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苦労

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僕たちは楽しく4人でお菓子パーティーをしていたところ、看護師さん2人は央光大学の生徒が明日、見学に来ることを忘れていて急いで準備に取り掛かることに。

2人っきりになった奏汰とるなだか、特に何も起きず小説の話をしていたら夜ご飯の時間に。


「そろそろ帰ってくるはず...」
「ご飯......先...食べ...る?」

「でも僕、車椅子だから運ぶのはちょっと危ないかも」

この円の形にしたソファーに座るのも静華さんに手伝ってもらったし、色々手伝ってもらわないとほんとうに危ない状況なんだなって思い知らされるよ。

右足骨折に肋骨の複数骨折、しかも2本。それに記憶喪失ときた。記憶喪失については自分ではよく分からないけど骨折してることだけは確かだから、本当に事故にあって記憶喪失になったんだって分かる。


「あ......そっか......じゃあ...ソファー......直し...とく?」

「うん、僕も手伝うよ」

「あり......がと。......無理...は...しない...でね」

「大丈夫。心配ありがとうね」
「いや.........うん......」

なんとも歯切れの悪い返答が戻ってきた。

どうしたんだろう?  特に気に触ることはしてないと思うんだけど...。

そんなことを思いつつ、僕は るなちゃんの開けてくれたソファーとソファーの間に片足で降りて少しづつ進みながら車椅子に乗る。
そして2人でソファーを元に戻した。
もちろん休憩室の端っこなので誰にも迷惑はかけていない。

ソファーを戻し終えて少し息を整えていると、疲れた様子でこっちに歩いてくる2人の姿が見えた。


「ふぅー。疲れたー!」
「実技テストの場所が無いってどういう事だよ。こんな無駄にでかい病院なんだから1部屋ぐらい余ってるだろ絶対!」
雪希子ゆきこさん、お口が悪くなってますわよ。でもそれは同感」

「あのクソ看護師長!」
「だから口が悪くなってるよ」
「あ............あの看護師長様がダチョウぐらいの脳をお持ちだなんて思いもよりませんでしたわ」
「それは少し可哀想よ......」

「「ダチョウがね・な!!」」

謎のコンビネーションをしながら怒りのオーラを放つ2人。その矛先は全て看護師長である。


──看護師長とは看護部長と看護主任の中間管理職で、一般企業では課長にあたるポジション。病院内の他部署における管理職と連携を図り、病院全体の運営に携わるようになる。また、”担当部署の看護業務に決定権を持つ”ため、責任もその分重くなる。看護師内では2番目に偉い。──


「......あのー大丈夫ですか?」

奏汰は静華に優しく声をかける。

「大丈夫よー、うちの看護師長が何考えてるか分からない人ってだけだから」

「それよりお腹すいてる?  もう夜ご飯の時間だから食堂行こうよ」

雪希子はそう言い2人を誘う。

「そうね。行こっか奏汰くん」
「あ......はい。行きましょう」
「行こう、るなちゃん」
「...うん」

少しピリついた雰囲気で休憩室を後にし、食堂へと移動する。


いつも通り静華さんに夜ご飯を受け取ってもらい、僕に渡してくれる。そのまま静華さんが車椅子を押してくれてテーブルに着く。
るなちゃんと神崎さんは既に席に着いていた。

「それじゃあいただきます」

「「「いただきます」」」


特に談笑することも無く、4人はそれぞれ食べ進めて夜ご飯は終わるかと思っていたらるなちゃんが神崎さんに話しかけた。

「なんで......そんな...に怒って......るの?」
「るなちゃん達に怒ってるわけじゃないよ~」

穏やかな声でるなちゃんの質問に答える雪希子。

「全部看護師長が悪いのよ」

しれっと会話に参加する静華。
黙っていられなかったのだろう。


「だってね~?」

よっぽど溜まっていたのか僕たちにさっき起こった事について話してくれた。

「実技テストの内容が決まったらそれを資料にまとめて看護師長か看護主任に提出するっていう決まりで、私たちは看護師長がめんどくさい人だって分かってたから主任の方に渡そうと思って資料を持って探してたんだけど......運悪く看護師長に出会ってしまって、強引に資料を取られて承諾され、実技テストの部屋はここだからと案内された場所が埃まみれの空き部屋。
ベッドは無いわ、窓は開かないわ、蜘蛛の巣は張ってあるわで最悪よ」

「他の部屋は空いてないんですかと聞いてみたら、勢いよく無いって言われたしな」

「大変ですね....」

「大変だし最悪よ。でも看護師長が決めた所ならそこでやるしかないのよ」

「そこからはもう大掃除だ。水拭き乾拭き窓拭きワックスがけに、蜘蛛の巣の除去。窓は幸い錆びてて開きにくくなってただけだったから、クエン酸水を染み込ませた布で覆って錆を取り開きやすくしたり、もう部屋中ピッカピカだ」

「それで......時間......かかった...んだ」
「そう!  実技テストの内容と合格の目安、資料と文章の作成までは良かったんだけどねー」

疲労と後悔が入り交じったような声のトーンで話す静華。


「看護師長ってそんなに偉いんですか?」

ふと思ったことを口に出してしまう奏汰。

「看護師内の地位的には2番目かなぁ」
「じゃあ1番の人にこの事言えばいいんじゃないですか?」

大事おおごとにするのもねぇ。問題の発端が看護師側でしかも看護師長だなんて。看護師長きっとクビになっちゃうわ」

「よし直ぐに看護部長を探して言おう。そしてクビにしてもらおう」

雪希子は椅子から勢いよく立ち上がり、歩き出そうとする。

「待って待って!  看護師長みたいな地位の高い看護師がクビになったら病院の印象が落ちるでしょ?」

「静華さん、あんな看護師長よりあなたの方がよっぽど看護師長にむいてると思うんだけど。あと、看護師長の評判悪いからあんまり気にすることないと思うよ、印象とか。
むしろいなくなってくれてありがとうって思ってる人が多くなると思うよ?」

「ならいいか.........ってならないよ!?」
「ならないかぁ」

少し残念そうな顔をする神崎さん。
それはそれで怖いけど!

「とり...あえず......会ったら......言う...ってこと...なの...?」

「そうだねー。看護師長がこういうこと言ってきて、空き部屋掃除してそこで実技テストしますって言うかなぁ。一応報告しとかないと何で空き部屋で実技テストしてるのってなっちゃいそうだし」

病院って人間関係も大変だなぁ。

「じゃそういうことで。この話はおしまい!」

雪希子が終わりの合図としてパンと手を叩く。

「話は終わった?」

凄く優しそうな声で心地の良い声。
例えば、久しぶりに実家に帰った時に快く出迎えてくれるお母さんのよう。

「ん?」
「あ!」

誰だろう?  聞いたことない声だ。

奏汰はそう思いながら声のした方へ振り向く。

「看護主任!」

看護主任?

「主任ってもうやめてよー!  ただのおばさんだから」

笑いながらそう言う看護主任。

「聞いてたんですね!」
「バッチリ聞いてたわよー!」

「それで、なんでここに看護主任がいるんですか?」
「看護師長から資料もらって、私も確認できたから返しに来たのよー!」


─看護主任とは、看護師と看護師長の橋渡しのような役割で、一般企業では係長にあたる。管理職の中でも現場に近く、看護師の相談役として一人一人に目を向けてサポートするポジションで、看護師内では3番目に偉い。──
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