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昇天編
第四話 覚醒
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怪物の吐き出したコンクリートの塊に直撃した僕の体は、地面から離され、空中に放たれた。
「五代ぃー!!!」
矢本が僕を呼ぶ声が聞こえる。30メートルくらいは宙に浮いていただろうか、僕の体はしばらく空中をさまよったあと、野球場の壁に思い切り打ち付けられた。背中に強い衝撃が走ったあと、今度は腹に衝撃が走った。どうやら壁から跳ね返って地面に倒れこんだようだ。
「(今度こそ本当に死ぬんだ…。)」
そう確信した。だが、不思議なことにまだ僕には意識があった。
「(あれ?生きてるのか?)」
意識があるどころか、あれだけの攻撃をくらっても体のどこも痛みを感じていなかった。いや、正確には全く痛くないわけではないが、死ぬほどの痛みではない。せいぜい同級生から腹を軽くパンチされた時くらいの痛みしかない。時速100、いや200kmは出ていたかもしれないコンクリートの塊を食らってもほぼ無傷であったとことに驚いた。本当に自分は生きてるのかどうかも疑わしくなってきた。
しかもあれだけの攻撃を食らっておきながら立ち上がることができた。どうやら本当にほとんど無傷らしい。どこも骨折もしていなそうだし、内臓も筋肉も正常に機能しているようだった。
「五代!お前無事なのか?!」
また矢本の声が聞こえた。
「どうやら僕は無事みたいだ!それより早く弟をつれて逃げろ!」
僕がそう答えた瞬間、また怪物の攻撃が僕に向かってきた。
「危ない!」
矢本がまた叫んだ。だが、矢本が心配するまでもなく、今度はなんと、僕はあのコンクリートの塊をキャッチしてしまったのだ。とてつもないスピードが出ているこの塊が、スローモーションに感じた。
「(もしかしたら…)」
と思い、試しに思い切りこの塊を怪物の眼球めがけて投げつけてみた。
すると自分でも驚くべきほどの威力で、コンクリートの塊が怪物の眼球にクリーンヒットした。威力だけでなく、精度もかなりのもので、狙ったところに見事に当たった。
「ぐぎゃぁぁばぁぁぁぁぁぁ!る!?!?!」
この世のものとは思えない不気味な声で怪物が叫びだした。どうやらどんな生き物でも眼球は弱点らしい。
「矢本!怪物が怯んでる今のうちに早く逃げるんだ!ここは僕がなんとかできそうだ!」
「わかった!すまない!五代!お前…絶対死ぬなよ!」
そう言って矢本は弟をおぶって全力でダッシュして野球場の外へ向かった。
しかしなんとかできそうだとは思ったものの、まだ決定的な攻撃ではなかったようで、怪物はすぐに反撃してきた。
「ブガァァォ!」
しかも先程の僕の攻撃は怪物の逆鱗に触れてしまったらしく、怪物は皮膚を真っ赤に変色させた。攻撃の方法も先程よりかなり厄介なものになっている。
さっきまではせいぜい10秒に一発岩を吐き出していたが、今は2,3秒で数十発の岩を、散弾のように吐き出してくる。これは避けるのも攻撃するのも大変そうだと思った。
だが、不幸中の幸いと言ったところか、怪物は先程の僕の攻撃で片眼の視力を失っているようだった。一旦僕は野球場の物陰に隠れて戦略を練ることにした。
「(まず、一旦状況を整理しよう。僕が突然身体能力が上がった理由はなんだ?あと、あの怪物は一体なんなんだ?あのコンクリートの塊はどうやってあんなにたくさん吐き出しているんだ?)」
しばらく考えた末に導いた仮説はこうだ。
おそらく僕の体の変化はこのスーツによるものだと考えるのが自然だ。その証拠にあれだけの攻撃を食らっておきながら、僕の体だけでなく、スーツの方にも傷はひとつもなかった。それに、二発目の攻撃がスローに感じたのも、スーツに付属していた眼鏡のおかげかもしれないと考えた。
