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10,入学式

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 事件の後処理はコールマン伯爵がしてくれることになり、エマとルーナは自宅へと帰っていった。その日はコールマン伯爵の王都の屋敷に泊まり、次の日は朝から同じ馬車に乗り込み一緒にフリージア学園の入学式に行くことになった。
 貴族街から学園に続く長い石畳の馬車道を行く。
 跳ねた馬車から感じる衝撃すら心地よく思うほどシアの心は浮ついていた。
 そんなシアにコールマン伯爵が穏やかに声を掛ける。
「シア君、君は本当に真っ直ぐだ。そして純真無垢な心を持っていると思う。だからこそ思うのだが、君を利用しようとする者たちも沢山これから現れるだろう。その時は遠慮なく私を頼ってくれたらいいからね」
 シアの目を真っ直ぐ見つめてコールマン伯爵がそう言ってくれたのだった。シアがコールマン伯爵に礼を言ったとき丁度馬車が学園に到着した。

「来たか、シア。コールマン伯爵ご苦労様」
 周りの人よりも頭二つくらい出ている巨漢の老人が手を挙げてやってきた。
「クレインさん、来てくれたんだね」
「おお、何とかギルドの仕事がひと段落したからな。クレアがSクラスだと言って喜んでいたぞ。俺も鼻が高い」
 そう言うと、シアの頭をがしがしと撫でて三人で入学式の式場に入った。

 式場は屋根付きの木造建築で、頭上は吹き抜けで開放感のある造りになっており、およそ200人の入学生と保護者を入れてもまだまだ余裕がある広さであった。シアたちが着席すると前方の舞台に校長のイルマが上がり祝辞を述べ始め、入学式は始まったのである。イルマの挨拶は短くあっさりと終わると、その後は立席での親睦会が開催された。職員の説明によると、寮に入ることで遠方の親とここで別れる者も多いために開催されるのだという。シアと小太郎がコールマン伯爵とクレインに色々と話をしていると、そこに身なりの良い優しそうな男性に連れられてルーナがやってきた。またその後ろから軍人のような服装をした強面の男性に連れられてエマもやってきた。
 二人の壮年男性はコールマン伯爵とクレインに挨拶をすると、それぞれエマとルーナを連れてシアと小太郎のところに寄ってきて話しかけてきたのである。
「君がシア君だね。私はヨハネス・オースティン子爵という。娘のルーナを何度も暴漢から守ってくれたとか。礼を言う」
「俺はバーデン・ランドリー男爵だ。国境警備隊を率いている。うちのエマが黒髪の王子様の話を聞かせてくれてな。楽しかったぜ」
「バーデン男爵、黒髪の王子様、ですか?」
 そうヨハネス子爵が聞くと、またしてもエマが寸劇を始めようとしたので、ルーナは顔を真っ赤にしてエマの手を取り去っていった。

 すると、バーデン男爵が真剣な表情でシアの目を見る。
「君はカール・ガイウス・ペルサス様の息子だな」
「そうすると……」
 何かを続けようとしたのでヨハネス子爵を無言で制すると、バーデン男爵はヨハネス子爵、コールマン伯爵とクレインに後ほど全員で話をしようと伝えた。
 コールマン伯爵とクレインに若干の緊張が走る。
 だが、バーデン男爵は
「俺が率いる警備隊はカール・ガイウス・ペルサス様に絶対に頭が上がらない。俺自身も子供の時に助けてもらっている。親父もそうだ。彼の力にならせて欲しい」
 といい、ヨハネス子爵も、
「うちの領地が暴龍にやられそうになった時、あの方が助けてくれた。父の代には隣国のバーバリアン王国からの進攻にもあったがそれも退けてくれたのだ。コールマン伯爵、クレイン伯爵、手伝わせてもらえませんか」
 それを聞いたコールマン伯爵とクレインは時間を打ち合わせて後日改めて話し合いをすることにした。

 そうするうちに時間がやってきて、生徒を教室へと案内し始めた。
 シアと小太郎、エマとルーナはそれぞれ保護者たちに挨拶をすると、職員についていった。その後ろ姿を見て、残された大人たちは、
「ペルサスの忘れ形見……か。この先大きく波乱が起きるだろうな」
と、誰ともなく口にしたのであった。

