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十五、亡者
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修太朗が入口から入ると背後が閉じられたのが分かった。外から覗いた通り洞窟には仄かに灯りがぽつぽつと左右にあって、進むべき道を照らしていた。その道は思ったよりも広く天井も高い。
「高速道路のど真ん中を歩いている気分だな」
と、独り言を言いながら真っ直ぐに進んでいた。
「久しぶりに獲物が来たな……」
暗い声が聴こえる……
「誰かいるのか?」
そう返すと、
「いるぜ、それも大勢……」
その瞬間に殺気が迫ってくる。
咄嗟に黒夜叉で殺気を感じた方向を振り払うと、誰かが飛びのき躱す気配がした。
修太朗がよくよく目を凝らして眺めると、そこには大勢の武装した者達が立っていた。
「それは……神刀か。久しぶりに獲物が来たと思えば神刀持ちとはな……」
「獲物とは自分のことか?」
と、修太朗が言うと、嘲笑う声が飛び交う。
「他に獲物などおらん……」
これまで修太朗は多くの小鬼を斬ってきた。小鬼たちは人型ではあったが呻くだけで言葉を話すことは無かった。だが今は違う。彼らが敵であるとするなら斬らねばならない。人の体をしていて、人の言葉を話す者たちを斬り捨てることに心の中でためらいを覚えていた。
「……その神刀の効果は何だ」
そう問う声がする。
「存在を消滅させる神刀、黒滅刀……」
「……存在を消滅……ね。なら、その神刀で斬られたらここから消滅することが出来るというわけだ……」
「そうなるな。消滅後は輪廻の輪に戻るらしいがな……」
「……なら、俺たちを消滅させてもらえねぇか」
「どういうことだ」
「……俺たちはかつてこの洞窟に挑み敗れた者のなれの果てだ……。その後、この洞窟に挑むものを阻むように存在を定義され……、獲物が来るのを待ち続ける……、それも永久に……」
「永久に……」
「……そう、永久だ……、たとえ他の獲物に殺されても、またしても蘇って襲い掛かるだけの存在……、ひたすらに、永遠に……」
修太朗はそれを聴き、彼らが哀れになっていた。この暗い洞窟でひたすらに獲物を待ち、襲うだけの存在。しかも彼らには明確な意識があることが見て取れる。その境遇は彼らにとって、果て無く続く拷問でしかないだろう。気が狂えば楽になれるかもしれないが、彼らが亡者だとするとそれすら望めない……。
修太朗はここに至って覚悟を決めた。自分の一太刀で彼らがこの永劫の苦しみから救われるなら、自分の小さな罪悪感などにこだわっている場合ではないと心を定めたのだ。
「……わかった」
修太朗がそう短く返事すると、背後から殺気が奔る。
慌てずに反転し、亡者が構える槍ごと黒夜叉で切り裂く。硬いはずの槍を切り裂く瞬間は何も感じなかった抵抗が、亡者の身体を切り裂くときには何故か感じられた。
亡者たち個々人の技量は修太朗にとって警戒すべきものではなかった。雲霞のような数にものを言わせて圧力をかけてくる小鬼の方が戦いとしては厄介だと感じるほどであった。ある程度の数を減らしてから、修太朗は亡者たちが一例に並ぶように誘導しながら下がり、弓なりに構えた。
「一の太刀『扇』……」
圧倒的な剣気が修太朗の前方に吹き荒れ、射程に入った亡者たちを一斉に消え去らせた。
修太朗が前に進み、おそらく出口であろう場所に目をやると、最初に話しかけてきた男が立っていた。
「……さすがは神刀、……凄まじい威力だな」
「……もう名乗る名すら忘れたが、……俺はここで最古の亡者、かつて故郷を荒らす暴龍に挑むために来た」
「……ここにいた連中の大半は俺が手にかけた者たちだ」
「……彼らを輪廻の輪に戻してくれたことに、……礼を言う」
その男はそこまで告げると、修太朗の前に跪いた。
「……頼む。俺も輪廻の輪に戻してくれ……」
修太朗は片膝をついて男の目を覗き込んだ。
すると、男はにこりと笑って一筋の涙を流し、再度、修太朗に頭を下げた。
「……頼む」
軽く息を吐くと、修太朗は、
「わかった……」
と、短く返事した。
