良くなったから外に出たいと言ってきた。

「なんだ『くちだけ』? 怪我が良くなった? 見せてみろ。全然まだまだだな。腕かばってのは知ってんだ。そうだな、あと十日かそれくらいだな。なんだぁー? そんな事言って、母ちゃんの仕事サボりたいのかー? おっぱい探しに行きたいなら、明日から出てもいいぞー? なんだ、いいのか。つまらんな。」

「ちょっと、あんた! いい加減にしなさいよ。」
「おー。飯食ったら寝るわ。」

 長男と同じ顔で食事を終え、寝室へ。
 褒めてあげられなかった後悔でいっぱいだが、眠らないと明日もキツイ。

「明日はちゃんと喋りなさいよ。」
「おう、そうだな。そうしたい。」

 嫁にきつく言われ、ぼそぼそと返事を返す男。
 眠れないと思ったが、あっという間に眠りに落ちる。

 口数の少ない毎日で、なかなかきっかけがつかめない男。
 同じ顔で不貞腐れている長男。
 それを呆れて見守る嫁と子供達。

 数日たち、長男の腕もだいぶ動かせるようになった。
 再度外に出たいと言ってきた。

「『くちだけ』は最近ちゃんとやってるみたいだな。うん。あと四日あるじゃねえか。どれ。ん、ちょっと痛むか。まぁ、いいだろう。無理をしないってんなら外で手伝いやって来い。傷が開いたら、次はもっと長くなるぞ。おう、まぁお前は口だけだからな。しばらく傷口ちゃんと見せろよ。ああ、おやすみ。」
「あんたぁー?」
「……すまん。」

 外に出れたおかげか、長男の気分は晴れたようだ。
 笑顔でお帰りと出迎えてくれた事に、男は嬉しさで泣きそうになりつつ強がる。

「ああ? 今日はどうだった。そうか、かあちゃんの手伝いもしたのか、偉いな坊主。もう口だけっては呼べないな。よく頑張ったな。すまなかったな。ああ、お前はもうちゃんとした男だな。ああ、すまんすまん」

 思いがけなく父から謝罪を受けて、さらに

「明日から森に行ってもいいかな? ちゃんと鉈も持っていくし、あいつらも一緒に行ってくれるって言ってたんだ」
「おう、ちゃんと他の人の注意は聞くんだぞ? そうさ、大人でも確認しあうんだ。そうだな、もうすぐ成人だからな、無理はしても無茶はするなってことだ」
「分かった。早めに帰って来て、母ちゃんの手伝いもしとくよ」

久しぶりに明るい気分で食事をとる。
いい息子を持ったなぁとじんわり涙が出そうになるが、堪えて鼻をすする。

「おう、おっぱい探しは成人した後からだな。ははは!」
「あんた、食べ終わったら、ちょっと上に来なさい。」
「……はい。」

その後も薬草や保存用の食料の募集は終わらず、住民達は自分達の分もこっそり備蓄し始めた。
領主にはバレないように。
仲の良い町や村にも声をかけ合いながら、不安を共有していく。


道の敷設もやっと終わり、今までは王都にばかり居ついていた領主が、領主館で不気味なほど大人しい冬のある日。
森の町ではちょっとした変化が起きていた。

「なぁ、最近ガラの悪いのが増えてる気がする。」
「増えてるってより、増えすぎじゃねぇの?」
「領主のトコに集まってるみたいだが。なんだろうな。」
「おい、ありゃ傭兵だぞ。」
「何だって?!なんでまた傭兵なんて。」

先日嫁にさんざん怒られた男は、仕事を終えた後大急ぎで家に戻った。
いつもと様子の違う父親に、家族は不信に思いながら食事をとる。
食後、男は物凄く改まった様子で、家族によく聞く様に言い聞かせ、話し始めた。

「最近町にガラの悪いのが多いのは知ってるな?あれは傭兵って言ってな戦うのが仕事の奴らだ。」
「ようへい?へいたいさん?つよい?」

まだ幼い三男が、瞳をキラキラさせながら聞いてきた。
次男はちょっと不安そうだ。

「ん?ああ、強いと思うぞ。でだ、貴族様がその傭兵ってのを雇って、働かせるんだ。」
「うん。」
「雇い主が貴族様。」
「だから、傭兵には近寄るなよ。大体、貴族が雇い主だから、あいつらに何かあったら貴族様が怒っちまう。かあちゃんとお前はなるべく外に出るなよ。出るときは顔を隠して出るんだ。いいな。」
「とうちゃん、こわいひとたちなの?」
「全員が怖い人ではない。強い人にお金を渡してる貴族は怖い人達だ。だから、見つからない様にしてくれな。」
「うん。ようへいさんよりきぞくさんがこわい。」
「貴族さま、だ。お前たちも母ちゃんたちを外に出さない様に、代わりに買い物は頼むぞ。手伝い頑張ってくれな。」
「分かった!」
「はーい!」
「父ちゃん、大丈夫なのか?」
「おとうさん、わたしはお外ダメなの?」
「一人で歩いちゃダメだぞ。兄ちゃん達か近所のおっちゃん達が一緒なら大丈夫だ。」
「はーい。」

男は嫁と長男に頷き念を押す「頼むぞ。」

「さあ、これだけだ!もう寝るぞ。」

夫婦の寝室で嫁は男に不安げに訊ねた。
「ねぇ、あんた。大丈夫だよね?」
「ああ、でも油断はするなよ?一人で歩いてくれるなよ?」

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