 シアたちが案内されて入った教室には机が6つあった。
 職員の指示通りに着席すると、
「私はマルクス。このクラスの担任をすることになった。ちなみに本年の受験生は約2万人。合格者は200人ちょうど。Sクラスはこの6人だ。今年のSクラスは実に面白い。まずは窓際の君から自己紹介をしてもらおうか」
「僕はノイマン・シュタイン。政治理論が好きで将来は王宮で政治家として活動したいと思っている。よろしく」
 ノイマンは座学が満点で、神童という声もある有名な子供だったらしい。

「俺はアラガン・ドワイト。見ての通りドワーフだ。将来はアストロンを超える剣を作るのが夢だ」
(アストロンって、父さんの剣……)
 そう思うと、アラガンはこちらをちらりと見て親指を立てた。
(何だろう? 俺のこと知っているのかな)

「次は私だな。私はこの国フライブルク王国の王子アーサー・フライブルクだ。この学園では身分は関係がない。私も親友と呼べる友人が出来ればと期待している。みんなよろしく頼むよ」
(おお、金髪の王子様だ。でも友人が欲しいって言っていたな……友達になれるかな)
 アーサーもこちらをちらりと見て白い歯を出して笑った。
(王子様スマイルってお母さんが言っていたのはこれかぁ……)
 
「エマ・ランドリーです。父の影響で小さい頃から攻撃魔法を勉強していました。将来は龍を倒せるような魔導士になりたいです。そちらのルーナとは親の領地が隣同士で幼馴染です。よろしくお願いいたします」
(へぇー、エマって攻撃魔法を勉強しているんだ。活発そうだから似合ってるね。龍なんて、ちょっと練習したらすぐに倒せるって)

「ルーナ・オースティンです。光魔法が得意です。光属性を持っている者は希少だと言われています。是非とも回復魔法を覚えてお役に立てればいいなと思っています。エマとは親友です。よろしくお願いいたします」
(光属性って希少なの? 回復魔法なんて普通に使えると思うけどなぁ。それにしてもやはりルーナは素敵だな。次は俺かぁ)

「S級冒険者のシア・ペルサスです。隣にいるのがフェンリルの小太郎です。この間までほかの大陸にいたのでこの国のことがよくわかりません。よろしくお願いします」

「さて、全員自己紹介も終わったな。では机を一つに集めて親交を深めようか」
担任のマルクス先生がそう言うと、全員が机を固めて座り車座になった。そして、彼らの質問はシアと小太郎に集中した。

 口火を切ったのはドワーフのアラガンだった。
「シアのお父さんはあのカール・ガイウス・ペルサス様だよな」
「そうだよ。知っているの?」
「なぁ、アストロン見ることってできるか?」
アラガンがそう言うので、亜空間収納にしまってあるアストロンを取り出して机の上に置いた。すると、全員の視線が釘付けになる。
 アストロンは一見すると何の意匠もない少し長めの片刃の剣であった。だが、若干反りが入っていて、刃紋が陽の光を反射し煌めくと神秘的な色に変わる。鏡の様に磨き抜かれた刀身に皆が吸い込まれそうになっていた。
「……この剣って、伝説がいっぱいあるのに刃毀れ一つしてないね」
「父さんは刃毀れするような斬り方ではこの剣は使えないって言っていたね。死ぬまで肌身離さず持っていたよ」
「……ごめん。嫌なこと思い出させたかな」
「いいよ。父さんはこの剣は父さんのためだけに作られたって言っていた。俺にも自分のためだけに作られた剣を使えって言っていたよ。そのせいかアストロンは俺には少し使いにくいんだ。練習でいいからさ何か俺の剣作ってよ」
「任せとけ。絶対にアストロン以上の剣を作ってやるさ」
 そう言うと、アラガンはまた親指を立てた。

 続いてアーサーがシアに聞いた。
「シアがカール・ガイウス・ペルサス様の息子なら、シアはペルサス王国の王位継承権を持つことになるな」
「王位継承権?」
「そうだ。だから私と同じ立場だな」
 そう言って、王子様スマイルで楽しそうに笑った。
 それを聞いたエマは本当に「黒髪の王子様」なのね……と呟いていたが、
「そのうち、父上がみんなを呼び出すと思う。済まないがその時は頼むな」
 と、アーサーは全員に頭を下げた。
 シアが理由を聞こうとすると、制服の採寸に業者がやってきたので初日の授業は終了することになった。
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