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【第五章】 美少女と、魔物の住処で性(さが)を知る
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しおりを挟む「ショーンよ。お主、契約書にサインをしたな?」
「へ? 契約書?」
何のことか分からない俺が首を傾げる一方で、魔王リディアには確信があるようだった。
「サインをした自覚も無いとは。ショーンはカモの素質がありすぎるのう」
魔王リディアはケイティとレイチェルに近付くと、ついでとばかりに勇者の剣を掴んで、剣ごと勇者を投げ飛ばした。
「勇者ーーー!?!?」
今度はデコピンのときよりも、さらに遠くまで勇者は飛んでいった。
しかし勇者の存在などどうでもいいとばかりに、魔王リディアはケイティとレイチェルから視線を外さない。
「ケイティ、レイチェル。お前たちには心当たりがあるじゃろう?」
「……ごめんなさい。ピンチの時にショーン様が助けに来てくれたら最高だと思って、契約書にサインをしてもらいました」
ケイティが俺と魔王リディアに向かって、深々と頭を下げた。
続けてレイチェルも頭を下げる。
「サインって……あのファンクラブ会員の契約書のこと?」
俺は二人に遅れて、ようやく契約書の存在に思い至った。
この森で俺がサインをした契約書は一つだけ。
『ケイティとレイチェルのファンクラブ会員に関する契約書』だ。
「実はあれ、ケイティかレイチェルがピンチになったら守る、って内容の契約書だったんです」
「気付きませんでした……」
「一番上には大きく『ケイティとレイチェルのファンクラブ会員に関する契約書』と書かれていて、その後の文も途中まではファンクラブの契約書っぽい内容が書かれていましたが、下の方にはケイティとレイチェルを守る内容が書かれていました」
「下の方までは読んでませんでした……」
「カモすぎるのじゃ」
魔王リディアが呆れたような声を出した。
「ケイティもレイチェルも弱いから、二人だけでは怖かったんです」
「ケイティが助けてくれる人を欲しがった理由、レイチェルも分かります。弱いことは怖いからです」
「自分たちが弱い魔物だと分かっているなら、どうして町から若い女を連れ去ったんだ。人間をさらう魔物が退治されることくらい、分かるだろう!?」
息を切らせながら勇者が戻ってきた。
ものすごい距離を飛ばされたのに、もう戻ってくるとは、さすがは勇者だ。
「勇者? 魔物と会話をしてどうするの? 話すだけ無駄だと思うけど」
「魔法使いさんの言う通りです。魔物には人間のような知性や倫理観がありません」
魔物には知性や倫理観が無い?
そんなことはない。
人間の間ではそのように言われているが、話してみると魔物とも普通に会話が出来る。
魔王リディアも、アドルファスも、ケイティも、レイチェルも。
魔物は人間とは違った倫理観で生きているかもしれないが、知性が無いわけでも、倫理観が無いわけでもない。
「魔物に話しかけるなんて……勇者には何か考えがあるんだな?」
「……少し気になっただけだ。魔物が人間をさらう理由を聞く機会は、そうそう無いからな」
勇者は三人に向かってそう言うと、剣を鞘に納めてから、ケイティとレイチェルに一歩近づいた。
「魔物、どうして危険を冒してまで町から人間をさらった?」
「それは……我慢が出来なくて……」
ケイティの言葉を聞いた勇者は、大きな溜息を吐いた。
「聞くだけ無駄だったな。つまりは大した意味もなく、快楽のために殺したというわけか」
「快楽ではありません。レイチェルたちは別に人殺しが楽しくてやっていたわけではないのです」
「それに意味はありました。ケイティたちは、意味を作りました」
快楽殺人で片付けようとする勇者に、ケイティとレイチェルが食い下がる。
「意味を作った、だと?」
勇者が再度二人に質問をした。
これにケイティとレイチェルが必死に答える。
「さらった人間から名前を聞いて、名前をもらいました。『ケイティ』と『レイチェル』は、過去にさらった人間の名前です。名前を忘れないように、ケイティたちが引き継ぎました」
「人間が持っていたアクセサリーも引き継ぎました。レイチェルたちが大事に使っています」
「殺す前に美容の秘訣も聞いて、ケイティたちが輝くために役立てました」
「レイチェルたちは、人間の死を無駄にはしていません。糧にしています」
ケイティとレイチェルは「自分たちはさらった人間の死を活かしている。だからさらった人間が死んだことに意味はあった」と言っているのだろう。
しかし、到底受け入れられる考えではない。
「……名前を盗られて喜ぶ人間がいると思うのか? 持ち物を奪われて喜ぶ人間がいると思うのか? 自分を殺した相手の糧になって喜ぶ人間がいると思うのか!?」
勇者の声が険しくなった。
二人には悪いが、この件に関しては俺も勇者と同じ考えだ。
それは俺が人間であり、勇者と似た倫理観を持っているからかもしれない。
「さらわれた女たちは、意味もなく殺されたんだ。残酷なお前たちに」
「人間には分からないんです! この衝動が! この渇きが!」
「魔物の性なんです! どうしても抗えないんです!」
「……話にならんな。お前たちはここで討伐する」
勇者が剣に手をかけた。
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