怪物の攻撃は、おそらく野球場の土を使っているのだろう。怪物の足元の地面は凹んでおり、怪物は土を一旦口から体内に取り込んでいるようだった。おそらく体内で土を練り固めて、それを放出しているのだろう。
しかし、そこまでわかったはいいものの、もっと決定的な攻撃になるものが欲しい。今は隠れてはいるが、このままでは火力不足で、怪物が暴れ続ければ、僕が怪物に見つかって殺されるのは時間の問題だ。
「(そういえばまだ使っていないものがいくつかあったぞ。)」
僕はまだケータイ電話と時計を使っていなかった。
「(ケータイにはやけに分厚い説明書があったな。)」
あの白い部屋で見たとき、ケータイの説明書らしきものは辞書並みの分厚さであった。もしかしたらそこにこの状況を打破できるヒントがあるかもしれない。僕は説明書のページをめくることにした。
「(これだ!)」
そこには、僕が望んでいたことが書かれていた。
「グオオォォォォォォ!」
しまった怪物に見つかってしまった。こうなったら一か八か、今見たことを駆使して怪物を倒すしかない。
「ドゴォォォン!」
次々と飛んでくる岩を避けて、僕は怪物の背後に回った。
「飛んでけえぇぇぇ!」
僕は怪物の腰回りをつかんで思い切り空に向かって投げた。70メートルくらいは飛んだだろうか。
そしてケータイを起動させた。
『complete』
携帯から音声が流れた。どうやら電源がついたようだ。
僕は携帯の上画面を開いた。下画面と平行になるまで、180度完全に開ききったところで上画面を下画面に対して45度ほど側面にスライドさせ、銃のような形にした。そして、1と0のボタンを押したあと、決定ボタンを押した。
『10 enter,handgun mode』
そして怪物に向かって携帯の先を向け、電源ボタンをワンクリックした。
「パンッ」
音がして、ビームのような物が発射された。
「グガァァァ!!!」
怪物にビームが当たった。どうやら効いているようだ。
更に僕は別のコードを入力した。
『1111 enter, machine-gun mode』
「ズダダダダ」
炸裂音を立て、連続してビームが発射された。
「アァァァァァァ!!!」
怪物の叫び声がより一層激しくなった。
「最後に、これで終わりだ!」
『4010 enter, shotgun mode』
「ズバァン」
爆発音を立て、とびきり大きいビームがゼロ距離で怪物に直撃した。怪物の体は爆発し、跡形もなくなった。
「(ふぅ。つ、疲れた。)」
気が抜けて僕は地面に寝転がった。
しかし気が抜けたのも束の間。
「(そういえば矢本たちは無事か?!)」
矢本兄弟のことが気になった僕は、急いで野球場を背に走り去った。
野球場から外に出るとすぐに矢本兄弟が見つかった。
「おぉ!五代!無事だったのか…。本当に、本当によかった!」
矢本は少し涙ぐんでいた。
「お兄ちゃん、あの怪物倒したの?」
矢本の弟も僕に話しかけてきた。
「あぁ。お兄ちゃんがちゃんと倒したから、もう安心だよ!」
「ほんと?!お兄ちゃんすごい!ありがとー!」
矢本の弟は無邪気に微笑んだ。
「なぁ、五代、実はすごいやつだったんだな!それでさ、こんなときに言うのもなんなんどけど…」
矢本は何か僕に話したそうだった。普段何かと強気な矢本にしては珍しくもじもじしている。
「その、今まで、散々お前に悪いことしてきて本当にすまなかった!だから、お詫びと今日助けてくれたお礼にこれから飯でも…」
「悪いけど、それは少し無理かな…。」
矢本は本当に申し訳なく思っている様子だった。だけど、それだけでは正直なところこれまでいじめられてきた僕の怒りは収まらなかった。
「そんな…。」
そう矢本が言いかけたとき、突然またどこからか声がした。
