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第6章 恋の見積もり対決
第32話
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※※
「今日も疲れたな……っていまから接待か」
由紀恵の海外出張に合わせてなんとか依頼された見積を提出した私は、日々業務と並行しながら、隙間時間と残業時間に都市開発の見積もりを作成しているが全く終わりが見えない。
「さすがに……焦る……」
事務所の壁掛け時計を見れば、もう定時の十八時を回っている。震えたスマホの相手は殿村だ。
──『もう一軒得意先回ってから店に向かう。予定通り接待大丈夫か?』
私もすぐに返事をおくる。
『大丈夫、あとで店の前で』
文言を入力して殿村に送信した途端、また直ぐにスマホはメッセージを受信する。
──『梅子さん、接待おわったら会えない?やっぱりそろそろ二人きりで会いたい』
私は世界からの『会いたい』の文字を目で二度なぞった。
世界は大量の仕事に追われている私を気遣ってくれ、業務時間内は私の業務を軽減するためかなりの数の見積もりをこなし徹底的に私のフォローに入ってくれている。そしてプライベートでは、私の邪魔をしないよう二人で会うことを我慢すると話していた世界はその言葉通り、この二週間おとなしく待てしつづけてくれている。
「私だって……会いたいよ……」
でも世界と会う時間があるくらいなら今は見積作成に当てなければいけない。この都市開発の見積りが私と世界の交際継続にかかわる重大案件だから。
『ごめん、今日接待でおそくなるし帰ったら見積作成するから』
五分間たっぷり考えてから返事を送った私のスマホはすぐに秒で震える。
──『もう限界。添い寝するだけ』
再び図面を広げると、私は目頭を押さえながら世界の顔を思い浮かべる。
(長らく待てし続けているあのワンコが……添い寝で終わるのかしら……?)
私は再び五分間熟考してから『会えるか分からないけど、帰ったら連絡するね』と送信するとスマホの電源を切った。そうでもしないと切り替えられない。
本当は今すぐにでも世界に会いたい。
私はパソコンの電源も落とすと。ジャケットを羽織った。
エレベーターに向かえば、ちょうど上の階から降りてきてゆっくり扉が開く。
「あ……」
私の発した小さな声に心奈の眉間に皺が寄った。そして心奈はさっとボタン側に身体を寄せると『開』のボタンを押す。
「ありがと……」
直ぐに扉はしめられエントランスに向って下降していく。心奈の鞄からは商品カタログは勿論、様々な資料が山盛りに入っていて、溢れた資料の何冊かは片腕に抱えている。
「なんですか?私が見積りに悪戦苦闘してるのそんなに面白いですか?」
「そんなんじゃないけど……」
手に持っている資料からはたくさんの付箋が飛び出していて、心奈が毎日残業しながら必死に見積を作成して姿が容易に想像できた。手元を見ればこの間までジェルネイルが施されていた指先は爪がギリギリまで切られていて、ジェルネイルどころかマニキュアすらしていない。
(本気……なんだ)
「見積のクオリティーはもしかしたら源課長の方が上回るかもしれないですけど、数字と経営に関しては私もプライドがあるので負けるつもりないですから」
「……私も全力で臨むから……」
そう私だってどうしても負けられない。負けるわけにはいかない。
心奈がこちらに向き直ると私の視線を捕まえる。
「もし、私が勝ったら、世界とはきっぱり別れてくださいね」
「……負けないから。世界くんとは別れない、別れられないから、勝つだけ考えてるから」
「ふ……恥ずかしげもなく良く言えますね。年考えたらどうですか?」
「もう年の差とか置かれてる立場とか考えるのやめたからっ、じゃあお疲れさまでした」
心奈を見ればすぐに心が折れそうになる。
若く令嬢であり由紀子からも世界の婚約者として認められている心奈が羨ましくて仕方ない。
