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第13章 馬鹿と馬鹿
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しおりを挟む山口の緑に囲まれたのどかな城下町とは異なり、下関は商いで賑わう港町。
人々の動きも活発で、静かな山口と同じ長州の領地とは思えないほどだ。
薬がぎっしりと詰まった行李は石川が担いでくれたおかげで、いつもより気楽な旅路となった。
「石川さん、巌流島ですよ!あれ!」
「おまん、元気なら荷物を持て!」
「あとちょっとで約束の場所ですから、ケチなこと言わず持ってくださいよ!」
「全く…余計なことを言わなんだら…。」
「何か言いました?石川さん。」
「ただの独り言じゃき。ほら行くぞ。」
「石川さんは感動しないんですか、巌流島に。」
「もう何べんも見たき。」
見るもの触れるもの全てが新鮮な薫とは対照的に、
何度も下関に足を運んでいるらしい石川はつまらなさそうにスタスタと歩みを進めている。
「ちょっと、置いて行かないで下さい。ほら、あそこが利助さんのおっしゃる約束の場所ですから。」
「わしはあそこにこれを置いたら、ちっくとお暇するぜよ。」
「どこか行かれるんですか。」
「おう、旧友がこっちに来てるらしくてのう。」
そうですか、と薫は相槌を打つと、利助の指定する屋敷の門をくぐろうとした。
「慎太郎!!!」
石川は向こうからやってくる人影に肩をびくつかせた。
人影はみるみる大きくなり、そして石川に勢いよく抱き着いた。
「慎太郎!!会いたかったぜよ~。」
「しっ!今は石川誠之助じゃき。」
抱き着く男の体を無理矢理引き剥がし、石川は子供を叱りつけるようにそう言った。
「おぉ、すまんすまん。しかし、おまんも変わらんのう。」
「そうそう変わってたまるか。」
「そうとも限らんぜよ。おまんが女子を携えとるとはおまんも変わったのう。」
「変わったのか、変わってないのかどっちじゃ。」
何だか漫才を見せられているように、薫は二人のやり取りがおかしくてしょうがなかった。
「お里さん、何がおかしいぜよ。」
「いいえ、笑ってませんよ。」
薫は口元を手で押さえて笑いを堪えながら答えた。
「可愛らしい女子じゃのう。名は何という。」
「里、と申します。薬の行商をしております。」
「このお里さんが下関に行くと言うから、ならばおまんに会おうと思って手伝っておったんじゃ。」
「おうおう、そがあにわしに会いたかったか、慎太郎。」
「石川誠之助じゃ!」
石川は気を取り直してという風に咳払いをして薫に向き直った。
「この男は才谷梅太郎ぜよ。わしとは古い仲じゃ。」
才谷と呼ばれた男は薫に手を差し出した。
「わしは坂本龍馬ぜよ。」
え、と薫は男の顔をまじまじと見つめた。
「さ、さかもとりょうま!?」
「おい、龍馬!何を名乗りゆうがか!」
「何か悪いことでもあったかのう。」
「悪いも何も、今は大人しくしゆうときに…!お里さん、悪いが、この男の名は忘れてくれ。」
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「お里さん!」
「え、あ、はい。わかりました。」
「すまんのう、慎太郎はすぐ怒るき…。」
「あ、あの、坂本さん…手…。」
坂本はそう言いながら薫の手を優しく握った。
それはよもや恋人さながらである。
「誰のせいじゃ!」
石川の怒号は下関の街に轟くほどであった。
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