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【第七章】 この世界は黒と白のどっちだと思う?と同胞が言っていた

●147 side 勇者

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 戦士と魔法使いと僧侶の三人は、黙って僕の話を聞いていた。

「もしかして勇者さんが、勇者の剣ではなく国王から贈られた剣ばかりを使用するのは、勇者の剣を抜いたことを後悔しているからですか?」

「どうだろう。僕は後悔してるのかな? もう分かんないや」

「私なら、そんな剣は持ち歩くのも嫌よ。いくら勇者の証かつ性能が良くてもね」

「せっかくの勇者の剣をぐるぐる巻きにしてるから何かあるんだろうとは思っていたが……そりゃあ封印したくもなるよな」

「……とはいえ、これはお前たちには関係の無い話だ。イライラしたからって、これまでやりたい放題をして悪かった」

 僕は三人に向かって頭を下げた。
 勇者パーティーでの旅で、三人にはかなりの迷惑をかけてしまった。
 ここにいない荷物持ちにも。

「そんな事情で魔王討伐の旅をしてたら、羽目を外したくもなるだろうよ。勇者の年齢的に、女遊びはまだ早いと思うが」

「荷物持ちを殴ってたのもどうかと思うわ。でも勇者の事情を考えると、魔王に会いたいって軽い気持ちでパーティーに参加してた荷物持ちにイラつくのは分かるかも」

「荷物持ちさんとは、直接ケンカができたら良かったのかもしれませんね。一方的に殴るのではなく、殴り合いのケンカをして、仲直りをして。そういうものを青春と呼ぶのですよね?」

「……別に荷物持ちと青春したくはない」

 それに殴り合いのケンカをしても、きっと荷物持ちとは仲直りなんかしなかった。
 何故かは分からないが、僕はあいつのことが気に食わない。
 心の底から。

 でも寝ている間に殴る行為が卑怯だということは理解している。
 だから、それに関しては悪かったと思っている。

「勇者が何を思おうと、あの件は終わったことだ。残念ながら、過去は変えられない」

 戦士の言う通り、僕が汚い手段で荷物持ちを殴った過去は変えられない。
 近い未来、僕は卑怯な勇者だと罵られるかもしれない。
 だが、その評判は僕が背負っていかなければならないものだ。
 行動には必ず責任が伴うのだから。

「もちろん懺悔は必要ですが……一番重要なのは、これから何をするか、ですよね」

 これから何をするか。
 簡単だ。
 僕たちは勇者パーティーなのだ。
 勇者パーティーとして魔王を倒して世界に平和をもたらさなければならない。

「ねえ。私、いいことを思い付いたわ!」

 考え込む僕の耳に、魔法使いの明るい声が響いてきた。

「私たち、すごいスピードで強くなって、すごいスピードで魔王を倒せばいいのよ! そうすれば早く任務が終わって、酒場でだって働けるわ!」

 魔法使いが僕の手を握った。
 横から僧侶も手を握る。

「ええ。魔王を早く倒せば魔物のせいで悲しむ人も減ります。わたくしたちは、すぐにでも強くならなくてはいけません」

 最後に、戦士が握る隙間の無い僕の手を上から覆った。

「強くなるために何をする? ダンジョンに潜るに決まってる。行こうぜ、勇者。ダンジョンが俺たちを待ってる!」

 何だ、これは。
 ……くだらなすぎて泣けてくる。

「お前たちは調子が良いなあ、まったく」

 本当にくだらない。
 こんなにもくだらないことが、長年出来なかったなんて。
 なんて、くだらないのだろう。

「あっ、でもやりたい放題やったことを許すとは言ってないわよ?」

 涙をにじませる僕に、魔法使いが釘を刺した。

「そうですね。勇者さんの醜聞の火消しは大変でしたから。謝罪の気持ちは、口だけではなく行動で示して頂かないと」

「ってことだから、俺たちはこれからも勇者のことを近くで見てるぜ」

「……分かったよ」

 僕の罪は、そう簡単には許してもらえないらしい。
 しかし、それも仕方のないことだ。
 みんなには、一番近くで僕の行動を見てもらおう。

「誰かを許すのって難しいよね。許す側だって普通の人間で、聖人ではないからね」

「わたくしもまだまだ聖人には程遠いようです」

「実は俺も昔、許せないことがあったんだよな。毎日俺の昼飯を盗むやつがいてな……」

 戦士が砕けた様子で昔話を始めた。
 この話も初耳だ。

「えーっ!? 戦士って、いじめられっ子だったの!? こんなにガタイが良いのに!?」

「俺にだって子どもの頃はあったんだよ」

「これからは、こういう昔話もしましょうね。ちなみにわたくしの子どもの頃は……」

 それから僕たちは、四人で昔の話を語り合った。
 語り合いは楽しく、深夜にまで及んでしまった。

 だけどもう、この話し合いが無駄だったとは思わない。
 きっと僕たちは今日、本当の意味で「勇者パーティー」になった。







――――――――――――――――――――

ここまでお読みいただきありがとうございます。
勇者は、勇者の剣と国王から贈られた剣の、二本を持ち歩いています。
主に使用するのは国王から贈られた剣の方で、勇者の剣は苦い思い出とともに布でぐるぐる巻きにして封印しています。

……ということで、勇者には勇者の事情がありました。
しかし勇者の事情とショーンが勇者を許すかは別問題です。
さらにショーン以外が勇者を許すかも別問題。
理由はどうあれ、対ショーンに関して勇者は加害者ですから。

そして第七章はこの話で終了です。
ちなみに第七章と第八章のテーマは「罪と許し」です。
それでは、第八章もお楽しみに!

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