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第4章 両想いってことで
第14話
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殿村が私を連れてきたのは、なじみの焼鳥屋だった。店主の名字である『たきもと』と筆文字で書かれた暖簾をくぐってすぐに、いつものカウンターに上着を脱いで二人で並んで座る。
「お、伊織久しぶりだな」
「久しぶり、修二さん」
「残業帰りか?ビールでいい?」
「あ、僕はビールで梅子はカルピスチューハイで。ちなみに新入社員歓迎会の帰りです」
滝本修二は殿村の元上司で事故で亡くなったご両親の跡を継ぐために脱サラし、焼鳥屋を経営している。
「梅子ちゃんも久しぶり、相変わらず可愛いね、べっぴんさん」
修二は涼し気な一重瞼をにこりと細めた。
「修二さん、毎回言ってくれますけど、もう入社十二年目なんで、可愛いなんて言っていってくれるの修二さんくらいです」
そう言葉にしてから、ふと耳元で『梅子さん可愛い』と甘ったるく囁く世界の声が聞こえてきそうになり小さく首を振った。
「梅子どうした?」
「いや……なんでもない……」
「あ、伊織、梅子ちゃん、おまちどうさま」
目も前にビールとカルピスチューハイがおかれて私たちはグラスを合わすと互いの胃に流し込んでいく。
「あ、修二さん、奥様のつわりおちつかれました?」
「おぉ、おかげさんでな、梅子ちゃんありがとな。ようやく嫁さん安定期はいって正直ホッとしてるよ」
確か修二の奥様は私と同じ年だと以前殿村と飲みに来た時に修二が話していた。なかなか子供が出来ないことを悩んでいたのを知っていた私と殿村にとって嬉しい報告だ。
「ついに修二さんもパパか~、すっごい楽しみですね」
「梅子ちゃん、ありがとね。伊織―、お祝いはずめよ!おむつケーキも宜しく」
修二が殿村を小突くと「はいはい分かってますよ」と殿村が眉を下げた。
「それはそうと、お前ちょっと痩せたか?飯食ってんのか?」
「あぁ、僕、料理できないんでコンビニとかで済ませちゃってますかね、食べずに寝ちゃうこともあるし。それでかな」
「しょうがねぇなぁ、これ食っとけ、サービスしてやる」
殿村が肩をすくめるのを見ながら、修二が親子どんぶりを殿村の前にコトンと置いた。
「すいません」
「はい、梅子ちゃんはこっちね。梅子ちゃんサラダ」
そして私の前には大好きな豆腐とオクラのサラダが置かれる。
「わ、これ大好き。ありがとうございます」
「……ったく、伊織はトイレの図面ばっかみてねぇで、たまには料理アプリでも開けよ。最近の料理アプリは凄いからな、この料理アプリは男性向けに作られてるし」
「へぇ、修二さん料理できるのにそんなの見てるんですか?」
殿村が目を丸くする。
「まあな」
修二がポケットからスマホを取り出すと料理アプリを開いて見せた。黄色のアイコンで『COOK・YOU』と書いてある。私も殿村と一緒にのぞき込んで直ぐに気づく。
(あ、このアプリ、世界くんが使ってるやつだ……)
──『これに梅子さんのすきな食べ物いれてたら梅子さん喜ぶメニューでてくんの』
今度は世界のにっと歯を見せて笑う少年みたいな笑顔が視界に降りてくる。
「嫁さんがつわりでしんどい時にこれ使ってたんだけど、レシピも豊富だしな、作ってあげたい相手とシチュエーションとかを簡単に入れるだけで女性が喜びそうな簡単レシピがわんさかだ」
私は修二の言葉を聞きながらくすっと笑った。女性の為の男性向けの料理アプリだと知らなかったが、世界からLINEに食事のお誘いが入るたびに美味しそうな画像も一緒に貼りつけされていた。その画像はすべて『COOK・YOU』のものだからだ。
