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第二章 キアの裏切り
第一節 水晶剣の痛み
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「リシャーリス殿下離れてください。聖剣に巻き込まれます」
剣としてはありえない速度で聖剣を振りながら、キアは私に注意した。
十万年紀の歴史の中で初めてキアは魔王にとりつき、聖剣と黄水晶の剣を打ち合わせている。
異様に長く材質の如何を問わずに切断する水晶剣(聖剣の正式名は黒水晶の剣だ)は、勇者と魔王以外の者にとっては防ぐ術の無い危険な存在だ。
「このクソ魔族を、倒さなきゃならないのよ」
私は炎の魔法を剣に付与した火炎剣で、魔族に斬りつける。
相手も同等魔法である霜剣を使っているので、簡単には勝負が付かない。
今朝ハプタ王家と人間同盟の戦士達千名は、魔王排除のための最終作戦を決行した。
我々はアンテ城から転送座を次々と開き、正面階段から魔王城に侵入した。
キアは魔王との一騎打ちに入り作戦前提の一つを達成したが、全体としては作戦は失敗しつつある。
現時点で人間の戦士達は謁見の間一室に押し込められ、立錐の余地も無いほど圧迫されて端から削られている。
「リシャーリス・トノア(王位継承順位二位)・ヘリオトスよ、ランムイ・第三卿補・セネトが討ち果たす。 『旋輪の結晶』」
クソ魔族はランムイと名乗ると、操作魔法を唱えた。
凝縮された氷の結晶が白い軌跡を描いて、ランムイの周りを廻り始めた。ただし、その分霜剣の威力は減じたようである。
魔王の騎士達に私の地位が露呈しているのは良いとして、彼らは私を討ち果たすために操作魔法の使い手を養成したらしい。
操作魔法という魔法体系を作り出したのは紛れも無いこの私だ。
魔法の二重詠唱を前提としているこの戦闘技術は、素質が限定されて後継者は居ないと思っていた。嬉しい誤算だったが、継承者は全員敵側だ。
不意に後ろから押された私は、足を薙いだ霜剣にすね当てを削られた。
「ちい、押さないでよ」
「魔族の増援が来て、大扉側が押されているのです」
副官のテーアム伯爵が、人を押し分けて状況を伝えに来たのだ。
「再度命令を伝えるわ。大扉側を正面ホールに向かって突撃しなさい」
「もう四度も撃退されました、殿下」
「じゃあ伯爵、全滅を受け入れる?」
「わかりました、私が行きます」
脱出方向が大扉一つしか無い事を良いように利用され、我々は一方的にやられてる。
魔王城の謁見の間は、中の院奥にある円形の広間だ。文字通り玉座があり謁見に使われる。
天井には大きな一枚ガラスが嵌め込まれ、建物内部とは思えないほど明るい。
大きな入り口は正面の大扉のみで、大扉側と玉座裏の小さな扉からは、絶えず魔族の戦士が送り込まれてくる。
壁際はアーチで区切られた円形回廊となっており、そこに敵が入り込んでくるので、我々は気が付かないうちに全周包囲されていた。
「キアの本当の望みを聞かせて?」魔王はキアにささやいている。
「今ここで君に言わなくちゃいけないのかい?」
「勝負が付いた後でもいいけど、迷っているのね」
「確かに僕は迷っている」
ちょうど玉座の階段の下で、キアと魔王は打ち合っている。そして魔王は口巧みにキアを惑わせようとしている。
今まで十万年の間、勇者が魔王に近づけなかったのは、魔王が勇者との戦いを忌避し、勇者も深追いしなかったからだ。
歴代最強と目されるキアが戦って魔王と互角なら、魔王は以前の勇者と戦う意味を見出さなかったのかもしれない。
