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【第五章】 美少女と、魔物の住処で性(さが)を知る
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しおりを挟む――――キィィンッ。
気が付くと、俺はまた勇者の剣を自身の短剣で受け止めていた。
「うわっ、また身体が勝手に!」
「何回目だよ。お前、いい加減にしろよ!?」
勇者が険しい顔を、今度は俺に向けてきた。
「だから俺の意志じゃないんですってば!」
「……仕方がない。荷物持ちごと叩き切る」
「やめてくださいよ!?」
「待つのじゃ」
剣に力を込めた勇者を止めたのは、魔王リディアだった。
剣を掴んで、また勇者を投げ飛ばす。
先程勇者が戻ってくるのが早かったためか、今度はさらに遠くまで勇者を投げ飛ばしたようだ。
「勇者……」
戦士と僧侶と魔法使いが、飛んでいく勇者を見送った。
またか、と全員の顔に書いてある。
「そう焦るな。契約書を燃やせば契約は切れる。少し待つのじゃ」
「それです! 契約書はどこにあるんですか!?」
俺はケイティとレイチェルに、契約書の在処を訊ねた。
しかし二人は震えるばかりで、契約書の在処を教えてはくれない。
「ショーン様との契約を切ったら、ケイティたちは殺されてしまいます」
「レイチェルたちだけでは、勇者パーティーに勝てるはずもありません」
……これは説得が必要そうだ。
「ちょっとタイム! これから彼女たちを説得しますから!」
俺は三人に向き直って言った。
……が、戦士も僧侶も魔法使いも、揃って首を傾げていた。
「それ、待つ必要ある? 私たちが荷物持ちに気を遣ってあげる義理はないわよね?」
「魔物を説得して契約書を燃やす、なんてまだるっこしいことをしなくても、この場で魔物を討伐すればすべてが解決する」
「魔物に操られている荷物持ちさんは怪我をするでしょうが、すべてが終わってからわたくしが回復するので問題ありません」
あれれ。
全員一致で、このままケイティとレイチェルを討伐する気だ。
一応、俺のことは回復してくれる気みたいだが、俺を傷つけることに躊躇はなさそうだ。
「死にそうなところを助けられたというのに、恩知らずな奴らじゃのう」
三人の様子を見た魔王リディアが、彼らのことをじろりとにらんだ。
「今度は何の話よ。適当なことを言って、私たちを惑わそうとしてるわけ?」
「俺たちが荷物持ちに助けられるなんて、そんな珍妙なことが起こるはずがない」
「わたくしたちが死にそうになったのは、例のダンジョンだけですわ。そしてあの場に荷物持ちさんはいませんでした」
戦士と僧侶と魔法使いの反応を見た魔王リディアが、肩をすくめた。
「ショーンが三人を教会に運んだことすら話していないのに、ボスモンスターから助けられた話をするわけがないか」
「……あなたは一体、何を言っているの?」
魔法使いが怪訝な顔で魔王リディアに質問をした。
「真実が知りたいなら、勇者を問い詰めてみるといい」
「勇者が嘘を吐いていると言いたげだな。だが、そんなわけはない」
「人類を守る使命を背負った勇者さんが、嘘なんて吐くはずがありません。勇者さんは清い人間です」
「そうよ。私たちは勇者のことを信じているわ」
あんな勇者でも、この三人には信頼されているみたいだ。
ずっと一緒に旅をしてきたからだろう。
今の勇者は、倒すべき魔王である魔王リディアに手も足も出ないみたいだが。
彼らはあとどのくらい旅を続けたら、魔王リディアに勝てるのだろう。
「ワッハッハ。勇者が清い人間か。それなら、この世の全ての人間が清い存在じゃのう」
「何がおかしいんだ?」
豪快に笑った魔王リディアは、一気に真面目な顔になった。
「勇者がショーンにした行為を知っていながら、よくもそんなことが言えるのう。寝ている人間をボコボコにする者を、聖人扱いとは笑わせる」
急激に辺りの空気が冷えた。
激昂こそしていないものの、魔王リディアは怒っているらしい。
「……勇者だって人間だもの。むしゃくしゃすることもあるわ」
「むしゃくしゃして他人を殴るような人間が、一つの嘘も吐かないと、本気でそう思うのか?」
「…………」
誰も答えなかった。
それが答えだろう。
「信じると言うのは簡単じゃが、それは疑うことを放棄しているとも言えるのではないか? お前たちは、きちんと事実を精査した上で、勇者が嘘を吐いていないと結論付けたのか?」
三人は顔を見合わせてから、ぽつりぽつりと呟いた。
「言われてみると、そこまで深くは考えてなかったかも……勇者の言うことだから本当だろうって決めつけていたかもしれない」
「疑うことを放棄している、か。耳に痛い言葉だな」
「確かに勇者さんがボスモンスターを倒したという証拠はありませんでした。倒していないという証拠もありませんでしたが……」
困惑している三人の元に、話の中心である勇者が割り込んできた。
「おい、お前ら! こんな、子どもの、発言に、惑わされるなよ!?」
かなりの距離を全力疾走してきたのだろう勇者は、息も絶え絶えだった。
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