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看護主任とるなちゃん

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奏汰達は夜ご飯を食べながら看護師長の事について話していた。看護部長に一応報告するという事に決まり一段落していたら、資料を返しに来てくれていた看護主任が話しかけてきた。


「話は終わった?」

凄く優しそうな声で心地の良い声。
例えば、久しぶりに実家に帰った時に快く出迎えてくれるお母さんのよう。

「ん?」
「あ!」

誰だろう?  聞いたことない声だ。

奏汰はそう思いながら声のした方へ振り向く。

「看護主任!」

看護主任?

「主任ってもうやめてよー!  ただのおばさんだから」

笑いながらそう言う看護主任。

「聞いてたんですね!」
「バッチリ聞いてたわよー!」

「それで、なんでここに看護主任がいるんですか?」

「看護師長から資料もらって、私も確認できたから返しに来たのよー!」


─看護主任とは、看護師と看護師長の橋渡しのような役割で、一般企業では係長にあたる。管理職の中でも現場に近く、看護師の相談役として一人一人に目を向けてサポートするポジションで、看護師内では3番目に偉い。──


「あの、静華さん神崎さん。そちらの方は?」
「看護主任の御陵みささぎ陽子ようこさんよ」

「どうも初めまして、御陵みささぎ陽子ようこです。灰羽奏汰くんね?」
「はい、そうです」

「そしてその前の席が......」

「ん...どうしたの?  るなちゃん」

るなちゃんは雪希子ゆきこさんの服の袖口を引っ張りながら背中に隠れてしまった。

「あらら」
「一回あったことあるとは思うんだけどね」
「ありますね」

「久しぶり、覚えてる?  御陵陽子です」

あ...これはダメなやつかも。

「覚......え......て............る.........検......査............いた......人」

るなちゃんは小声で話した。

神崎さんの袖口を持つるなちゃんの手は震えていた。僕から見えたのは手が震えている、それだけだった。
神崎さん側にいたら足が震えているとか、声が震えているとか、色々るなちゃんの状態が分かったのだろうか。

いや......僕はなんでこんなにもるなちゃんに対して頭をフル回転させて考えている?  なぜるなちゃんの今の状況を詳しく知ろうとしている?

見れば簡単な状態ぐらい分かるのに......


「そうだよー!  覚えててくれて嬉しいわぁ」

「とりあえず資料受け取っておきますねー」
「はーい」


神崎さんはいつもは必要のない目力で、るなちゃんの状況を看護主任に説明する。


「はいこれ、よく出来ていたわ」
「「ありがとうございます!」」

「それじゃあ私はここら辺で。食事の邪魔しちゃってごめんなさいね」

「いえいえ、わざわざありがとうございました」
「また伺います」

「分かったわ!  それじゃあね」


神崎さんの伝えたいことを悟ったかのように
そそくさと要件を済ませて去っていった。

なんで状況を察してそんなこと出来るんだ。
看護師って凄い......。


「るなちゃん!  大丈夫?!」
「...だい......じょぶ......」

服の袖口から手を離したるなちゃんだけど、まだ少し震えている。

「でもよく頑張ったね!  喋れたじゃない!」
「う...ん......結構......だい...じょぶ......だった」


「......るなちゃん、嘘はついたらダメだ」

鋭く、それでいて優しく丁寧に。

「大丈夫......だよ......?  ......ほ...ん...とに...」
「本当は怖かったでしょ?」

優しく包み込むように。相手の気持ちを考えて。

「...いや......」
「ほら、おいで?」

神崎さんはるなちゃんの方に体を向け、両手を広げる。

「......うん」

るなちゃんは席から立ち上がり、神崎さんの両腕に収まる。

「大丈夫だよーもう怖くないから。もしまた怖くなっちゃったら私が守ってあげるからねー」

頭を撫でながら優しく話す神崎さん。

「......うん」

「......泣いてもいいんだよ?  奏汰くんがいるからって我慢しなくても」

神崎さんはるなちゃんの耳元まで顔を持っていきささやいた。

「......ううん......泣いてる......とこ...見られ......たく...ない......」

小さく涙ぐんだ声で言うるなちゃん。

「じゃあ隠してあげるから、我慢しないで泣いていいよ」

そう囁くと神崎さんは着ていたカーディガンを頭からるなちゃんに被せ、ゆっくり抱きしめた。

「あり......がと」

るなちゃんは弱々しく声を出した後、神崎さんの腕の中で静かに泣き出した。
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