『任務終了。直ちに帰還せよ。』
そう聞こえた瞬間気づいたら僕はまた、あの白い部屋の棺のなかで眠っていた。
「五代ぃー!!!」
矢本が僕を呼ぶ声が聞こえる。30メートルくらいは宙に浮いていただろうか、僕の体はしばらく空中をさまよったあと、野球場の壁に思い切り打ち付けられた。背中に強い衝撃が走ったあと、今度は腹に衝撃が走った。どうやら壁から跳ね返って地面に倒れこんだようだ。
「(今度こそ本当に死ぬんだ…。)」
そう確信した。だが、不思議なことにまだ僕には意識があった。
「(あれ?生きてるのか?)」
意識があるどころか、あれだけの攻撃をくらっても体のどこも痛みを感じていなかった。いや、正確には全く痛くないわけではないが、死ぬほどの痛みではない。せいぜい同級生から腹を軽くパンチされた時くらいの痛みしかない。時速100、いや200kmは出ていたかもしれないコンクリートの塊を食らってもほぼ無傷であったとことに驚いた。本当に自分は生きてるのかどうかも疑わしくなってきた。
しかもあれだけの攻撃を食らっておきながら立ち上がることができた。どうやら本当にほとんど無傷らしい。どこも骨折もしていなそうだし、内臓も筋肉も正常に機能しているようだった。
「五代!お前無事なのか?!」
また矢本の声が聞こえた。
「どうやら僕は無事みたいだ!それより早く弟をつれて逃げろ!」
僕がそう答えた瞬間、また怪物の攻撃が僕に向かってきた。
「危ない!」
矢本がまた叫んだ。だが、矢本が心配するまでもなく、今度はなんと、僕はあのコンクリートの塊をキャッチしてしまったのだ。とてつもないスピードが出ているこの塊が、スローモーションに感じた。
「(もしかしたら…)」
と思い、試しに思い切りこの塊を怪物の眼球めがけて投げつけてみた。
すると自分でも驚くべきほどの威力で、コンクリートの塊が怪物の眼球にクリーンヒットした。威力だけでなく、精度もかなりのもので、狙ったところに見事に当たった。
「ぐぎゃぁぁばぁぁぁぁぁぁ!る!?!?!」
この世のものとは思えない不気味な声で怪物が叫びだした。どうやらどんな生き物でも眼球は弱点らしい。
「矢本!怪物が怯んでる今のうちに早く逃げるんだ!ここは僕がなんとかできそうだ!」
「わかった!すまない!五代!お前…絶対死ぬなよ!」
そう言って矢本は弟をおぶって全力でダッシュして野球場の外へ向かった。
しかしなんとかできそうだとは思ったものの、まだ決定的な攻撃ではなかったようで、怪物はすぐに反撃してきた。
「ブガァァォ!」
しかも先程の僕の攻撃は怪物の逆鱗に触れてしまったらしく、怪物は皮膚を真っ赤に変色させた。攻撃の方法も先程よりかなり厄介なものになっている。
さっきまではせいぜい10秒に一発岩を吐き出していたが、今は2,3秒で数十発の岩を、散弾のように吐き出してくる。これは避けるのも攻撃するのも大変そうだと思った。
だが、不幸中の幸いと言ったところか、怪物は先程の僕の攻撃で片眼の視力を失っているようだった。一旦僕は野球場の物陰に隠れて戦略を練ることにした。
「(まず、一旦状況を整理しよう。僕が突然身体能力が上がった理由はなんだ?あと、あの怪物は一体なんなんだ?あのコンクリートの塊はどうやってあんなにたくさん吐き出しているんだ?)」
しばらく考えた末に導いた仮説はこうだ。
おそらく僕の体の変化はこのスーツによるものだと考えるのが自然だ。その証拠にあれだけの攻撃を食らっておきながら、僕の体だけでなく、スーツの方にも傷はひとつもなかった。それに、二発目の攻撃がスローに感じたのも、スーツに付属していた眼鏡のおかげかもしれないと考えた。
怪物の攻撃は、おそらく野球場の土を使っているのだろう。怪物の足元の地面は凹んでおり、怪物は土を一旦口から体内に取り込んでいるようだった。おそらく体内で土を練り固めて、それを放出しているのだろう。
しかし、そこまでわかったはいいものの、もっと決定的な攻撃になるものが欲しい。今は隠れてはいるが、このままでは火力不足で、怪物が暴れ続ければ、僕が怪物に見つかって殺されるのは時間の問題だ。
「(そういえばまだ使っていないものがいくつかあったぞ。)」
僕はまだケータイ電話と時計を使っていなかった。
「(ケータイにはやけに分厚い説明書があったな。)」
あの白い部屋で見たとき、ケータイの説明書らしきものは辞書並みの分厚さであった。もしかしたらそこにこの状況を打破できるヒントがあるかもしれない。僕は説明書のページをめくることにした。
「(これだ!)」
そこには、僕が望んでいたことが書かれていた。
「グオオォォォォォォ!」
しまった怪物に見つかってしまった。こうなったら一か八か、今見たことを駆使して怪物を倒すしかない。
「ドゴォォォン!」
次々と飛んでくる岩を避けて、僕は怪物の背後に回った。
「飛んでけえぇぇぇ!」
僕は怪物の腰回りをつかんで思い切り空に向かって投げた。70メートルくらいは飛んだだろうか。
そしてケータイを起動させた。
『complete』
携帯から音声が流れた。どうやら電源がついたようだ。
僕は携帯の上画面を開いた。下画面と平行になるまで、180度完全に開ききったところで上画面を下画面に対して45度ほど側面にスライドさせ、銃のような形にした。そして、1と0のボタンを押したあと、決定ボタンを押した。
『10 enter,handgun mode』
そして怪物に向かって携帯の先を向け、電源ボタンをワンクリックした。
「パンッ」
音がして、ビームのような物が発射された。
「グガァァァ!!!」
怪物にビームが当たった。どうやら効いているようだ。
更に僕は別のコードを入力した。
『1111 enter, machine-gun mode』
「ズダダダダ」
炸裂音を立て、連続してビームが発射された。
「アァァァァァァ!!!」
怪物の叫び声がより一層激しくなった。
「最後に、これで終わりだ!」
『4010 enter, shotgun mode』
「ズバァン」
爆発音を立て、とびきり大きいビームがゼロ距離で怪物に直撃した。怪物の体は爆発し、跡形もなくなった。
「(ふぅ。つ、疲れた。)」
気が抜けて僕は地面に寝転がった。
しかし気が抜けたのも束の間。
「(そういえば矢本たちは無事か?!)」
矢本兄弟のことが気になった僕は、急いで野球場を背に走り去った。
野球場から外に出るとすぐに矢本兄弟が見つかった。
「おぉ!五代!無事だったのか…。本当に、本当によかった!」
矢本は少し涙ぐんでいた。
「お兄ちゃん、あの怪物倒したの?」
矢本の弟も僕に話しかけてきた。
「あぁ。お兄ちゃんがちゃんと倒したから、もう安心だよ!」
「ほんと?!お兄ちゃんすごい!ありがとー!」
矢本の弟は無邪気に微笑んだ。
「なぁ、五代、実はすごいやつだったんだな!それでさ、こんなときに言うのもなんなんどけど…」
矢本は何か僕に話したそうだった。普段何かと強気な矢本にしては珍しくもじもじしている。
「その、今まで、散々お前に悪いことしてきて本当にすまなかった!だから、お詫びと今日助けてくれたお礼にこれから飯でも…」
「悪いけど、それは少し無理かな…。」
矢本は本当に申し訳なく思っている様子だった。だけど、それだけでは正直なところこれまでいじめられてきた僕の怒りは収まらなかった。
「そんな…。」
そう矢本が言いかけたとき、突然またどこからか声がした。
『任務終了。直ちに帰還せよ。』
そう聞こえた瞬間気づいたら僕はまた、あの白い部屋の棺のなかで眠っていた。
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