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第二話
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私は大学院へ進み、臨床心理士の資格を取り、私立中学校で働き始めた。
私の肩書きはスクールカウンセラーだ。
着任後は、学生時代にお世話になった教授がスーパーバイザーという指導役としてカウンセリングの助言をしてくれることになっており、それが決め手となって採用してもらえた。つまり、私は半人前ということだ。それでも私の学校勤務が決まると、両親、とりわけ母は喜んでくれた。親孝行できたようで嬉しかった。
実家近くの学校だったので、親に甘えるのは申しわけないけれど、実家から通わせてもらうことにした。
初勤務の日、母はいってらっしゃいと言うためにわざわざ早起きしてくれた。
「たくさんの生徒さんのお役に立つのよ。教師の皆さんにも迷惑かけずにね。仁美は何も取り柄がないし、どうせ失敗ばかりなんだろうけど、ダメ元の気持ちで頑張ってね。あら、鍵にゴミがついてる」
母が指さした先には、私の右手、軽くにぎったこぶしからはみ出た自宅の鍵とキーホルダーがあった。小さな地球みたいな青と茶色の石がついている。私は両手で鍵ごとキーホルダーを握って、母の目から隠した。
「これ値段も安くて、勇気が出るお守りになるって店員さんからすすめられて、ターコイズっていう石で、キラキラしてないから良いかと思って……」
悪事を咎められたかのように、私はもごもごと言い訳を重ねる。
「ターコイズ? ああ、お年寄りがよくつけてる石ね。ダサい人ってターコイズが好きよね」
お年寄り、ダサいという言葉が脳内をかけめぐる。青い石が急に色褪せたように感じられて、キーホルダーを外して玄関横の下駄箱の上に置いた。
「あら、つけないの。せっかく買ったんならつければいいのに。仁美によく似合ってるよ」
「ううん、もういいの。それ捨てといてね。行ってきます」
私の肩書きはスクールカウンセラーだ。
着任後は、学生時代にお世話になった教授がスーパーバイザーという指導役としてカウンセリングの助言をしてくれることになっており、それが決め手となって採用してもらえた。つまり、私は半人前ということだ。それでも私の学校勤務が決まると、両親、とりわけ母は喜んでくれた。親孝行できたようで嬉しかった。
実家近くの学校だったので、親に甘えるのは申しわけないけれど、実家から通わせてもらうことにした。
初勤務の日、母はいってらっしゃいと言うためにわざわざ早起きしてくれた。
「たくさんの生徒さんのお役に立つのよ。教師の皆さんにも迷惑かけずにね。仁美は何も取り柄がないし、どうせ失敗ばかりなんだろうけど、ダメ元の気持ちで頑張ってね。あら、鍵にゴミがついてる」
母が指さした先には、私の右手、軽くにぎったこぶしからはみ出た自宅の鍵とキーホルダーがあった。小さな地球みたいな青と茶色の石がついている。私は両手で鍵ごとキーホルダーを握って、母の目から隠した。
「これ値段も安くて、勇気が出るお守りになるって店員さんからすすめられて、ターコイズっていう石で、キラキラしてないから良いかと思って……」
悪事を咎められたかのように、私はもごもごと言い訳を重ねる。
「ターコイズ? ああ、お年寄りがよくつけてる石ね。ダサい人ってターコイズが好きよね」
お年寄り、ダサいという言葉が脳内をかけめぐる。青い石が急に色褪せたように感じられて、キーホルダーを外して玄関横の下駄箱の上に置いた。
「あら、つけないの。せっかく買ったんならつければいいのに。仁美によく似合ってるよ」
「ううん、もういいの。それ捨てといてね。行ってきます」
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