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第14章 誠と正義と
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薫の安らかな寝顔を土方は一人眺めていた。
あのとき、崩れ落ちた薫を掬いあげたのは沖田だった。
「ご苦労だった。」
薫を横抱きにして部屋に運ぼうとする沖田の前に土方が立ちふさがる。
薫の面倒を見るのは俺だと、土方は信じて疑わなかった。
「どうしてこの人はこんなに真っすぐなんでしょう。」
沖田は薫の顔をまじまじと見つめながら言った。
「人を斬ったこともないのに。今だってこうやって倒れて。」
土方は薫を渡すよう黙って両手を沖田に差し出した。
しかし、沖田が薫を土方に渡すことはなかった。
「もう、こんな思いはしたくない。」
沖田の心の底からの本音だった。
「言ったでしょう。大事にしないなら、薫さんを攫って行きますって。」
呆然とする土方の横を沖田はすり抜けて行った。
そして、今、薫は沖田の部屋に敷かれた布団の上で寝息を立てている。
土方は沖田の告白を受け止めきれずにいた。
これまでもこれからもずっと薫は自分の傍にいると思い込んでいた。
手のひらで薫の頬を撫でる。
暖かい、人のぬくもりが土方の手に広がった。
薫の言葉が不意に思い出される。
―土方歳三は私の正義であり、誠です。―
薫にとって土方が全てなのだ。
だが、その思いにはどうしても答えてやることができない。
なぜなら、土方にとっての正義と誠は新選組そのものであり、
薫はそれに並び立つはずもないからだ。
きっと薫ならそれでもいいと言ってくれるはずだ。
だが、それは自分の思い上がりなのかもしれない。
そう思うと、土方は薫の寝顔すらも疎ましく感じられた。
「俺は、我がままだ。」
一人で呟き、そして立ち上がった。
沖田が台所から帰ってくる前に、土方はこの部屋を立ち去らなければならない。
土方は思いを振りきるように、足早に部屋を去った。
あのとき、崩れ落ちた薫を掬いあげたのは沖田だった。
「ご苦労だった。」
薫を横抱きにして部屋に運ぼうとする沖田の前に土方が立ちふさがる。
薫の面倒を見るのは俺だと、土方は信じて疑わなかった。
「どうしてこの人はこんなに真っすぐなんでしょう。」
沖田は薫の顔をまじまじと見つめながら言った。
「人を斬ったこともないのに。今だってこうやって倒れて。」
土方は薫を渡すよう黙って両手を沖田に差し出した。
しかし、沖田が薫を土方に渡すことはなかった。
「もう、こんな思いはしたくない。」
沖田の心の底からの本音だった。
「言ったでしょう。大事にしないなら、薫さんを攫って行きますって。」
呆然とする土方の横を沖田はすり抜けて行った。
そして、今、薫は沖田の部屋に敷かれた布団の上で寝息を立てている。
土方は沖田の告白を受け止めきれずにいた。
これまでもこれからもずっと薫は自分の傍にいると思い込んでいた。
手のひらで薫の頬を撫でる。
暖かい、人のぬくもりが土方の手に広がった。
薫の言葉が不意に思い出される。
―土方歳三は私の正義であり、誠です。―
薫にとって土方が全てなのだ。
だが、その思いにはどうしても答えてやることができない。
なぜなら、土方にとっての正義と誠は新選組そのものであり、
薫はそれに並び立つはずもないからだ。
きっと薫ならそれでもいいと言ってくれるはずだ。
だが、それは自分の思い上がりなのかもしれない。
そう思うと、土方は薫の寝顔すらも疎ましく感じられた。
「俺は、我がままだ。」
一人で呟き、そして立ち上がった。
沖田が台所から帰ってくる前に、土方はこの部屋を立ち去らなければならない。
土方は思いを振りきるように、足早に部屋を去った。
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