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【第七章】 この世界は黒と白のどっちだと思う?と同胞が言っていた
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しおりを挟む「ずいぶんと散らかっておるのう」
「ちょっとリディアさん!?」
通されたパーカーの家は、確かにものすごい散らかり方だった。
まるで泥棒にでも入られたみたいだ。
「お恥ずかしい。夜には明日こそ部屋を片付けようと思うのだが、朝になると忘れてしまってね」
「それにしても、この散らかり方はすごいですね」
「実はこの前、泥棒に入られてね」
本当に泥棒に入られていたらしい。
「それは……不幸でしたね」
「ああ。魔法道具をいくつか盗まれてしまったよ。あれは村のみんなに好評だったから残念だ」
「お金も盗られてしまったんですか?」
「盗もうにも、この家にお金はそもそも無いからね。泥棒もがっかりしたんじゃないかな」
食堂の店主は、パーカーは入手したお金を寄付してしまうと言っていた。
そのため泥棒が入ったとき、この家には金銭の類は置かれていなかったのだろう。
金銭を盗むことが出来なかった泥棒たちは、金銭の代わりに金になりそうな魔法道具を持って行くことにしたらしい。
「でも魔法道具は盗まれてしまったんですよね」
「確かに魔法道具は盗まれたが、私は魔法道具よりも日記が盗まれたことが悲しかったよ。あれは罪の意識を忘れないために大事なものだったから……」
パーカーの話を聞いたドロシーは首を傾げた。
「日記を盗むなんて変わった泥棒ですね」
「何かの重要文書だと思ったのかもね。泥棒は文字が読めなかったのかもしれない」
ドロシーは納得すると同時に、部屋の惨状を見ておずおずと聞いた。
「その泥棒は捕まったんですか?」
「泥棒はこの村の人間ではないようでね。捕まってはいないよ。三人組の男だということまでは分かったんだけど」
「あっ……この前戦った盗賊団が三人組でしたね。あの村からなら、ここまで来ることも出来るでしょうし……」
ドロシーは泥棒の犯人に思い至ったようだった。
俺も彼らが犯人だと思う。
俺が盗賊団のアジトで見たあの日記は、きっとパーカーのものだ。
「君たちは犯人を知っているのか?」
「違うかもしれませんが、ここに来る前に三人組の盗賊を倒したんです」
「そうか。君たちは良いことをしたんだね。これで今後は被害者が出ないはずだよ」
「ですが、パーカーさんの家から盗まれたものがあるとは知らず……何も引き取って来なくて……」
「いいんだよ。日記のことは残念だが、自身の罪は私の胸に刻まれているからね」
パーカーは盗まれた魔法道具のことには触れず日記のことだけを言及し、悲しそうな顔で遠くを見た。
少しして、しんみりとした空気を変えようと思ったのか、床に転がっていた水晶玉をドロシーが持ち上げた。
「もしかしてパーカーさんは占い師に憧れがあったりしますか? 水晶玉って占い師が使う道具ですよね?」
「占い師……?」
パーカーはドロシーの持つ水晶玉を見てしばらく考えた後、ぽんと手を叩いた。
「ああ、それはただの水晶玉ではなく、魔法道具だよ。同じ水晶玉を持っている相手とは、離れていても会話が出来るんだ」
割って危険を知らせる合図玉の応用のような魔法道具だ。
合図玉よりも高性能な分、値段も張りそうだ。
このように床に転がしておいていいものではない気がする。
しかし見た目はただの水晶玉だから、盗賊団に盗まれずに残っていたのだろう。
水晶玉は持ち運ぶのが大変な割に、使用者が限られているため高値が付きにくい。
それにもしも盗賊団がこの水晶玉を魔法道具だと知っていたところで、片方の水晶玉だけでは値段が付かなかっただろう。
「便利な魔法道具ですね」
「ただ、私はすぐに会話内容を忘れてしまうから、緊急時以外は手紙でやりとりをすることが多いがね」
「手紙は何度でも読み返すことが出来ますからね。私は村の外に知り合いがいなかったので手紙のやりとりをしたことはありませんが」
「私だって連絡を取っている知り合いは一人だけだよ。あいつは魔法に関する能力は高いが、引きこもりで根暗で自己中心的な男でね……」
散々なことを言っているが、パーカーとその男は仲が良いのだろう。
男の話題が出た瞬間、パーカーは楽しそうな表情になった。
「あいつは私の弟子だったはずが、ぐんぐん出世して、今では王宮魔術師だよ。王宮でも引きこもって魔法の研究ばかりしているらしいがね。あいつらしいよ」
すると、突然、これまで黙っていたヴァネッサが口を開いた。
「パーカーさんって研究者だったの?」
「ど、どうしてそれを知っているんだ!?」
ヴァネッサに言い当てられたパーカーは目に見えて動揺した。
「ごめんなさい。今の会話と、あと手紙が落ちていて……見てしまったの」
「ああ、そこにあったのか! 手紙は盗まれてなくて良かった!」
ヴァネッサの持っていた手紙を、パーカーは大事そうに受け取った。
しかしヴァネッサは浮かない顔だ。
「パーカーさんの研究って………」
「……ああ。良くない研究だった。だから私は教会で過去の過ちを懺悔している。贖罪として質素な生活を心がけ人助けに励んでいる。そんなことで罪は消えないとは思うがね。それでも償わずにはいられないんだよ」
何と言っていいのか分からず、俺たちは黙り込んでしまった。
何かを言うには、パーカーの事情を知らなすぎる。
それらしい言葉をかけても、薄っぺらいだけだろう。
「パーカー、妾は干し柿が食べたいのじゃ!」
沈黙を破ったのは、リディアの無邪気な言葉だった。
「おお、そうだったね。今持ってくるから待ってておくれ」
パーカーはニコニコしながら、キッチンに干し柿を取りに行った。
パーカーの後ろ姿を見送った後、部屋に残された四人で顔を見合わせた。
「パーカーさんは奴隷ではなく、研究者だったんですね」
「そうみたいね。そして研究所で、悪い研究をしていた」
「でも、そのことを悔いて日々贖罪をしています。ここまでしても、罪は許されないのでしょうか」
「……分からないわ」
「許されるかどうかは外野が決めることではあるまい。被害者がいる場合は特に、な」
あの日記には、非人道的な研究に嫌気が差したパーカーが研究所を逃げ出したことが書かれていた。
自分が逃げ出すと非人道的な実験が行なわれると知っていながら……。
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