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【第五章】 美少女と、魔物の住処で性(さが)を知る

●96 side リディア

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 ショーンがケイティとレイチェルに連れて行かれたため、妾は居間にエラと二人きりで残されてしまった。

 それにしても。
 「俺はクシューとは違う」か。

 ショーンからクシューの名が出てくるとは。
 いつの間に思い出していたのだろう。
 妾としたことが、全く気付かなかった。

 これからは、もっと頻繁にショーンの心を読む必要があるかもしれない。

 ……と、今はショーンのことはさておき。
 エラと二人きりという珍しい状況を利用しないのは損というものだ。

「王国はどこまで気付いておる?」

 妾の問いかけに、エラは何も答えなかった。
 妾がカマをかけていると思ったのかもしれない。
 もしくは聞こえない振りが通用すると思っているのか。

「お前は『勇者パーティーから抜けたショーン』を監視しておるのじゃろう?」

「……まあね。勇者たちは隠しているみたいだけど、勇者パーティーの人数なんて隠し通せるものじゃないわ。彼らの寄った町で勇者の話が噂にならないわけはないもの」

 妾が具体的な単語を出すと、エラは予想していたよりも簡単に口を割った。

「それで、勇者パーティーの通ったであろう町を巡って、ショーンを探しておったのか」

「どのあたりからパーティーの人数が減ったかは分かっていたからね。近隣の町をしらみつぶしに探したわ。戦死したのかとも思ったけど、それなら勇者たちが報告するでしょ……それで? いつ私が一般人じゃないって気付いたの?」

「最初から怪しいとは思っておったが、決定打は呪いのゴーグルじゃよ」

「呪いのゴーグル?」

 占いおばばに女難の相が出ていると言われたショーンは、異性からの好感度が劇的に下がる呪いのゴーグルをかけていた。
 にもかかわらず、エラのショーンに対する態度は、出会った当初と全く変わらなかった。

 考えられる理由は、エラがショーンの異性ではなく同性の男の娘か、もしくは最初からショーンに好意など無く好意があるフリをしていただけか、だ。

 エラの性別は一緒に旅をしている間に確認した。確実に女だった。
 ということは、残るもう一方が、エラが呪いのゴーグルに反応しなかった理由だ。

「お前はショーンに近づくために、好意がある振りをした。そして何故か突然ショーンに嫌悪感を抱くようになったが、近くにいるためには好意がある振りを続けるしかなかった。お前は、自分の感情を信じて行動するべきだったのじゃよ」

「……ああ。あれは呪いのアイテムのせいで抱いた嫌悪感だったのね。頑張って好きな振りをして損したわ。嫌がって良かったのね」

 エラはこれまでのふざけた挙動が嘘のように、ハキハキと喋っている。
 ……嘘のように、ではなく、嘘だったのだろう。

「なるほど。こっちがお前の本性か」

「ふふ。強烈なキャラがあると、そっちにばかり気を取られて、顔を覚えていないってことが多いのよ。だからあれは諜報員としての経験で生まれたキャラなの」

「諜報員のくせに、ペラペラと喋って良いのか? こんなにも口の軽い諜報員を使っているとは、人間は舐めるに値する種族じゃのう」

 試しにエラを煽ってみると、彼女はじとっとした目で妾を見た。

「私だって誰にでも口を割るわけじゃないわ。でもあなたに嘘は通用しないもの。だって他人の心の中が読めちゃうでしょ、あなた」

「ほう。旅の途中で気付いたのか? ……いや、気付いたというほどのことでもないか。さっきもショーンが心を読むなと口にしておったからな」

「隠さないのね。能力を知られたところで、人間ごときに負けはしないということかしら」

「当然であろう」

 これは虚勢でもハッタリでもなく、ただの事実だ。
 心が読めることを知られたところで、大したマイナスにはならない。
 もし人間が対策を立ててきたとしても、人間相手なら心を読まずとも簡単に勝つことが出来る。

「それにしても、あなたがショーンくんを連れ歩いているとはね。勇者パーティーのメンバーだった彼を連れ歩くなんて、何を企んでいるの」


「言っておくが、妾がショーンを勇者パーティーから引き抜いたわけではないぞ。妾は勇者パーティーに捨てられたショーンを拾っただけじゃ」

「本当かしら」

 妾の言葉を聞いたエラは、鋭い目つきで妾のことを睨んできた。
 いい度胸だ。

「妾が嘘を吐いているとでも? お前ごときに?」

 お返しとばかりに、妾もエラを睨んでやる。
 場にピリリとした空気が流れた。

「……なーんてね」

 ふっと力を抜いたエラが、両手を上げて戦意が無いことを示した。

「あなたは本当のことを言っていると思うわ」

 エラに合わせて、妾も睨むのを止めた。

「ショーンくんが勇者パーティーを追い出されたというのは、勇者たちがパーティー人数の減少を隠そうとしていることと辻褄が合うもの。なるほどね、だから勇者は知られたくなかったのね。国王から同行を頼まれた人材を、自分がパーティーから追い出したから」

「ほう……国王が勇者パーティーにショーンを入れるよう命令したのか……」

 ふと最後に見た勇者を思い出す。
 勇者はダンジョンでショーンに助けられたことで、ショーンが自分よりも強い存在であることを知った。
 そのショーンを勇者パーティーから追い出したことが王国に知られたら、いくら勇者であろうとも立場が無い。

 ショーン自身が自分の強さを証明する気がないため、ショーンの強さは理解されない可能性もあるが、それでも王国からパーティーに入れろと頼まれた人材だ。
 軽々しくパーティーから追い出していいわけではない。

 それにしても。
 国王直々に、ショーンを勇者パーティーに入れるよう進言していたとは。
 偶然か?
 それとも人間側にも何かに気付いた者がいるのか?

 城には結界が張られていたため、城内でどのように勇者パーティーが決められたのかまでは知らなかった。

「でもショーンくんを拾ったのが、よりにもよってあなたなんだもの。企みがあると疑いたくもなるわ」

 エラが軽い口調で言った。

「ほう。妾が誰だか知っておるのか」

「あまり人間を舐めないでくれるかしら。魔王さん?」

「ふっ。いつの時代も、人間は舐めるに値する種族じゃよ」



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