そもそもこの三万年ほどは人類は消極的防御に徹し、勇者が聖剣で戦う機会さえ無かった。
今回に限り魔王はキアとの一騎打ちを望み迎撃の前面に出てきたため、人間の戦士達は血気に逸って彼女に殺到した。
周知が不徹底だったのだが、水晶剣だけが魔王に通用するという事実は直感に反するのだ。
一方で魔王は確かにキアとの一騎打ちも望んだのであろうが、人間の戦士達に対する陽動の意図もあったかもしれない。
さもなくばわざわざ魔王の周辺に、不要な護衛を並べたりはしなかったはずだ。
その護衛の一人が、この魔族の第三卿補だ。
第三卿とは魔王の騎士の称号であり、世襲貴族の末席に連なる。おそらく彼が戦いに勝ってこそ正式に得られる地位だ。
「殿下、最後の指揮はお済ましですか」
「そうね、ランムイ。貴方が死んでも、操作魔法の使い手と認めましょう」
私は火炎剣を正面に構え、彼も霜剣を横に構えた。
互いに打ち合って跳ねた剣を、私は手首の回転で制御すると真上から強く振り下ろす。
二つの力が生み出した水蒸気の中、 飛来する彼の旋輪の結晶を避けると、火炎剣で霜剣を押しのけランムイの手首を切り落とした。制御を失った旋輪の結晶が地面に当たり、氷の結晶を振り撒く。
振り切った剣を素早く正面に戻すと、私は深く踏み込み彼の胸を貫いた。
「さようなら、我が弟子」
ランムイは火炎剣で焼かれた血を吐き、黒大理石の床に崩れ落ちる。
だが、勝ち誇った私を黄水晶の剣が襲った。キアと魔王の一騎打ちの場に近づきすぎたのだ。
キアは聖剣を片手で持ち左手で柄を爪弾くと、二人の水晶剣はぶつかって魔王の黄水晶の剣が跳ねた。
水晶剣同士がかちあう澄んだ音が響く中、黄水晶の剣は私の籠手に食い込み、効果の怪しい燭水晶の切片を断ちながら左腕に傷を付けた。
体中の骨を砕かれるような強烈な痛みに襲われ、私は気絶した。
剣としてはありえない速度で聖剣を振りながら、キアは私に注意した。
十万年紀の歴史の中で初めてキアは魔王にとりつき、聖剣と黄水晶の剣を打ち合わせている。
異様に長く材質の如何を問わずに切断する水晶剣(聖剣の正式名は黒水晶の剣だ)は、勇者と魔王以外の者にとっては防ぐ術の無い危険な存在だ。
「このクソ魔族を、倒さなきゃならないのよ」
私は炎の魔法を剣に付与した火炎剣で、魔族に斬りつける。
相手も同等魔法である霜剣を使っているので、簡単には勝負が付かない。
今朝ハプタ王家と人間同盟の戦士達千名は、魔王排除のための最終作戦を決行した。
我々はアンテ城から転送座を次々と開き、正面階段から魔王城に侵入した。
キアは魔王との一騎打ちに入り作戦前提の一つを達成したが、全体としては作戦は失敗しつつある。
現時点で人間の戦士達は謁見の間一室に押し込められ、立錐の余地も無いほど圧迫されて端から削られている。
「リシャーリス・トノア(王位継承順位二位)・ヘリオトスよ、ランムイ・第三卿補・セネトが討ち果たす。 『旋輪の結晶』」
クソ魔族はランムイと名乗ると、操作魔法を唱えた。
凝縮された氷の結晶が白い軌跡を描いて、ランムイの周りを廻り始めた。ただし、その分霜剣の威力は減じたようである。
魔王の騎士達に私の地位が露呈しているのは良いとして、彼らは私を討ち果たすために操作魔法の使い手を養成したらしい。
操作魔法という魔法体系を作り出したのは紛れも無いこの私だ。
魔法の二重詠唱を前提としているこの戦闘技術は、素質が限定されて後継者は居ないと思っていた。嬉しい誤算だったが、継承者は全員敵側だ。
