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58,悪鬼王

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 シア達は王都近くの窪地に身を隠し、作戦を立てながら息を潜めて時が来るのを待った。その日の真夜中、小太郎の上にアラガンとノイマンが乗りこむと音もなく王都周辺を偵察しながら土魔法を駆使し、王都を覆う外壁を補強工事していた。
「アラガン、あそこが弱そうだな。ひびが入っているぞ」
「ああ、ふさいで補強しておくよ」
「でも、ルーナが一番性格怖いよな。この作戦もルーナ発案だし」
「そうじゃないとシアと一緒にはいられないだろう?」
「まあな、ところでノイマンはどうするんだ?」
「どうとは?」
「シアに付いて西の大陸にいくだろう?」
「当然だな」
「そのあとだよ。俺が聞きたいのは」
「もう決まっているよ。俺はシア・ペルサスの右腕になりたいと思っているからな。アラガンはどうなんだ?」
「俺も同じだな……。一生シア・ペルサスの傍で鍛冶師をやるのさ。俺たちドワーフが得意なのは鍛冶だけじゃない。道を作ったり、建物を作ったりして、シアが作る国の王都を建設したいんだ」
「じゃあ、設計はノイマン・シュタイン、建築はアラガン・ドワイトでやろうぜ」
「賛成だ。すげえのを作ってやろうぜ」
「小太郎はシアの家族なのだ~ もうつくよ~」
 こうしてノイマンとアラガンは文字通り一滴の水も漏れないようにバーバリアン王国の王都を取り囲む外壁を利用して完全に囲い込んだのであった。

 王都を取り囲む外壁には見張り用の尖塔があった。その尖塔は既にシア達に占拠されており、そこにノイマンとアラガンは吸い込まれるように入っていった。
「さてと、俺たちも魔法の準備をしようか」
「ああ、俺の準備はできたぜ」
 アラガンの返事を聞いたノイマンは光魔法で王都上空に合図を飛ばした。すると、王都の外壁周辺から圧倒的な魔力で水が発生したのだ。その水は凄まじい勢いで王都を水浸しにし、信じられないほどの速度で水位を上げ続けた。ほとんどの建物が水につかったことを確認したアラガンたちは上空に目をやり、もう一度光魔法で合図を飛ばす。
 すると、上空に待機していたルーナが真夜中の闇を消し去るかのような光量で光魔法を王都中の水に撃ち込み、古代龍マリアナ譲りの強烈な浄化魔法を注ぎ込む。

 光が収まり、夜明けの白み始めた世界が照らし出したのは、全身がただれて王都中を満たす聖水に溶けていく悪鬼たちの姿であった。人型の悪鬼はどれが原種の悪鬼かは判別がつかなかったが、おそらく水面でもがき苦しみながら溶けていく連中が原種の悪鬼だろうとシア達は判断した。バーバリアン王国中に存在した悪鬼が全てこの王都に集結しているとすれば凄まじい数がいるはずであったが、もがき苦しむ悪鬼たち以外は全て水に溶けたかのように消え去っていた。
「悪鬼たちは全部溶けたよ~ あの建物以外は誰もいないよ~」
「わかった、小太郎」
シアはそう言うと、何と王都中を満たしていた水を全て亜空間収納に移動させてしまったのだ。
「シアの亜空間収納って大陸が入るんだっけ?」
「そうだね。今はもう少し入ると思うよ。でも生物は入れられないけどね」
「悪鬼たちが水に溶けて、その水を収納できたということは……」
「水に溶けた悪鬼たちを倒したということね」
「ほら、親分たちが来たようだぜ」
「流石に外壁以上には水が貯められないからな」
「では、プランBで行きましょうか」
「おう。やってやろうぜ」

