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第7章 雷雨は恋の記憶と突然に
第53話
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殿村のマンションを出れば天気予報通り雨が降っていて、その勢いは強く視界が曇って見えるほどだ。
私は、タクシーを拾うとすぐに車内でスマホを操作する。
──『もう一度会いたい。話したいことがあるの。これを見たら連絡ください。自宅で待ってます』
世界に自分から会いたいとメッセージを送るのは初めてて送信ボタンを押すまで指先は震えていた。
何度も眺めてから、ようやくメッセージをおくると、私は車窓ごしに土砂ぶりの雨をみながらため息を吐いた。
(雨……ひどいな……雷鳴らないといいけど……)
私は再度スマホを覗き込む。世界に送ったメッセージはまだ既読にはなっていない。もしかしたらこのままずっと既読にならない可能性だってある。
世界を怒らせてばかりで、素直に自分の気持ちひとつ伝えられない私に世界が嫌気をさしてもおかしくない。
タクシーが自宅マンションに到着すると私は支払いを済ませて自宅玄関の鍵を回した。
「結構濡れちゃったな」
マンションのロータリーからエントランスに入る僅かな間だったのに、雨脚が強いせいでスプリングコートはかなり濡れている。私はスプリングコートを掛けると、スマホをテーブル置き、すぐにポットにお湯を沸かした。
──ヒヒーンッ
「あっ……」
マグカップにココアの粉末を入れながら鳴ったスマホに慌てて飛びつく。
──『心奈の家で話してた。もうすぐ帰るから』
(こんな遅い時間に……心奈さん家?)
すぐに窓の外から聞こえる雨音に呼応するように心の中にも雨が降り注いでいく。
自分だってつい先程まで殿村と一緒だった。挙句一瞬だが殿村に抱かれてもいいとさえ思ったくせに、世界が夜遅くにあの心奈の自宅で一緒にいた事実に悲しくなってくる。
ポタンと落ちた水滴がカーペットに染み込んでいく。そして窓の外に一筋の閃光がはしった。
「きゃっ……!」
大きな隕石が落下したかのような雷轟に私は咄嗟に耳を塞いで蹲った。そしてリビングの照明がチカッと光ったのを最後に闇に包まれる。
(え、嘘……停電っ……)
すぐに片手は耳を押さえたまま、スマホを手繰り寄せる。雷による一時的な電波障害なのかスマホの液晶は真っ黒だ。
「……そんな……」
私のそんなか細い声を嘲笑うかのように窓越しの雷音は、お構いなしに稲光と共に空を埋め尽くしていく。私は震えだした身体をなんとか動かして、ベッドまで這っていくと毛布を頭からかぶった。
(…………すぐおさまるから……)
私は毛布を巻きつけたまま震えの止まらない体を抱きしめた。暗闇の中で雷音が聞こえるたびに体が跳ね上がる。将勝が事故で死んだと聞かされて病院で動かなくなった父を囲んで桜子と二人で泣いたことを思い出す。
──『大丈夫だよ』
ふいに、もうずいぶん昔に一緒に雨宿りした男の子の声が聞こえた気がした。切長の瞳で口が悪くてすぐ舌打ちするような生意気な子で、どう見ても私より随分年下で子供だった。
でもあの雨宿りの時、あの子のお陰で私は救われた。
──『雷ってさ多分空から、泣くな、負けるなって神さまが叱ってくれてんじゃないかな……だからアンタも泣くなよ』
そう言って男の子は両耳を押さえて泣いている私に覆いかぶさるようにして側にいてくれた。
あんな小さな子に慰められたのも守ってもらったのは、最初で最後だった。
「大丈夫……もうすぐ止む……負けないように……泣か……ひっく……」
もう泣きたくなんかないのに、涙は本当に嫌になるくらいコントールできずに溢れていく。
「……こわいよ……」