扉が開くと同時に私はそう言い放つと心奈を振り返ることなく、急ぎ足で接待の行われる旅館へと向かった。
「今日も疲れたな……っていまから接待か」
由紀恵の海外出張に合わせてなんとか依頼された見積を提出した私は、日々業務と並行しながら、隙間時間と残業時間に都市開発の見積もりを作成しているが全く終わりが見えない。
「さすがに……焦る……」
事務所の壁掛け時計を見れば、もう定時の十八時を回っている。震えたスマホの相手は殿村だ。
──『もう一軒得意先回ってから店に向かう。予定通り接待大丈夫か?』
私もすぐに返事をおくる。
『大丈夫、あとで店の前で』
文言を入力して殿村に送信した途端、また直ぐにスマホはメッセージを受信する。
──『梅子さん、接待おわったら会えない?やっぱりそろそろ二人きりで会いたい』
私は世界からの『会いたい』の文字を目で二度なぞった。
世界は大量の仕事に追われている私を気遣ってくれ、業務時間内は私の業務を軽減するためかなりの数の見積もりをこなし徹底的に私のフォローに入ってくれている。そしてプライベートでは、私の邪魔をしないよう二人で会うことを我慢すると話していた世界はその言葉通り、この二週間おとなしく待てしつづけてくれている。
「私だって……会いたいよ……」
でも世界と会う時間があるくらいなら今は見積作成に当てなければいけない。この都市開発の見積りが私と世界の交際継続にかかわる重大案件だから。
『ごめん、今日接待でおそくなるし帰ったら見積作成するから』
五分間たっぷり考えてから返事を送った私のスマホはすぐに秒で震える。
──『もう限界。添い寝するだけ』
再び図面を広げると、私は目頭を押さえながら世界の顔を思い浮かべる。
(長らく待てし続けているあのワンコが……添い寝で終わるのかしら……?)
私は再び五分間熟考してから『会えるか分からないけど、帰ったら連絡するね』と送信するとスマホの電源を切った。そうでもしないと切り替えられない。
本当は今すぐにでも世界に会いたい。
私はパソコンの電源も落とすと。ジャケットを羽織った。
エレベーターに向かえば、ちょうど上の階から降りてきてゆっくり扉が開く。
「あ……」
私の発した小さな声に心奈の眉間に皺が寄った。そして心奈はさっとボタン側に身体を寄せると『開』のボタンを押す。
「ありがと……」
直ぐに扉はしめられエントランスに向って下降していく。心奈の鞄からは商品カタログは勿論、様々な資料が山盛りに入っていて、溢れた資料の何冊かは片腕に抱えている。
「なんですか?私が見積りに悪戦苦闘してるのそんなに面白いですか?」
「そんなんじゃないけど……」
手に持っている資料からはたくさんの付箋が飛び出していて、心奈が毎日残業しながら必死に見積を作成して姿が容易に想像できた。手元を見ればこの間までジェルネイルが施されていた指先は爪がギリギリまで切られていて、ジェルネイルどころかマニキュアすらしていない。
(本気……なんだ)
「見積のクオリティーはもしかしたら源課長の方が上回るかもしれないですけど、数字と経営に関しては私もプライドがあるので負けるつもりないですから」
「……私も全力で臨むから……」
そう私だってどうしても負けられない。負けるわけにはいかない。
心奈がこちらに向き直ると私の視線を捕まえる。
「もし、私が勝ったら、世界とはきっぱり別れてくださいね」
「……負けないから。世界くんとは別れない、別れられないから、勝つだけ考えてるから」
「ふ……恥ずかしげもなく良く言えますね。年考えたらどうですか?」
「もう年の差とか置かれてる立場とか考えるのやめたからっ、じゃあお疲れさまでした」
心奈を見ればすぐに心が折れそうになる。
若く令嬢であり由紀子からも世界の婚約者として認められている心奈が羨ましくて仕方ない。
扉が開くと同時に私はそう言い放つと心奈を振り返ることなく、急ぎ足で接待の行われる旅館へと向かった。
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