上 下
144 / 172
【第七章】 この世界は黒と白のどっちだと思う?と同胞が言っていた

●144

しおりを挟む

 俺は短剣片手にボスモンスターに向かって行った。
 攻撃が目的ではないため、近付きつつも攻撃の回避に集中する。

 炎攻撃をかいくぐってボスモンスターに近付くと、今度は噛みつき攻撃が襲ってくる。
 ボスモンスターが巨大なせいで迫力があるが、ただの噛みつき攻撃だ。
 落ち着いて対処すれば避けることが出来る。

 数の減ってしまったドロシーの毒蜂も、ボスモンスターの周りを飛び回ってかく乱している。
 毒蜂がボスモンスターに攻撃を与えることは難しいようだが、ボスモンスターは毒蜂を鬱陶しそうにしている。
 その隙にヴァネッサがボスモンスターの背後に回った。

「よし、タイミングを見計らって…………え?」

 ヴァネッサがいい位置取りになったところで、ボスモンスターが姿を消した。
 全身が透明になってしまったのだ。

「うわあ、透明になれるモンスターみたいです。一緒に町へ行けますよ!? 私、ますますキツネくんが欲しいです!」

「それどころじゃないわよ!?」

 そう、それどころではない。
 姿が見えないのでは、不意打ち攻撃を食らってしまう。

「俺が攻撃を続けて注意を引きつけます。あとは作戦通りに。自分の身は自分で守ってくださいね!」

「ショーンくんが自分の身は自分で守れと言うんですね」

 確かに先程助けられたくせにどの口が言うんだって感じだが。
 でもまあ、回避を頑張ってほしい。

「俺が攻撃を続けることで、ボスモンスターの輪郭が分かるはずです。砂埃に注目してください」

「毒蜂さんたちも飛び回らせますね。何かにぶつかったら、それがキツネくんです」

「なるほど。任せて!」

「しつこいようですが、尻尾に注意してくださいね」

 ここまでボスモンスターは尻尾での攻撃はしていない。
 それでもあの尻尾が危険なことは分かる。

 この間も俺は攻撃を続けているが、ボスモンスターは俺に対して攻撃を仕掛けてはこない。
 きっと何らかの制約があるのだろう。
 たとえば透明になっている間は炎を出すことが出来ないとか、噛みつく際には姿を現す必要があるとか。
 いや、実はそう思わせることが目的で、透明なままでも攻撃が可能かもしれない。

 どちらにしても、俺は攻撃を続けるまでだ。
 ボスモンスターには結構な確率で俺の攻撃を避けられているが、気にする必要は無い。
 動き回って砂埃を立てながら、囮としてボスモンスターの怒りを買い続ける。
 これが今の俺に求められている動きだ。

「…………ここだっ!」

 そのとき、ヴァネッサがボスモンスターに長剣を振り下ろした。
 攻撃を受けたボスモンスターが姿を現す。
 ボスモンスターは身体をひねり、尻尾をヴァネッサに当てようとした。

「尻尾に注意!」

 ヴァネッサが飛び退いて尻尾攻撃を避けた。
 ボスモンスターは一撃で倒れることは無かったが、かなり深い傷を負っている。
 もう透明になることは出来ない……と信じたい。

「ごめん! 仕留めそこなったわ」

「大丈夫です。怪我を負ったおかげでボスモンスターの動きが遅くなりました。ドロシーさん、また毒蜂だけで時間稼ぎをお願いします」

「任されました!」

 ボスモンスターの周りを飛んでいた毒蜂が、ボスモンスターの目を狙って集中攻撃を始めた。
 ボスモンスターは目を刺されてはたまらないと、毒蜂を燃やしている。

 この隙に俺はヴァネッサに近付くと、持っていた短剣を渡した。

「え、なに……?」

「武器を交換しましょう」

 そして驚いているヴァネッサから長剣を受け取ると、ボスモンスターの背中に飛び乗り、後ろから首に長剣を突き刺した。
 確かな手応えを感じた後、首から長剣を引き抜くと、ボスモンスターから大量の血が吹き出した。
 すぐにボスモンスターの背中から飛び降りたが、吹き出した血が顔についてしまった。
 袖口でごしごしと顔を拭う。

 一方、喉を貫いたためボスモンスターは叫ぶこともなく倒れた。
 そして、動かなくなった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。 そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

処理中です...