151 / 172
【第八章】 美少女と、研究施設で罪を知る
●151 side クシュー
しおりを挟む「魔王様、任務を遂行しましたのでご報告に……」
「おう。報告してくれ」
「あらぁ、メレオじゃなぁい」
いくつかの任務を頼んでいたカメレオン型の魔物が魔王城に帰ってきた。
結構な時間が掛かったような気がするが、瞬間移動の出来る魔物ではないとこんなものか。
「ええと……タイミングが悪いようですので、出直します」
カメレオン型の魔物は俺の姿を見て、慌てた様子だった。
俺がサキュバスと戯れていたからだろう。
「へーえ。俺が報告してって言ってるのに、帰るんだ?」
「もっ、申し訳ございません! 報告させて頂きます!」
俺が威圧的に言うと、カメレオン型の魔物は何度も頭を下げながら、報告を始めた。
サキュバスの胸を揉み続けながら、報告に耳を傾ける。
「ご命令の通り、占いおばばに扮して盗賊に助言を致しました。『ヘーラス村のパーカーという老人の家に、高価な魔法道具と重要なことを書き記した日記がある。それらを手に入れれば、お前たちの未来は明るい』と。盗賊は助言を信じて盗みに入ったようです」
「アハッ。そう言うように指示したのは俺だけど、こんな具体的な怪しい助言、普通信じなくねえ? その盗賊、馬鹿なんじゃないの?」
まあ、成功するのは分かってたけど。
カメレオン型の魔物の変身能力には目を見張るものがある。
戦闘能力が皆無な分、変身をして隠れることに特化したのだろう。
「盗賊は文字の読み書きも出来ないようでしたから、これまで教育を受けてこなかったものと思われます」
この世界で上手く生きるには、物理的な力だけではなくある程度の知恵と知識も必要だ。
それらが無いと、俺のような奴にカモにされる。
「……で、もう一つの任務の方はどう?」
「はい。ショーン様は幼い姿のリディアさんと一緒に行動をしているようでした。二人は仲が良さそうに見えましたね」
「リディアのやつ、ショーンとは仲良くしてるのかよ。ズルくねえ?」
俺に対しては常に殺気を放ってたのに。
そういう相手を堕とすのも一興と思っていたが、結局リディアは俺に堕ちてはくれなかった。
「魔王様にはワタシがいるじゃないですかぁ」
「侍らせる女は何人いてもいいんだよ」
「ちょっと嫉妬しちゃうけどぉ、モテる男のお答えって感じで魅力的ですぅ」
サキュバスがしなだれかかってきた。男を誘うことに適した柔らかい身体を押し付けてくる。
これだからサキュバスは手放せない。
……こいつの名前は忘れたが。
「いやあ、バレるんじゃないかとヒヤヒヤしましたよ。リディアさんは全く気付いていないようで助かりました」
カメレオン型の魔物が疲れたように息を吐いた。
俺の指示でショーンとリディアに近付いたことに気付かれたら、彼は今ここにはいなかっただろう。
「リディアはすぐに油断するからな。油断は強者の証とか言って」
「油断さまさまですよ。それにしてもショーン様は本当に魔王様と同じお顔で……魔王様の双子のお方ですか?」
気が抜けたのかカメレオン型の魔物は余計なことを口にした。
邪魔者を消すのはリディアだけではない。俺も邪魔な相手は消す性質だ。
「好奇心は猫を殺す、だっけ? お前はカメレオン型の魔物だけど」
「申し訳ございません!」
カメレオン型の魔物は急いで自身の口を両手で塞いだ。
これ以上首を突っ込まないならそれでいい。
こいつの能力はなかなか使えるから、今失うのは惜しい。
「そうだ。任務を遂行した褒美をやるよ。俺は仕事の出来る奴は好きなんだ。何が欲しい?」
「いいのですか!? では、ケイティとレイチェルのライブのチケットをお願いします。実はメレオは二人の大ファンなのです」
そう言って頭を下げるカメレオン型の魔物に、サキュバスが非情な言葉を投げた。
「あの二人なら死んだわよぉ」
「…………え?」
カメレオン型の魔物は大きな目をさらに大きく見開いた。
「ちょっとしたニュースだったのよぉ。魔王城にも彼女たちのファンがいたからぁ」
実のところ俺はこの件に関して詳しくはないのだが、確かに騒いでいる魔物がいたような気がする。
人気のある二匹の魔物が死んだ、と。