ポツリと呟いたその時、一際大きな雷の音が鳴り響き私は身を縮めて蹲った。
その小さくなった私の身体は、大きな掌で抱きしめられる。
私は、タクシーを拾うとすぐに車内でスマホを操作する。
──『もう一度会いたい。話したいことがあるの。これを見たら連絡ください。自宅で待ってます』
世界に自分から会いたいとメッセージを送るのは初めてて送信ボタンを押すまで指先は震えていた。
何度も眺めてから、ようやくメッセージをおくると、私は車窓ごしに土砂ぶりの雨をみながらため息を吐いた。
(雨……ひどいな……雷鳴らないといいけど……)
私は再度スマホを覗き込む。世界に送ったメッセージはまだ既読にはなっていない。もしかしたらこのままずっと既読にならない可能性だってある。
世界を怒らせてばかりで、素直に自分の気持ちひとつ伝えられない私に世界が嫌気をさしてもおかしくない。
タクシーが自宅マンションに到着すると私は支払いを済ませて自宅玄関の鍵を回した。
「結構濡れちゃったな」
マンションのロータリーからエントランスに入る僅かな間だったのに、雨脚が強いせいでスプリングコートはかなり濡れている。私はスプリングコートを掛けると、スマホをテーブル置き、すぐにポットにお湯を沸かした。
──ヒヒーンッ
「あっ……」
マグカップにココアの粉末を入れながら鳴ったスマホに慌てて飛びつく。
──『心奈の家で話してた。もうすぐ帰るから』
(こんな遅い時間に……心奈さん家?)
すぐに窓の外から聞こえる雨音に呼応するように心の中にも雨が降り注いでいく。
自分だってつい先程まで殿村と一緒だった。挙句一瞬だが殿村に抱かれてもいいとさえ思ったくせに、世界が夜遅くにあの心奈の自宅で一緒にいた事実に悲しくなってくる。
ポタンと落ちた水滴がカーペットに染み込んでいく。そして窓の外に一筋の閃光がはしった。
「きゃっ……!」
大きな隕石が落下したかのような雷轟に私は咄嗟に耳を塞いで蹲った。そしてリビングの照明がチカッと光ったのを最後に闇に包まれる。
(え、嘘……停電っ……)
すぐに片手は耳を押さえたまま、スマホを手繰り寄せる。雷による一時的な電波障害なのかスマホの液晶は真っ黒だ。
「……そんな……」
私のそんなか細い声を嘲笑うかのように窓越しの雷音は、お構いなしに稲光と共に空を埋め尽くしていく。私は震えだした身体をなんとか動かして、ベッドまで這っていくと毛布を頭からかぶった。
(…………すぐおさまるから……)
私は毛布を巻きつけたまま震えの止まらない体を抱きしめた。暗闇の中で雷音が聞こえるたびに体が跳ね上がる。将勝が事故で死んだと聞かされて病院で動かなくなった父を囲んで桜子と二人で泣いたことを思い出す。
──『大丈夫だよ』
ふいに、もうずいぶん昔に一緒に雨宿りした男の子の声が聞こえた気がした。切長の瞳で口が悪くてすぐ舌打ちするような生意気な子で、どう見ても私より随分年下で子供だった。
でもあの雨宿りの時、あの子のお陰で私は救われた。
──『雷ってさ多分空から、泣くな、負けるなって神さまが叱ってくれてんじゃないかな……だからアンタも泣くなよ』
そう言って男の子は両耳を押さえて泣いている私に覆いかぶさるようにして側にいてくれた。
あんな小さな子に慰められたのも守ってもらったのは、最初で最後だった。
「大丈夫……もうすぐ止む……負けないように……泣か……ひっく……」
もう泣きたくなんかないのに、涙は本当に嫌になるくらいコントールできずに溢れていく。
「……こわいよ……」
ポツリと呟いたその時、一際大きな雷の音が鳴り響き私は身を縮めて蹲った。
その小さくなった私の身体は、大きな掌で抱きしめられる。
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