(もしかして私の為にアプリをダウンロードしたのかな……)
「梅子ちゃんどうかした?」
「あ、なんでもないんです」
「梅子、最近ぼーっとしてることあるけど悩み事でもあるのか?」
(悩みごとっていうか……年下お代官さまが……ってもう考えないっ
)
「別にないわよ……悩み事なんて」
私は誤魔化すようにオクラをつまんで口の中に入れる。
「そんなことより殿村こそ残業しすぎじゃない?修二さんの言う通りもう少し自分を労わりなさいよ。そのうち身体こわすわよ?」
「そうそう、伊織は仕事熱心なのはいいけど、その分抱えすぎだし。大体自分に負荷かけすぎなんだよな、完全にしんどくなる前にそのストイックなスタイル変えた方がいいぞ」
「そうですよね、殿村は仕事の鬼だから」
私と修二の言葉を黙って聞いていた殿村が珍しく唇を尖らせた。
「梅将軍なんて呼ばれてる梅子に言われたくないな」
「お、伊織も拗ねるんだな」
「あはは。ほんとだ」
「拗ねてないですよ、大人なんで」
そういいながら殿村がビールを飲み干すと、すぐに修二がお代わりを差し出した。
「て、ところで、お前も梅子ちゃんもイイヒトいないのか?今年三十五だろ?良い報告待ってるんだけどな?」
修二がせっせと焼き鳥を炭火の上で回しながら強面を緩めた。
「まぁ、僕はなんだかんだ今はいないですね」
「へぇ。梅子ちゃんは?彼氏は?」
彼氏というフレーズにまた直ぐに意地悪な噛みつきワンコの顔が頭にうかんでくる。
(彼氏っていっても契約交際な訳だし……彼氏は、いないってことでいいわよね……)
「いない……んですよ……残念ながら」
「梅子、そうなんだ?」
「え?なによ、殿村?」
「いや、なんでもない」
世界はあのあと心奈を連れて心奈の自宅へ向かったのだろうか?今晩は家に帰って来るのだろうか。
「もったいねぇなぁ。梅子ちゃんこんな美人だし、仕事もできるし性格もいい。伊織もいないみたいだし、この際っていったらなんだけど伊織なんてどう?」
「え?殿村ですか?私と付き合わなくても若くてかわいい女の子がわんさか寄ってきてますから。ね、殿村」
「まぁ……お誘いはあるけど……僕にはずっと想いを寄せてる人がいるんでね」
「え!殿村そうなのっ?!嘘、社内?!」
「おっ、お殿さまももついに年貢の納めどきか?ってちょい外すわ」
修二が焼いていた焼き鳥を皿に乗せるとアルバイトの店員の元へと運んでいく。
直ぐに殿村がこちらを向いた。
「やっと二人きりなれたな、梅子お疲れ様、乾杯しなおそっか」
「えっと、うん乾杯」
私たちは飲みかけのグラスを合わせるとそれぞれの胃に流し込んでいく。
(ん?二人きりって言った……?)
今までも殿村が私といるとき、そんな同期らしからぬ発言をしたことあっただろうか?
(世界くんのことといい、私も考えすぎね)
私はすぐに先ほどの話へと会話を戻した。
「ね、ところで殿村誰よ?」
「何が?」
「ごまかさないで」
「まぁ、僕にだって好きな人くらいいるよって話だよ。相手の子も結婚適齢期だと思ってるし、結婚前提で付き合えたらなってさ」
知らなかった。殿村は確かにモテるし、夜のオフィスで残業中、直帰せずに営業から戻ってきた殿村に女子社員が待ち構えていて告白する現場を私は何度も目撃している。毎年のバレンタインなんて大きな紙袋三つでも足りてない。今までも彼女がいることはあったが長続きせず、気づけばまたフリーに戻っていたということばかりだった。
(へぇ、結婚まで考えてる殿村の想い人ってだれなんだろう?)