「ケイティとレイチェルが死んだ……ど、どうして!?」
「殺されたんだってぇ。勇者にぃ」
「勇者に、殺された……ケイティとレイチェルが………………おのれ、勇者……!」
カメレオン型の魔物は目を血走らせ、身体を真っ赤に変色した。
「おいおい。まさか特攻する気じゃねえよな? 使える部下が減るのは嫌なんだけど」
「止めないでください。男には敗れると分かっていても戦わないといけないときがあるのです。きっと、それが今なのです!」
「あーあー、特攻する気満々じゃん」
勇者も余計なことをしてくれる。
使い勝手の良い部下は失いたくないのに。
カメレオン型の魔物の様子を見るに、止めても聞かずに特攻しそうだから、それならいっそ味方を付けて生き残る可能性を増やした方が得策かもしれない。
「仕方ねえなあ。じゃあお前に味方を付けてやるよ。俺も勇者には復讐しようと思ってたんだ」
それに、ちょうどいい機会かもしれない。
俺も勇者には思うところがあり、手が空いたら殺しに行こうと思っていた。
生憎、最近は俺の手が空くことがなかったが。
「ありがとうございます、魔王様!」
「魔王様も勇者に何かされたんですかぁ?」
「何かされたのは俺じゃなくてショーンだが、あいつは復讐に積極的じゃねえからな。代わりに俺が動いてやろうってわけ」
少し前に知ったが、勇者パーティーは寝ているショーンをいたぶって遊んでいたらしい。
やはり人間は邪悪な存在だ。
それなのにショーンは勇者に対して復讐もせずに放置している。
大方、寝ている間にされたことだから弄ばれた実感が湧かないのだろう。
「相棒がいじめられたんだから、代わりに俺が復讐をしてやらないと。ショーンをいじめてタダで済むと思われるのも癪だしな」
「俺が復讐してやらないと、ってぇ。動くのは部下ですよねぇ?」
「ああ。勇者ごときに俺の大事な時間を使いたくはねえからな。俺はそろそろショーンに会いに行かないとだから」
俺はサキュバスからカメレオン型の魔物に視線を移すと、激励を送った。
「ってことで、存分に勇者に復讐して来いよ。応援してるからさ。えーっと……」
「メレオです、魔王様」
「そうそれ。いい感じの魔物を用意しておくから、明日また魔王城に来いよ」
「かしこまりました」
カメレオン型の魔物はビシッと敬礼をして、部屋を出て行った。
するとサキュバスが先程にも増して密着してきた。長い指でメガネのつるを辿り、耳を撫でてくる。
「魔王様が代わりに復讐してくれるなんてぇ、誰だか知らないけど妬けちゃいますぅ。魔王様は仲間の名前すら覚えてくれないのにぃ」
「ショーンは相棒で同胞で特別だからな。ショーンをいじめた相手がぬくぬくと過ごしてるなんて、許せねえんだよ」
「勇者は魔王様の怒りを買ってしまったんですねぇ。ご愁傷様ぁ」
俺はサキュバスの身体を触りながら、どの魔物を勇者にぶつけようかと考えていた。
せっかく変身の得意なカメレオン型の魔物がいるのだから、騙し討ちが良いかもしれない。
最初の一撃で不意を突いたあとは、戦闘力でゴリ押しするのも良い。
「魔王様ぁ、そろそろワタシの名前も覚えてくださいよぉ。リディアさんの名前は覚えてるじゃないですかぁ」
サキュバスは俺に認知されたいようだが、残念ながら俺は個々の魔物にはあまり興味が無い。
このサキュバスが別のサキュバスと入れ替わったところで、そうか、で済ませる自信がある。
唯一の例外と言えば。
「お前がリディアくらいイイオンナになったら考えてやる」
「リディアさんは先代の魔王ですよぉ? 無理に決まってるじゃないですかぁ」
そのリディアはショーンと一緒に旅をしている。
唯一俺に対抗できるショーンに取り入るためだろう。
……しかし、そう上手くいくかな?
「どっちにしても。そろそろ答えを出してくれよ、ショーン?」
11
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる
まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。
そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる