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【第七章】 この世界は黒と白のどっちだと思う?と同胞が言っていた

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「もし知っていたら教えてほしいんですが……具体的に魔王は何をしたんですか。人間は魔王を敵視してますが……本当は悪いことをしてないんじゃないですか?」

 勇者パーティーに加わるにあたって、魔王については説明を受けた。
 魔物を人間に差し向けている親玉である、と。

 しかし、俺自身がその現場を見たわけではない。
 自分の目で確認していない事柄は嘘の可能性があることを、俺はリディアの件で思い知った。

「それ、ドロシーの前では絶対に言わないでよね。最近やっと笑えるようになったんだから」

 俺の言葉を聞いたヴァネッサは、眉間にしわを寄せていた。

「ドロシーさんは、そんなに酷かったんですか?」

「……ショーンだって見たでしょう。あの村であの子がどういう状態だったのか。現実を受け入れたからといって、簡単に割り切れるものじゃないわ」

「そうですね……」

 あの村にいた頃のドロシーは、自分以外の村人が殺されたことを受け入れず、夢の世界で生きていた。
 村人の死体をネクロマンサーの力で生きているかのように操って、一緒に暮らしていた。

 それなのに今はきちんと話が通じるし、普通に旅が出来ている。
 ドロシーがここまで回復するまでには、様々な出来事があったのだろう。
 そのすべてをヴァネッサは見ている。

「最初の頃は毎晩のように泣いていたわ。昼間も心ここにあらずだった。でも二人で旅をする中で、幸か不幸か、あたしが弱かったから、ドロシーは自分がしっかりしなきゃって思ってくれたみたい」

 お世辞にもヴァネッサは強いとは言えない。
 きっとドロシーは、悲しみに浸っている場合ではないと判断したのだろう。

「でもね、彼女がただの女の子であることに変わりはないの。もっとハッキリ言うなら、危ういのよ」

 そう言ってヴァネッサは遠くを見た。

「辛い目に遭ったことはもちろん、多くの人と接して様々なことを学ぶべきときを、たった一人で過ごしていたんだもの。接し方には慎重にならないと」

「……何だかヴァネッサさんって、ドロシーさんのお姉さんみたいですね」

 率直な感想を言うと、ヴァネッサは嬉しそうな顔で頬を掻いた。

「そのくらい遠慮のない関係になれたらいいなと思ってるんだけどね」

 そして照れ隠しの咳払いをしてから、本題に入った。

「……で、魔王の話だったわね。魔王は部下の魔物をけしかけて人間を消そうとしているわ。ここ数年は特にその動きが活発になっているの」

「前までは違ったんですか?」

「魔物が人間を襲っていたのは変わらないけど、統制がとれてなかったのよ。各々が好き勝手に動いていたの。でも最近は上手にまとまって動く集団が増えてきたわ」

「統制、ですか」

 魔王が統率力を発揮し始めたということだろうか。

「ドロシーの村は魔物の集団に襲われたらしいけど、きっと魔王が集団で村を襲うように指示したのね。まさかネクロマンサー一人に全滅させられるとは思わなかっただろうけど……でも報復に来なかったということは、捨て駒の魔物たちだったのかもね」

「ですが、集団ではなく単体で動いている魔物もいますよね?」

 ケイティとレイチェルは二人だけで行動をしていた。
 二人の能力的に、攻撃型の魔物が一緒にいれば負け無しだったにもかかわらず。

「人間だって集団ではなく単体で動いてる人もいるでしょ。同じことよ」

 そう言われてしまうと頷くしかない。
 全員が全員、指示通りに動くわけがない。
 どこにでも命令に従わない者はいるものだ。

「それにしても、ヴァネッサさんは魔物事情に詳しいんですね」

「昔から冒険者への憧れが強かったからね。人間と魔物の歴史についての本を読み漁ったし、町で冒険者を見つけては話を聞いていたの」

 しかし今の話が本当なら、魔王は積極的に人間を襲っているようだ。
 実際にドロシーの村は壊滅させられていた。
 さすがに魔物が一匹や二匹来ただけで、ああはならないだろう。

「数年前から魔王の動きに変化があったのは、心境の変化でしょうか」

「急に仕事に目覚めたのかもね。人間にとっては困ったことに」

「あはは。仕事といえば仕事ですよね。魔物の統率って大変そうですもんね」

 あれ。
 魔王は俺……だよな?
 人間社会で暮らしている俺が、魔物を統率し指示を出すことが出来るのだろうか?

 ……いや、俺の記憶は信用ならない。
 俺自身は人間社会で暮らしていたと思っているが、実際は違う可能性もある。

「ダメだ。もう何を信じて良いのか分からない」

 ただ一つ確かなことは。
 俺が魔王だった場合、俺は部下に人間を殺す許可を出している。

 人間を、殺している。




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