「意外だなぁ。殿村って結婚願望あったんだね」
「失礼だな、あるよ。今まで付き合った子は結婚は考えてなかった。その子だけだよ、結婚したいってずっと思ってるのは」
「ちょっとめちゃくちゃ気になるじゃない。なんでその子に告白はしないの?殿村ならいけそうだけど?」
「あはは。やけに聞いてくるね。そうだね、今までもアプローチはしてるつもりんだけどね、ただなかなか気づいてもらえてない。でももうすぐ告白するつもり、その子の為に今まで言うの待ってたから」
殿村との付き合いは長いがまさか社内に殿村の想い人がいるなんて本当に驚きだ。普段から飄々としていていまいち何を考えているのか分からないが、生真面目な殿村のことだから、告白が成功すれば、私の元カレのように浮気することもなく生涯その子のことを愛して大切にするのだろう。
「そっか……上手くいくといいね」
「上手くいけば梅子にだけは話すよ」
「殿村もついに結婚か……」
同期であり戦友のように思っていた殿村が結婚して家庭を持つと思うとやはり寂しく思う。
(もうこうして気軽に飲みに行くこともなくなるかもしれないんだな)
「梅子は気が早いな、まだわからないけど、でも僕子供好きだからさ、結婚したら早く子供も欲しいかな」
殿村はビールを飲み干すとタバコに火をつけた。
「子供かぁ……」
私はグラスを傾けながら、ふと出産というワードが頭の中に浮かぶ。
(結婚と……出産か……)
もうすぐ私は三十五歳を迎える。三十五歳以上の出産は高齢出産のくくりに分類されるのを知っている。今すぐ結婚したとして私が子供を産むのはいつになってしまうのだろうか?
(結婚すらみえないのに出産なんてまだまだ縁遠いわね……)
やはりこのまま世界と付き合うことは互いにとって何の意味もなさないような気がしてくる。
恋愛において結婚がゴールじゃないことは理解してるつもりだ。それでも若い世界とちがって勢いに任せて誰かと気軽に付き合う年ではないのは事実で、心の真ん中にいつも魚の骨が刺さってるような痛みとなんだか悪いことをしているような後ろめたさが拭えない。
それに結婚はさておいて出産のリミットは私の年齢を考えれば確実にすぐそこまで迫ってきている。
「梅子も子ども好きそうだな」
「ん?……そうね、私一人っ子だから子供は二人は欲しいな、なんて思ってたけど、結婚すらも危ういわ。それはおいといて、殿村もほんと子供好きよね。以前会社の展示会でご家族で来店されたお客さまの対応しながら子供たちの面倒もよく見てたから」
「よくみてるな。僕、若い頃から結婚願望は強い方なんだけどさ、気づけばもう三十五だし」
「それはお互いさまでしょ」
「だな」
顔を見合わせてクスっと笑う。そして殿村がビールと追加で頼むのを聞きながらはこばれてきた肉じゃがを取り分けて殿村の前にことりと置いた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
殿村に返事をしたと同時にスカートのポケットに入れっぱなしのスマホが震える。ここにきてから何度目だろうか。わざわざスマホを取り出して見なくても相手はわかっている。
私はホテル会場での世界と心奈のやり取りをかき消すように、カルピスチューハイに口づけた。
「ん?梅子、いつもよりペース早いな、あんま酒強くないんだから飲みすぎんなよ。ま、ちゃんと家まで送ってやるけどね」
「え?殿村の家、駅から反対方向じゃない。子供じゃないし、心配しなくてもちゃんと帰れるわよ」
「心配ぐらいさせて欲しいな」
「殿村?」
「送らせて」
殿村の視線に思わず口ごもってしまう。
殿村からはよく揶揄われることはあるが、こんな風に女の子を見るような視線で見つめられると自分の知ってる殿村じゃない気がしてドキンとする。
「じゃあ……お願い」
「了解」
またポケットの中のスマホが震えたが私は確認することなく、手元のハツに噛り付いた。
「好きだな、ハツ。貧血防止だっけ?」
殿村が隣でモモを咀嚼しながら、二本目の煙草に火をつけた。
「よく覚えてるわねっていうか、いつ禁煙するのよ?」
「あれ?僕、するって言ったっけ?」
「言ってたわよ、随分前だけど入社一年目の冬かな?スキー場改修の見積を私が作って殿村が営業かけて納品決まったお祝いに何故か、殿村が梅子の見積のおかげとか言って此処に初めて連れてきてくれたときに。」
「あぁ、懐かしいな。いやあれ梅子がちゃんと寒冷地仕様の商品を見積してくれてさ、ほんと助かったから。で、その時僕、禁煙するなんて言った?」
殿村が煙草を灰皿に置くとビールを傾けながら唇を持ち上げた。
「入社十二年、ようは三十五歳までにタバコやめるって言ってたわよ」
「あ、そういえば言ったような気もするし言ってないような気もするな」
「ばか、言ったのよ」
「はいはい、梅子が僕が何気なく言ったこと覚えてくれてて嬉しいよ」
「た、たまたまだから……」
やっぱり今日の殿村はいつもと違う。どこがどうといわれてもうまく説明できないのだけれど。私は食べ終わったクシをクシ入れに放り込みカルピスチューハイを飲み干した。
「梅子、次でおわりな」
「わかってるわよ……」
やや呆れた顔をしながらも直ぐに殿村が追加でレモンチューハイを注文する。
「二杯目がレモンチューハイってよくわかったわね」
「梅子が一杯目のペース早い時は、口当たりさっぱりさせたいのか眠気防止なのか分からないけどいつもレモンチューハイだからね」
「すご、よく見てんのね。正解、酸味で頭すっきりさせたいから」
「ま、酒は酒だけどね」
「うるさいわよ」
殿村がニヤッと笑いながら煙草の灰を灰皿に器用に落としていく。
「で、さっきの禁煙の話だけど、その時梅子が十二年後の自分について僕に話してくれたの覚えてる?」
「えっ、十二年後の自分?全然覚えてない、なんて言ってた?」
「それはまたこんど教えてやるよ」
「ケチね、もったいぶって」
口を尖らせた私を見ながら殿村は肺一杯に煙を吸い込む。
「それにしても十二年もまえか……二十三とか若っ……。あの頃は若いってだけで無敵だったわ」
月日が経つのは遅いようでほんとあっという間だ。世界のように新入社員として夢と希望だけをポケットに入れて、毎日がむしゃらになんとか大人の仲間入りをしたくて必死だった頃が懐かしい。
「今も梅子は無敵だと思うけどね」
殿村が最後の一個のだし巻を私の方へさりげなく寄せる。
「無敵なんかじゃないわよ……年を重ねるにつれて臆病になったから……ほんといつからこんなに臆病になったんだろう……」
「僕から見たら梅子は何にも変わらないよ。いつも一生懸命でひた向きで、何事も前向きだろ。臆病じゃなくて慎重なんだよ。でもそれは大人になれば誰だって慎重にもなるだろ、仕事も恋も」
殿村の大きな掌が伸びてきて私の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「ちょ……と」
「僕も褒めてやるから、たまには自分で自分も褒めて労わってやれよ」
「あ、りがと」
お酒のせいじゃない。
なぜだか殿村の掌が触れて場所が時間をおいて熱くなってくる。
「もう一本だけ吸わせて」
「えっと、どうぞ」
殿村がタバコを吸う仕草を眺めながら、私は最後の一個のだし巻をそっと口に入れた。
「お、伊織久しぶりだな」
「久しぶり、修二さん」
「残業帰りか?ビールでいい?」
「あ、僕はビールで梅子はカルピスチューハイで。ちなみに新入社員歓迎会の帰りです」
滝本修二は殿村の元上司で事故で亡くなったご両親の跡を継ぐために脱サラし、焼鳥屋を経営している。
「梅子ちゃんも久しぶり、相変わらず可愛いね、べっぴんさん」
修二は涼し気な一重瞼をにこりと細めた。
「修二さん、毎回言ってくれますけど、もう入社十二年目なんで、可愛いなんて言っていってくれるの修二さんくらいです」
そう言葉にしてから、ふと耳元で『梅子さん可愛い』と甘ったるく囁く世界の声が聞こえてきそうになり小さく首を振った。
「梅子どうした?」
「いや……なんでもない……」
「あ、伊織、梅子ちゃん、おまちどうさま」
目も前にビールとカルピスチューハイがおかれて私たちはグラスを合わすと互いの胃に流し込んでいく。
「あ、修二さん、奥様のつわりおちつかれました?」
「おぉ、おかげさんでな、梅子ちゃんありがとな。ようやく嫁さん安定期はいって正直ホッとしてるよ」
確か修二の奥様は私と同じ年だと以前殿村と飲みに来た時に修二が話していた。なかなか子供が出来ないことを悩んでいたのを知っていた私と殿村にとって嬉しい報告だ。
「ついに修二さんもパパか~、すっごい楽しみですね」
「梅子ちゃん、ありがとね。伊織―、お祝いはずめよ!おむつケーキも宜しく」
修二が殿村を小突くと「はいはい分かってますよ」と殿村が眉を下げた。
