貧乏から貧困、その先。

護茶丸夫

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20 見た目が俺と近い

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 村の広場で、それぞれの家からありったけの椅子や木箱を出して椅子にしている。
 子供達は地べたや草地に座り、大人達の話を大人しく聞いていた。

「村長さんよ、もしかしたら行方の分からない連中は、王都で生きてるのかもしれないんだよな。」

 隣村の最年長の狩人が、うつむいていた顔を上げ、腕を組んだまま問う。
 答えあぐねるアルバート。
 それでも、目はそらさない。
 続いて俺と同い年の狩人が、こっちを見て聞いてくる。

「町に残ってる連中も、まだどっかに隠れてるかもしれないんだろう?」
「ああ、町は見て回ってないから、どっかにいると思う。」

 俺は頷いて見せて、あちこちに転がっていた人の顔の中に、隣村の人間はいなかった事を思い出す。
 町で冬を越せたのなら、裏道辺りか林の近くで身をひそめているかもしれない。

「役人は見なかったのか? 貴族や傭兵は?」
「見てないぜ。馬車も通ってない。町の門番の詰め所にも、兵隊はいなかった。」
「貴族の屋敷辺りは?」
「あー近寄ってもないんだ、すまない。」
「そうか、いや、娘さんと一緒だったよな。仕方ないさ。」

 見習いの時に何回か一緒に組んだことがある。
 こいつも見た目が俺と近いから、親近感があったんだよな。

 しばらくはみんな思い思いに話をしてすごす。
 情報の交換も一通り終わった所で、草茶のお代わりが回ってきた。
 今日の草茶は誰のかなぁ。

「なぁ村長さん、俺らは町に寄って、王都まで行ってくる。」

 最年長の狩人が、困った顔のアルバートに凄みの感じられる笑顔で言い切った。

「戻ってくるまで、ウチの村の連中を頼めるかい? っても、散々世話になりっぱなしだが。」
「かまいません。出来る事はやるまでです。みんなで協力しないと、きっと生き残れません。」
「ははっ。坊主は良い村長に成れるぞ。いや、もう良い村長だな。」

 隣村の狩人達を中心に、村からも数人が一緒に向かう事になった。
 町の残る村人はウチの村の連中が村に連れて帰り、残りは王都に向かう。

「警戒するのは革命の時期です。その場に居れば、間違いなく巻き込まれます。」
「兵隊となまくら剣の素人じゃぁ、勝負にならないがなぁ。」
「ああ、それなりに兵隊達もいくさをしてきてるからな。」
「俺らもな。兵隊側に馬と槍が無けりゃ、人数で押し切れるが。その後はどうするんだよ。」
「革命ねぇ。想像がつかないな。」
「王都の貴族がいなくなっても、別のとこから貴族が来るだけだろ。」
「王様が変わるとか、別に俺らには関係ないしなぁ。」
「ふん。そこらへんも聞いてくるか。傭兵も多いだろうし、知り合いがいれば話も聞ける。」
「爺さんの知ってる傭兵、生きてんのかよ。」
「さぁな。若いのならまだ運がいいのが、たぶんいるだろう。」

 いくさや革命の話で、ワイワイ話が盛り上がる。
 若い連中は興味深げに聞いているが、女達の目が怖い。

 出かける連中へ、村長からは革命実行の気配がしたら、この村に逃げてくるようにと言い含めた。
 あとは、親切に紹介状を寄越した商人が困っていたら、助けてやって欲しいとお願いも。

「あの商人、見かけは胡散臭いんだが、良い人過ぎてなぁ。」

 俺がしみじみと話すと、狩人連中は呆れたように肩を叩いてきた。
 隣村の連中も鼻で笑っている。
 む。いや、バカにされた感じはしないけど。納得いかない。

「いや、お前のお人良しさにあてられたんだろ。」
「見た目がこれなのに、喋ると、なぁ。」
「こっちの連中は毒気が無い。悪い事じゃないさ。」
「見た目詐欺だよな、お前。」
「トムはなぁ。」

 よってたかって、なんだって言うんだ。
 そんな目で見たって、なにもないぞ!
 くそっ!こっち見んな!

 誰か、助けは。
 ま、マリーさん? 頑張ってって合図されても……。
 ギルまで、マリーのマネしやがって!

「草茶、おかわり!」
「ハーブティーって言ってるでしょう。」

 リリー姉さんの冷たい突っ込みが聞こえる。
 知らんぷりして、お茶を入れアルバートの隣に逃げる。
 よしっ! これからの事を決めていくぞ!

 よく分からない空気のまま、隣村の連中は日が暮れる前に一度戻ると言い帰っていった。
 明日から隠れ里に移動するのと、こっちでの移動の打ち合わせだ。

 村に残る組は、隠れ里に納税用の麦以外を育てる事に。
 高齢の者以外は、村を捨てて隣国へ逃げる事が決まった。
 隣村の建物は少しずつ取り壊し、薪にするって。
 ……これが地味に辛い。

 だって、好きで離れたわけじゃない、思い出の詰まった家だよ。
 そのままでも良いじゃないかと思うのに。
 なんで壊さないといけないのか。
 ブーブー言ってたらアンリに怒られた。

 くそう、悔しいからめっちゃ見つかりにくい見張り台作ってやる。
 あちこちに作っビックリさせてやるからな!

 狩りの順番忘れて見張り台に集中してたら、探しに来た親父にめっちゃ怒られた。
 うん、確かに俺が悪い。
 狩りは隣村の連中と合同で、一気に狩場が広がる。
 お互い連絡事項が多い。

 狩りもしつつ隠れ里の整備と、隣国に移動する準備も急がないといけない。
 貧しいなりに、のんびり暮らしてた数年前が懐かしい。
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