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真面目な眼鏡A

可愛らしい丸い眼鏡

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 そっと入室してきたアルフレッドが、僕の隣に来て来客を告げた。

「三男坊ちゃま、ご友人様方がお見えになりました。」
「え? 誰だろう?」
「スクエア伯爵家のC様と、アブチュース伯爵家のD様のお二人です。」
「うん? 何かあったのかな? 客間に通してる? じゃあ、すぐに行くよ。」
「かしこまりました。」

 兄弟達に少し席を外す事を伝え、立ち上がる。
 姉が赤いフチの眼鏡を、クイっと押し上げ僕を止めた。
 ややたれ目の優し気な顔のつくりに、女性用の小さな、可愛らしい丸い眼鏡がよく似合う。
 顔と性格が合ってないのは仕方が無いとしても。

「三男、話によってはこちらにご案内して。食事を一緒にと薦めても、良いんじゃないかしら。」
「え? でも、大丈夫なの?」
「何が心配で大丈夫なの? 食事の用意の心配なら、あと二人増えても問題ないでしょう? アルフレッド。」
「はい、今日は多めに作っております。お二人分ならば、問題ございません。」
「ですって。さぁ、行ってきて。お話を聞いていらっしゃい。」
「は、はい。」

 なんで、わかったんだろう? 
 長女姉さん、いつも見てきたように答えるんだよなぁ。
 もしかして、特殊な何かがあるのかな? 魔法的な何か?

「坊ちゃま、恐らく長女様が厨房前を通った時に、確認されたと思います。」
「そうなの? 真っ直ぐ食堂に来たのだと思ってたよ。」
「長女様は子供の時から、人の配置や馬車の数、厨房の様子を確認しながら館では動かれていました。今もそれで、料理の事に気が付かれたのかもしれません。」
「なにそれ、知らない。」

 そっと小さく深呼吸をして、先を歩くアルフレッド。

「習慣、でございましょうな。長女様は物心つく頃には、屋敷の中でも外でも常に目配りされていらっしゃっいました。」
「三男様がまだお小さい頃には、急なお客様の到着や宿泊、見た事のない使用人や護衛兵が増える、呼んでもいない商人や職人の出入りなどが、時々ございました。」
「人の機微に敏感になられたのは、すべて先代様の行いのせいでございます。」

 静かに怒りを含んだ声で、きっぱりと言い切ったアルフレッド。
 昔っから休みの日は、近くの孤児院の子供達にお菓子を持っていくのが楽しみだよね。
 子供好きがブチ切れるほどの何かが、あったんだろうな。

「あー、はい。なんとなくわかった。もう聞かない。」
「その方が宜しいかと。」

 僕は彼が一番長い間、いつも家にいない父親の代理として、色んな人に怒られたり殴られているのを知っている。
 どんなに酷い目にあっても僕達を一生懸命守ってくれたアルフレッド。
 兄弟みんな、大好きなこの人に愛想をつかされない様に頑張った。
 子供は父親の背中を見て育つというなら、僕らの父親は間違いなくアルフレッドだ。
 いつか「アルフレッド父さん」ってよんだら、ビックリするかな? 怒られちゃうかな?
 みんなに話してみよう。ちょっとわくわくしてきた。

「失礼いたします、お待たせしました。」

 先に部屋に入り、ドアの横で待機してくれている。
 さあ、切り替えていこう!

「さっきぶり! スグに会いに来たら、予備部屋を出た時の僕が滑稽で可哀想じゃね?」
「あー涙の別れだったねー。」
「つっても、予想はしてたよな?」

 しれっと何でもないような顔で言いながら、椅子から立ち上がる大雑把眼鏡Dと堅実眼鏡C。
 参ったなとばかりに、肩をすくめて見せる。
 この締まらなさが僕らしいから、いいか。

「あれから、どうなった?」
「特に無し、だ。宰相閣下は、ご機嫌でお帰りになったよな。」
「あーもうね、良い性格過ぎて正直同じ空気を吸うのも恐れ多いよ。」
「そっか。いつも通りか。」

 よかった、あれから更に動いたわけじゃないみたいだ。
 でも、明日には王族を含め何を言い出すか、分かったもんじゃない。
 二人に椅子に座るようにすすめ、対面に座る。
 すぐさま話を切り出したのはD。
 貴族特有の、遠まわしな話が無くて助かる。

「それでな、今後の事を話しに来たってわけだ。」
「君のとこが一番、情報が入るからね。」
「え? そうかな? 二人の家の方が上位だし、こっちの情報じゃ不足じゃね?」

 上位貴族家の二人の方が、確実で話も多いんじゃないかな?
 むしろこっちに教えて欲しい位だよ。

「その時は、お前んとこにも伝えるよ。」
「そそそ。幅広く聞いとかないとね。お互い様だよー。」
「それなら……。今兄弟が揃ってるんだ、良かったら一緒に食事でも、食べていけばいいんじゃね?」
「良いのか?」
「えー迷惑はかけられないよ。」
「大丈夫大丈夫、姉さん達も良ければどうぞって言ってたし。あ! でもエミリーには、ちょっかいかけないでよ。」

 戸惑いながらも、食べていくと言った二人にほっこりする。 
 その二人に、慌てて付け加える。これは大事な守って欲しい事!
 眼鏡のふちをがしりと掴み、厳しい顔を二人に向ける。

「エミリー嬢っても、確か……。大丈夫だ、それはない。」
「えー。お子ちゃま相手に、ないねー。」

 いくら親友でも許せない事はあるっ!
 絶対にエミリーに、悪い虫は近づけないっ。
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