「それはそうと、お前ちょっと痩せたか?飯食ってんのか?」
「あぁ、僕、料理できないんでコンビニとかで済ませちゃってますかね、食べずに寝ちゃうこともあるし。それでかな」
「しょうがねぇなぁ、これ食っとけ、サービスしてやる」
殿村が肩をすくめるのを見ながら、修二が親子どんぶりを殿村の前にコトンと置いた。
「すいません」
「はい、梅子ちゃんはこっちね。梅子ちゃんサラダ」
そして私の前には大好きな豆腐とオクラのサラダが置かれる。
「わ、これ大好き。ありがとうございます」
「……ったく、伊織はトイレの図面ばっかみてねぇで、たまには料理アプリでも開けよ。最近の料理アプリは凄いからな、この料理アプリは男性向けに作られてるし」
「へぇ、修二さん料理できるのにそんなの見てるんですか?」
殿村が目を丸くする。
「まあな」
修二がポケットからスマホを取り出すと料理アプリを開いて見せた。黄色のアイコンで『COOK・YOU』と書いてある。私も殿村と一緒にのぞき込んで直ぐに気づく。
(あ、このアプリ、世界くんが使ってるやつだ……)
──『これに梅子さんのすきな食べ物いれてたら梅子さん喜ぶメニューでてくんの』
今度は世界のにっと歯を見せて笑う少年みたいな笑顔が視界に降りてくる。
「嫁さんがつわりでしんどい時にこれ使ってたんだけど、レシピも豊富だしな、作ってあげたい相手とシチュエーションとかを簡単に入れるだけで女性が喜びそうな簡単レシピがわんさかだ」
私は修二の言葉を聞きながらくすっと笑った。女性の為の男性向けの料理アプリだと知らなかったが、世界からLINEに食事のお誘いが入るたびに美味しそうな画像も一緒に貼りつけされていた。その画像はすべて『COOK・YOU』のものだからだ。
(もしかして私の為にアプリをダウンロードしたのかな……)
「梅子ちゃんどうかした?」
「あ、なんでもないんです」
「梅子、最近ぼーっとしてることあるけど悩み事でもあるのか?」
(悩みごとっていうか……年下お代官さまが……ってもう考えないっ
)
「別にないわよ……悩み事なんて」
私は誤魔化すようにオクラをつまんで口の中に入れる。
「そんなことより殿村こそ残業しすぎじゃない?修二さんの言う通りもう少し自分を労わりなさいよ。そのうち身体こわすわよ?」
「そうそう、伊織は仕事熱心なのはいいけど、その分抱えすぎだし。大体自分に負荷かけすぎなんだよな、完全にしんどくなる前にそのストイックなスタイル変えた方がいいぞ」
「そうですよね、殿村は仕事の鬼だから」
私と修二の言葉を黙って聞いていた殿村が珍しく唇を尖らせた。
「梅将軍なんて呼ばれてる梅子に言われたくないな」
「お、伊織も拗ねるんだな」
「あはは。ほんとだ」
「拗ねてないですよ、大人なんで」
そういいながら殿村がビールを飲み干すと、すぐに修二がお代わりを差し出した。
「て、ところで、お前も梅子ちゃんもイイヒトいないのか?今年三十五だろ?良い報告待ってるんだけどな?」
修二がせっせと焼き鳥を炭火の上で回しながら強面を緩めた。
「まぁ、僕はなんだかんだ今はいないですね」
「へぇ。梅子ちゃんは?彼氏は?」
彼氏というフレーズにまた直ぐに意地悪な噛みつきワンコの顔が頭にうかんでくる。
(彼氏っていっても契約交際な訳だし……彼氏は、いないってことでいいわよね……)
「いない……んですよ……残念ながら」
「梅子、そうなんだ?」
「え?なによ、殿村?」
「いや、なんでもない」
世界はあのあと心奈を連れて心奈の自宅へ向かったのだろうか?今晩は家に帰って来るのだろうか。
「もったいねぇなぁ。梅子ちゃんこんな美人だし、仕事もできるし性格もいい。伊織もいないみたいだし、この際っていったらなんだけど伊織なんてどう?」
「え?殿村ですか?私と付き合わなくても若くてかわいい女の子がわんさか寄ってきてますから。ね、殿村」
「まぁ……お誘いはあるけど……僕にはずっと想いを寄せてる人がいるんでね」
「え!殿村そうなのっ?!嘘、社内?!」
「おっ、お殿さまももついに年貢の納めどきか?ってちょい外すわ」
修二が焼いていた焼き鳥を皿に乗せるとアルバイトの店員の元へと運んでいく。
直ぐに殿村がこちらを向いた。
「やっと二人きりなれたな、梅子お疲れ様、乾杯しなおそっか」
「えっと、うん乾杯」
私たちは飲みかけのグラスを合わせるとそれぞれの胃に流し込んでいく。
(ん?二人きりって言った……?)
