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二七、再生

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 ユリが新右衛門さんを斬った。
 あれほど新右衛門さんを慕い、恋焦がれて現人神にまでなったユリが斬ったとは信じられなかった。

 そんな修太朗にしづかは続けた。
「修太朗が持つ黒滅刀は相手の存在を滅して輪廻転生を促すもの。ユリの持つ刀は白冥刀はくめいとう、銘を白拍子しらびょうしという。その効果は相手に輪廻転生の輪をくぐらせ再生させるものだ」
「再生……」
「簡単に言えばその刀で斬られると他の物に変えることができる。強大な龍ならただの蜥蜴とかげに、鳳凰なら小鳥に変えることもできる。もっとも再生をされたものは強制的に一度輪廻転生の輪を通る。ゆえに元々持っていた能力や記憶を失い、同一なのは魂のみであるがな」
「二人が夫婦になった時、荒ぶる現人神を打ち破るため、我の秘宝として所蔵していた一対の刀を祝いとして渡したものであるよ」
「ユリは新右衛門殿を再生させるために斬った。だが、その場に記憶と力を失くした新右衛門殿を再生させても直ぐに大天狗の餌食となる。ゆえにユリは同時に神別の勾玉を使って新右衛門殿が再生する時間軸をずらした」
「確か、神別の勾玉って……」
「そうであるな。初めてここに来た時にユリが口にしたそれだよ」
「神別の勾玉は神であるなら誰でも使えるものだ。それは神としての霊性を犠牲にし、代わりにその神の願望を叶えるものだ」
「神別の勾玉を使って新右衛門殿の再生する時間軸をずらしたユリは、次に子を身ごもったまま白拍子で自分の身体を貫いた。もう一度、神別の勾玉を使って新右衛門殿が再生する時間軸に自分と陽日をも再生させたのだ」
「……ということは、つまり……」
「うむ。新右衛門殿が再生したのが修太朗そなただ。そして、ユリが再生したのがユキに、陽日が再生したのがひなたになる」
「……だけどそれなら……ユリはユキで……ユキはユリ……」

 混乱する修太朗にユリが告げる。
「修太朗さん、再生すると記憶も能力もなくします。私もひなたも例外ではありません。ですが、私は神別の勾玉を使ってもう一つ祈りを込めておきました」
「もう一つの祈り……?」
「はい。次の世に新右衛門様と再生しても、また悪神が来るかもしれません。その時悪神は何の力も持たない私たち夫婦ではなく、ひなたを直接害するでしょう。その危機が訪れた瞬間、私の記憶が戻るように致しました。そして最後の力でこの現人神ユリの残滓を残して、その時が来るのをあの祠でひたすらに待ち続けておりました」
「じゃぁユキは……」
「最後の瞬間、私の記憶を取り戻して、ひなたを全力でかばいました。そして現生でのユキは亡くなったのです。ですが、陽日を害し損ねた大天狗は時を越えて私を追尾し、ユキとしての私の魂をさらってその星で牢獄に入れております」
「ですから、私はひなたを子孫といい、ユキはそうでないと言いました。私自身だからです」
「確かにユキのご先祖様かと聞いた時、そう言っていたな……」
「姉様は記憶のない修太朗さんに配慮して、婉曲に言っていましたが……」

 そこまで言うと、ユリは目を伏せた……
「修太朗さん、現人神となった貴方はもうこの残滓に過ぎない私をも抱くことができます……。姉様、もう一度神別の勾玉をここで使います。そうしてユリはユキの記憶を戻して、修太朗さんの妻であるユキになろうと思います」
「お許しを……、そう言ってユリは黄金色に輝く勾玉を取り出し、祈りを込めようとする」
 修太朗はとっさにその手をとった。
「ユリ、待て……。なぁユリ、何年待ったんだ?」
 ユリは嗚咽を漏らしながら修太朗に小声で告げる。
「……六〇〇年ほど」
「それで、残滓であるユリがユキになっても、魂は牢獄の中だよな?」
「……はい」
「残滓の状態で神別の勾玉を使ったらどうなる?」
 その問いにしづかが答えた。
「おそらく、ただの人間に落ちるであろうな」
「……つまり、人間としてのユキは生き返るということか?」
 そう修太朗は問う。
「その通り。ユリという残滓はユリの記憶をユキの記憶にすり替えた人間となる」

 しづかの答えを聞き、修太朗は続けて、
「だが、ひなたを狙って悪神はやって来る……」
「父として守人としてひなたを守るために自分は現人神でなければならない……」
「ひなたは神、自分も現人神、生き返ったユキは人間……」
「ユキだけ先に老いて死んでしまう……」
「しかも魂は牢獄の中……」
「畜生、どう考えてもユキだけ救われないじゃないか!」
 そう叫ぶと、修太朗はしづかに問う。
「牢獄に囚われた魂を取り戻したらどうなる?」
「残滓であるユリとユキが統合され、新たな神が生まれるであろうな」
「……じゃぁ、それ一択だな」
「修太朗よ、やめておけ……牢獄がある星はマーラが主神の修羅の星。マーラが煩悩を喰らうために方々から悪神を集めておる。いくら現人神となったとはいえ、単独で天狗一つも倒せぬようでは、あっという間に終わってしまうぞ」
「修太朗さん、ありがとう。でも良いのです。ユリは幸せでした」

 そう言い、再度神別の勾玉を握ろうとするユリを修太朗は力いっぱい抱きしめた。
「ユリ、夫婦だろ。六〇〇年前なら夫の言うことに妻が従うのが普通だろ。必ず神として復活させてやるから、今はやめろ」
 そう言われて、ユリは修太朗の腕の中で崩れ落ちた。
 そこまで話を聞いていた風蓮が言う。
「なら、修太朗さんが単独で悪神と戦えるようになるまで修行をされたら如何ですか。及ばずながらこの風蓮、修太朗さんの思わぬ亭主関白ぶりに惚れこんでしまいました。しづか殿、いかがでしょうか」
 しづかも目を潤ませながら風蓮に答える。
「我が妹と義弟を……よろしくお願い申し上げます」
 と。

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