片膝をついたまま、修太朗は神速の抜刀を見せ、横一文字に男を両断した。
男が消滅するのを目前で見ながら手を合わせた。崩れ落ちるように跪くと、修太朗は辺りをはばからず、男哭きに哭いた。
「高速道路のど真ん中を歩いている気分だな」
と、独り言を言いながら真っ直ぐに進んでいた。
「久しぶりに獲物が来たな……」
暗い声が聴こえる……
「誰かいるのか?」
そう返すと、
「いるぜ、それも大勢……」
その瞬間に殺気が迫ってくる。
咄嗟に黒夜叉で殺気を感じた方向を振り払うと、誰かが飛びのき躱す気配がした。
修太朗がよくよく目を凝らして眺めると、そこには大勢の武装した者達が立っていた。
「それは……神刀か。久しぶりに獲物が来たと思えば神刀持ちとはな……」
「獲物とは自分のことか?」
と、修太朗が言うと、嘲笑う声が飛び交う。
「他に獲物などおらん……」
これまで修太朗は多くの小鬼を斬ってきた。小鬼たちは人型ではあったが呻くだけで言葉を話すことは無かった。だが今は違う。彼らが敵であるとするなら斬らねばならない。人の体をしていて、人の言葉を話す者たちを斬り捨てることに心の中でためらいを覚えていた。
「……その神刀の効果は何だ」
そう問う声がする。
「存在を消滅させる神刀、黒滅刀……」
「……存在を消滅……ね。なら、その神刀で斬られたらここから消滅することが出来るというわけだ……」
「そうなるな。消滅後は輪廻の輪に戻るらしいがな……」
「……なら、俺たちを消滅させてもらえねぇか」
「どういうことだ」
「……俺たちはかつてこの洞窟に挑み敗れた者のなれの果てだ……。その後、この洞窟に挑むものを阻むように存在を定義され……、獲物が来るのを待ち続ける……、それも永久に……」
「永久に……」
「……そう、永久だ……、たとえ他の獲物に殺されても、またしても蘇って襲い掛かるだけの存在……、ひたすらに、永遠に……」
修太朗はそれを聴き、彼らが哀れになっていた。この暗い洞窟でひたすらに獲物を待ち、襲うだけの存在。しかも彼らには明確な意識があることが見て取れる。その境遇は彼らにとって、果て無く続く拷問でしかないだろう。気が狂えば楽になれるかもしれないが、彼らが亡者だとするとそれすら望めない……。
修太朗はここに至って覚悟を決めた。自分の一太刀で彼らがこの永劫の苦しみから救われるなら、自分の小さな罪悪感などにこだわっている場合ではないと心を定めたのだ。
「……わかった」
修太朗がそう短く返事すると、背後から殺気が奔る。
慌てずに反転し、亡者が構える槍ごと黒夜叉で切り裂く。硬いはずの槍を切り裂く瞬間は何も感じなかった抵抗が、亡者の身体を切り裂くときには何故か感じられた。
亡者たち個々人の技量は修太朗にとって警戒すべきものではなかった。雲霞のような数にものを言わせて圧力をかけてくる小鬼の方が戦いとしては厄介だと感じるほどであった。ある程度の数を減らしてから、修太朗は亡者たちが一例に並ぶように誘導しながら下がり、弓なりに構えた。
「一の太刀『扇』……」
圧倒的な剣気が修太朗の前方に吹き荒れ、射程に入った亡者たちを一斉に消え去らせた。
修太朗が前に進み、おそらく出口であろう場所に目をやると、最初に話しかけてきた男が立っていた。
「……さすがは神刀、……凄まじい威力だな」
「……もう名乗る名すら忘れたが、……俺はここで最古の亡者、かつて故郷を荒らす暴龍に挑むために来た」
「……ここにいた連中の大半は俺が手にかけた者たちだ」
「……彼らを輪廻の輪に戻してくれたことに、……礼を言う」
その男はそこまで告げると、修太朗の前に跪いた。
「……頼む。俺も輪廻の輪に戻してくれ……」
修太朗は片膝をついて男の目を覗き込んだ。
すると、男はにこりと笑って一筋の涙を流し、再度、修太朗に頭を下げた。
「……頼む」
軽く息を吐くと、修太朗は、
「わかった……」
と、短く返事した。
片膝をついたまま、修太朗は神速の抜刀を見せ、横一文字に男を両断した。
男が消滅するのを目前で見ながら手を合わせた。崩れ落ちるように跪くと、修太朗は辺りをはばからず、男哭きに哭いた。
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