今までも殿村が私といるとき、そんな同期らしからぬ発言をしたことあっただろうか?
(世界くんのことといい、私も考えすぎね)
私はすぐに先ほどの話へと会話を戻した。
「ね、ところで殿村誰よ?」
「何が?」
「ごまかさないで」
「まぁ、僕にだって好きな人くらいいるよって話だよ。相手の子も結婚適齢期だと思ってるし、結婚前提で付き合えたらなってさ」
知らなかった。殿村は確かにモテるし、夜のオフィスで残業中、直帰せずに営業から戻ってきた殿村に女子社員が待ち構えていて告白する現場を私は何度も目撃している。毎年のバレンタインなんて大きな紙袋三つでも足りてない。今までも彼女がいることはあったが長続きせず、気づけばまたフリーに戻っていたということばかりだった。
(へぇ、結婚まで考えてる殿村の想い人ってだれなんだろう?)
「意外だなぁ。殿村って結婚願望あったんだね」
「失礼だな、あるよ。今まで付き合った子は結婚は考えてなかった。その子だけだよ、結婚したいってずっと思ってるのは」
「ちょっとめちゃくちゃ気になるじゃない。なんでその子に告白はしないの?殿村ならいけそうだけど?」
「あはは。やけに聞いてくるね。そうだね、今までもアプローチはしてるつもりんだけどね、ただなかなか気づいてもらえてない。でももうすぐ告白するつもり、その子の為に今まで言うの待ってたから」
殿村との付き合いは長いがまさか社内に殿村の想い人がいるなんて本当に驚きだ。普段から飄々としていていまいち何を考えているのか分からないが、生真面目な殿村のことだから、告白が成功すれば、私の元カレのように浮気することもなく生涯その子のことを愛して大切にするのだろう。
「そっか……上手くいくといいね」
「上手くいけば梅子にだけは話すよ」
「殿村もついに結婚か……」
同期であり戦友のように思っていた殿村が結婚して家庭を持つと思うとやはり寂しく思う。
(もうこうして気軽に飲みに行くこともなくなるかもしれないんだな)
「梅子は気が早いな、まだわからないけど、でも僕子供好きだからさ、結婚したら早く子供も欲しいかな」
殿村はビールを飲み干すとタバコに火をつけた。
「子供かぁ……」
私はグラスを傾けながら、ふと出産というワードが頭の中に浮かぶ。
(結婚と……出産か……)
もうすぐ私は三十五歳を迎える。三十五歳以上の出産は高齢出産のくくりに分類されるのを知っている。今すぐ結婚したとして私が子供を産むのはいつになってしまうのだろうか?
