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四百珊瑚

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昇天編

第七話 刑事

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 刑事、神谷光蔵かみやこうぞうは疲れきっていた。喫煙所のベンチに腰掛け、頭を抱えて「はぁっ…。」と深いため息をついた。そしてジャケットのポケットからセブンスターのソフトパックを取りだし、煙草を吸いはじめた。天然パーマが若干入ったボサボサの髪にやや黒い皮膚と180cmの高い身長、年は40代半ばだが30代と言われても違和感のない男前なルックスの神谷には煙草がよく似合っていた。
 
 「あーっ!神谷さん!まーたこんなところでタバコなんか吸ってー!」

 と甲高い声で叫んでいるのは神谷の後輩、近藤桜こんどうさくらだ。身長は150cm前後、年は25歳。警察官には身長制限があるのだが、ギリギリでその制限を乗り越えた近藤は中学生くらいに見える。髪型はショートボブで、メイクはナチュラルで童顔、非常に可愛らしい容姿をしており、見かけによらず強気な性格をしている。一部の男性職員の中には熱烈なファンもいる。しかしこの近藤、身長はギリギリだが大学は名門大学の法学部卒で、警察官採用試験ではかなりの高得点で合格した。しかも、教養試験だけでなく、ただ、少し天然である。

 「もー!神谷さん!そんなもん吸って体ボロボロにしてる暇あるなら資料整理なんなりすることがあるでしょ!」

 「いやー、桜ちゃん、おじさんをいたわってよ~。それと俺、煙草吸うと元気がでる体質なの。そんな俺も昨日徹夜で野球場周辺の捜索やってくたくただよ~。」

 「こんなおじさんいたわる必要ありません!私もて・つ・や、でした!さっさと仕事してください!」

 と、この二人の夫婦漫才のような会話が始まると、もう他の者は手の施しようがない。もはやこの鳴神警察署特務課では毎度恒例の光景となりつつある。

 「仕事っていったってこんな場末の部署のダメなおっさんがやることなんかないよ~」

 と、まったりとした口調で神谷は言う。

 「んも~!なんでこんなダメなオッサンが刑事なの~!神谷さんそんなだからいつまでたっても出世できないんですよー!」

 と、かなり失礼なことを上司に向かって近藤はズカズカと言う。

 「ちょっとちょっとそんなこと言わないでよ~桜ちゃん。僕はこの鳴神警察署の中で巡査部長として立派に仕事をしてるよ!市内のおばちゃんの中には僕のファンだっているよ!」

 そうなのだ、この神谷と言う男、警察官らしからぬ物腰柔らかすぎる言動から地域のおばさまから熱烈に指示されているのだ。おばさまだけでなくご老人や子供からも人気がある。いや、というよりはむしろ子供からなめられているのかもしれない。

 「んなことどうでもいいです!神谷さんほんとは優秀な人なのに!これじゃ刑事の才能の宝の持ち腐れですよ!」

 意外なことに神谷は警察組織きっての優秀な刑事だ。国家公務員Ⅰ種試験に合格し、俗に言うキャリア組になれた可能性が高いとも言われている近藤もその能力は認めているほどだ。身体能力は軍人並みと噂されており、意外なことに非常に頭も切れる。操作において判断力、分析力、記憶力、観察力、行動力、どれをとっても非常に優秀だ。
 しかしそんな優秀な二人が鳴神警察署の窓際部署である特務課にいるかというと、まぁそれには様々な理由があるのだ。

 「おっ!桜ちゃんたまには俺のこと褒めてくれるじゃん!もっともっと褒めて~」

 「んもう!こんなおっさんとコンビなんて嫌~!」

 「しょうがないじゃん、桜ちゃんまだ交番勤務から刑事になって何ヵ月かしかたってないんだからぁ。こんな優しい先輩が色々教えてあげてるんだから感謝しなさいよ~。」

 「散々遊ばれてるの間違いじゃないですか?っていうか、こんな無駄話してないでさっさと聞き込み調査行きますよ!」

 近藤は強引に神谷の手首を引っ張り、外に連れ出そうとした。

 「いててっ!桜ちゃん、ちょっそんな引っ張んないでぇ。ダンディーな俺とデートしたい気持ちはわかるけどぉ。」

 「誰がこんな冴えないおっさんとデートなんかいくもんですか?!つまんない冗談言ってないでさっさと歩いて下さい!」

 こうして徹夜明けの二人の凸凹コンビの1日が始まった。
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