不意に後ろから押された私は、足を薙いだ霜剣にすね当てを削られた。
「ちい、押さないでよ」
「魔族の増援が来て、大扉側が押されているのです」
副官のテーアム伯爵が、人を押し分けて状況を伝えに来たのだ。
「再度命令を伝えるわ。大扉側を正面ホールに向かって突撃しなさい」
「もう四度も撃退されました、殿下」
「じゃあ伯爵、全滅を受け入れる?」
「わかりました、私が行きます」
脱出方向が大扉一つしか無い事を良いように利用され、我々は一方的にやられてる。
魔王城の謁見の間は、中の院奥にある円形の広間だ。文字通り玉座があり謁見に使われる。
天井には大きな一枚ガラスが嵌め込まれ、建物内部とは思えないほど明るい。
大きな入り口は正面の大扉のみで、大扉側と玉座裏の小さな扉からは、絶えず魔族の戦士が送り込まれてくる。
壁際はアーチで区切られた円形回廊となっており、そこに敵が入り込んでくるので、我々は気が付かないうちに全周包囲されていた。
「キアの本当の望みを聞かせて?」魔王はキアにささやいている。
「今ここで君に言わなくちゃいけないのかい?」
「勝負が付いた後でもいいけど、迷っているのね」
「確かに僕は迷っている」
ちょうど玉座の階段の下で、キアと魔王は打ち合っている。そして魔王は口巧みにキアを惑わせようとしている。
今まで十万年の間、勇者が魔王に近づけなかったのは、魔王が勇者との戦いを忌避し、勇者も深追いしなかったからだ。
歴代最強と目されるキアが戦って魔王と互角なら、魔王は以前の勇者と戦う意味を見出さなかったのかもしれない。
そもそもこの三万年ほどは人類は消極的防御に徹し、勇者が聖剣で戦う機会さえ無かった。
今回に限り魔王はキアとの一騎打ちを望み迎撃の前面に出てきたため、人間の戦士達は血気に逸って彼女に殺到した。
周知が不徹底だったのだが、水晶剣だけが魔王に通用するという事実は直感に反するのだ。
一方で魔王は確かにキアとの一騎打ちも望んだのであろうが、人間の戦士達に対する陽動の意図もあったかもしれない。
さもなくばわざわざ魔王の周辺に、不要な護衛を並べたりはしなかったはずだ。
その護衛の一人が、この魔族の第三卿補だ。
第三卿とは魔王の騎士の称号であり、世襲貴族の末席に連なる。おそらく彼が戦いに勝ってこそ正式に得られる地位だ。
「殿下、最後の指揮はお済ましですか」
「そうね、ランムイ。貴方が死んでも、操作魔法の使い手と認めましょう」
私は火炎剣を正面に構え、彼も霜剣を横に構えた。
互いに打ち合って跳ねた剣を、私は手首の回転で制御すると真上から強く振り下ろす。
二つの力が生み出した水蒸気の中、 飛来する彼の旋輪の結晶を避けると、火炎剣で霜剣を押しのけランムイの手首を切り落とした。制御を失った旋輪の結晶が地面に当たり、氷の結晶を振り撒く。
振り切った剣を素早く正面に戻すと、私は深く踏み込み彼の胸を貫いた。
「さようなら、我が弟子」
ランムイは火炎剣で焼かれた血を吐き、黒大理石の床に崩れ落ちる。
だが、勝ち誇った私を黄水晶の剣が襲った。キアと魔王の一騎打ちの場に近づきすぎたのだ。
キアは聖剣を片手で持ち左手で柄を爪弾くと、二人の水晶剣はぶつかって魔王の黄水晶の剣が跳ねた。
水晶剣同士がかちあう澄んだ音が響く中、黄水晶の剣は私の籠手に食い込み、効果の怪しい燭水晶の切片を断ちながら左腕に傷を付けた。
体中の骨を砕かれるような強烈な痛みに襲われ、私は気絶した。
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