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「梅子も子ども好きそうだな」
「ん?……そうね、私一人っ子だから子供は二人は欲しいな、なんて思ってたけど、結婚すらも危ういわ。それはおいといて、殿村もほんと子供好きよね。以前会社の展示会でご家族で来店されたお客さまの対応しながら子供たちの面倒もよく見てたから」
「よくみてるな。僕、若い頃から結婚願望は強い方なんだけどさ、気づけばもう三十五だし」
「それはお互いさまでしょ」
「だな」
顔を見合わせてクスっと笑う。そして殿村がビールと追加で頼むのを聞きながらはこばれてきた肉じゃがを取り分けて殿村の前にことりと置いた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
殿村に返事をしたと同時にスカートのポケットに入れっぱなしのスマホが震える。ここにきてから何度目だろうか。わざわざスマホを取り出して見なくても相手はわかっている。
私はホテル会場での世界と心奈のやり取りをかき消すように、カルピスチューハイに口づけた。
「ん?梅子、いつもよりペース早いな、あんま酒強くないんだから飲みすぎんなよ。ま、ちゃんと家まで送ってやるけどね」
「え?殿村の家、駅から反対方向じゃない。子供じゃないし、心配しなくてもちゃんと帰れるわよ」
「心配ぐらいさせて欲しいな」
「殿村?」
「送らせて」
殿村の視線に思わず口ごもってしまう。
殿村からはよく揶揄われることはあるが、こんな風に女の子を見るような視線で見つめられると自分の知ってる殿村じゃない気がしてドキンとする。
「じゃあ……お願い」
「了解」
またポケットの中のスマホが震えたが私は確認することなく、手元のハツに噛り付いた。
「好きだな、ハツ。貧血防止だっけ?」
殿村が隣でモモを咀嚼しながら、二本目の煙草に火をつけた。
「よく覚えてるわねっていうか、いつ禁煙するのよ?」
「あれ?僕、するって言ったっけ?」
「言ってたわよ、随分前だけど入社一年目の冬かな?スキー場改修の見積を私が作って殿村が営業かけて納品決まったお祝いに何故か、殿村が梅子の見積のおかげとか言って此処に初めて連れてきてくれたときに。」
「あぁ、懐かしいな。いやあれ梅子がちゃんと寒冷地仕様の商品を見積してくれてさ、ほんと助かったから。で、その時僕、禁煙するなんて言った?」
殿村が煙草を灰皿に置くとビールを傾けながら唇を持ち上げた。
「入社十二年、ようは三十五歳までにタバコやめるって言ってたわよ」
「あ、そういえば言ったような気もするし言ってないような気もするな」
「ばか、言ったのよ」
「はいはい、梅子が僕が何気なく言ったこと覚えてくれてて嬉しいよ」
「た、たまたまだから……」
やっぱり今日の殿村はいつもと違う。どこがどうといわれてもうまく説明できないのだけれど。私は食べ終わったクシをクシ入れに放り込みカルピスチューハイを飲み干した。
「梅子、次でおわりな」
「わかってるわよ……」
やや呆れた顔をしながらも直ぐに殿村が追加でレモンチューハイを注文する。
「二杯目がレモンチューハイってよくわかったわね」
「梅子が一杯目のペース早い時は、口当たりさっぱりさせたいのか眠気防止なのか分からないけどいつもレモンチューハイだからね」
「すご、よく見てんのね。正解、酸味で頭すっきりさせたいから」
「ま、酒は酒だけどね」
「うるさいわよ」
殿村がニヤッと笑いながら煙草の灰を灰皿に器用に落としていく。
「で、さっきの禁煙の話だけど、その時梅子が十二年後の自分について僕に話してくれたの覚えてる?」
「えっ、十二年後の自分?全然覚えてない、なんて言ってた?」
「それはまたこんど教えてやるよ」
「ケチね、もったいぶって」
口を尖らせた私を見ながら殿村は肺一杯に煙を吸い込む。
「それにしても十二年もまえか……二十三とか若っ……。あの頃は若いってだけで無敵だったわ」
月日が経つのは遅いようでほんとあっという間だ。世界のように新入社員として夢と希望だけをポケットに入れて、毎日がむしゃらになんとか大人の仲間入りをしたくて必死だった頃が懐かしい。
「今も梅子は無敵だと思うけどね」
殿村が最後の一個のだし巻を私の方へさりげなく寄せる。
「無敵なんかじゃないわよ……年を重ねるにつれて臆病になったから……ほんといつからこんなに臆病になったんだろう……」
「僕から見たら梅子は何にも変わらないよ。いつも一生懸命でひた向きで、何事も前向きだろ。臆病じゃなくて慎重なんだよ。でもそれは大人になれば誰だって慎重にもなるだろ、仕事も恋も」
殿村の大きな掌が伸びてきて私の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「ちょ……と」
「僕も褒めてやるから、たまには自分で自分も褒めて労わってやれよ」
「あ、りがと」
お酒のせいじゃない。
なぜだか殿村の掌が触れて場所が時間をおいて熱くなってくる。
「もう一本だけ吸わせて」
「えっと、どうぞ」
殿村がタバコを吸う仕草を眺めながら、私は最後の一個のだし巻をそっと口に入れた。
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どれだけ勉強しても刺繍に打ち込んでも全ての功績はシャルルのものに。
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何もかもが嫌になったミシャルは身体ひとつで呪われた屋敷と噂の公爵邸に足を踏み入れ、
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