 およそ50体ほどであろうか。人間の騎士団の姿をした悪鬼たちがこちらに向かって歩いてくる。さらにその奥には宝石を身につけて馬に跨り、何かを喚いている男が二人ほどいた。
「あの奥の連中は服装からすれば王子たちだろうな。その前に重装備で向かって来る奴らは近衛騎士団というところかな」
「では、まだまだ親玉は出てこないということか」
「そうだね……おっと、いきなり来たわね」

 先頭を走ってきた騎士のひとりが一気に槍をエマに向けて繰り出した。エマは首を傾げて穂先を躱すと、シャイターンで騎士の腹を貫く。腹に大穴を開けて再生しようとする悪鬼の顔を水魔法で包み込んで無理矢理水を飲ませてから、さらに水に光魔法を注ぎ込んだ。
「こうなるんだね……」
「外側は比較的水に強いんだな」
「ああ、だが体の内側は水に弱い。水だけでも内臓が焼けていくが、水に光魔法を注ぎ込むとさらに勢い良く焼けるな」
「ふふ。プランB大成功ですね」
 ルーナがそう言うと、シアが騎士たちの顔を一気に水魔法で包み込んだ。50体ほどの悪鬼たちはもがき苦しむが、流石に古代龍の子シアの魔法を消すことはできない。そこにアーサー達は順番に光魔法を打ち込んで騎士たちを全滅させた。
 
 残りは二体の悪鬼たちである。
 悪鬼たちはそれぞれが名乗りをあげた。
「俺はバーバリアン王国の王太子、キュリオス・バーバリアンだ。俺に跪く栄誉をあたえよう」
「俺は第二王子、ケチャック・バーバリアンだ。汚らわしい人間ども。貴様らに栄誉など必要ない」
「お前たちは国がないのに王太子とか王子とか名乗るのか?」
「汚らしい人間、どういう意味で言っている。許さんぞ」
「そのままだよ。あの建物にどれだけの部下がいる?」
「ふん。あの無能どもは貴様らの奸計で消え去った。残るは王と我らのみ」
「王都中に国民を集めたんだよな?」
「我が至高の父を悪鬼王とするためだ。石ころも数さえあれば贄となるのだ」
「つまり、このバーバリアン王国は王と、お前たち二人の王子しかいないということだろ?」
「それがどうした。この後フライブルク王国を攻め落とし、ローマン聖教国を占拠し、血で縛れば部下などいくらでもできる。我ら至高の一族だけが残れば十分なのだ」
「だ、か、ら、このバーバリアン王国で一番下にいるのがそこのケチャックで、下から二番目で一番上にもなれない中途半端なのがキュリオスで、息子しかそばに居ない裸の王様がひとり寂しく引きこもっているだけだろ?」
「アーサーが煽っているな」
「ああ、でもその煽りに乗ってきた裸の王様が来たみたいだな」
「真打登場だね。油断しないようにね」

 シア達が王宮らしき建物を見るとひとりの悪鬼が建物の上に立っていた。その悪鬼は王冠を身につけ豪奢な服装をしていたが、その顔は黒紫色となり、王冠を突き破って角を生やし、黄色の眼球を血走らせ、耳は尖り、口は裂け牙を生やしていた。その姿を見たキュリオスとケチャックはその場でシア達に背を向けて膝を折る。すると、建物の上に立っていた悪鬼は剣を抜くと、キュリオスとケチャックに言葉をかけた」

「言葉を交わす必要もない虫けらどもにいつまで時間をかけている。朕は既に悪鬼王として完成された至高にして究極の存在となった。まずはこの大陸を我らの楽園とするのだ。キュリオス、ケチャック、武器を取り朕の御世の露払いをせよ」

 その言葉が終わった瞬間にキュリオスとケチャックは剣を抜き、一気に躍りかかった。キュリオスの剣をアーサーが受け、ケチャックの剣をアラガンが楯で受ける。その瞬間にシアの神威が悪鬼王の剣をはじいた。
「速いな……、皆気を付けろ」
 そう言うと、シアは悪鬼王に相対したのだった。

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