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【第五章】 美少女と、魔物の住処で性(さが)を知る
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しおりを挟む森の中をしばらく歩いていると、ピンク色の髪を高い位置で二つに結んだ少女の魔物と遭遇した。
頭からは獣の耳が生えており、背中には大きな黒い羽が生えている。
見た感じコウモリ型の魔物のようだ。
「えっ!? 魔王様!? どうしてこんなところに」
コウモリ型の魔物が言い終わらないうちに、魔王リディアは自身の隣を歩いていたエラを蹴り飛ばした。
魔王リディアの強烈な蹴りにより、エラは遥か遠くへと吹っ飛んだ。
「今、魔王はお忍び旅行中じゃ。ゆえに魔王という単語を使ってはならん。お忍びじゃからな」
魔王リディアはエラに「魔王」という単語を聞かせないようにするために蹴り飛ばしたのだろうが、コウモリ型の魔物は魔王リディアの過激な行動に若干怯えている。
「は、はい。分かりました」
もしかすると、俺がするべき反応もこのコウモリ型の魔物のようなものなのかもしれない。
しかし慣れとは怖いものだ。
エラがピンピンした様子で戻ってくることを知っていると「また蹴られたな」という感情しか湧かない。
「あのー……それでは、何とお呼びすれば?」
「妾のことはリディア、こっちはショーン、そして向こうに飛んで行ったあいつは、エラでも雌豚でも好きに呼ぶといい」
コウモリ型の魔物が恐る恐る尋ねると、魔王リディアは笑顔で答えた。
「雌豚……? はい、分かりました」
「さっそくじゃが、お前の住処に案内してはくれんかのう。えーと、名前は何と言うのじゃ」
「名乗りが遅れて申し訳ありません! ケイティと申します。えっと、ケイティの住処に来るのですか? 大した接待は出来ませんが……」
「構わん。寝る場所さえあれば、それで良い」
魔王に自宅訪問をしたいと言われて、断ることの出来る魔物がいるだろうか。
いや、いない。
「分かりました。すぐにケイティが案内します!」
予想通り、ケイティは自宅訪問を承諾した。
直前にエラが蹴り飛ばされる様子も見ているので、断る選択肢はなかったのだろう。
何だか申し訳なくなってきた。
せめて俺はケイティに対してフレンドリーに接することにしよう。
「ところで。お前の住処には他の魔物もおるのか?」
「はい。仲良しのお友達と二人で暮らしています」
「では案内の前にその友人とやらにも、魔王という単語を使ってはいけない旨を伝えてきてはくれぬか」
「かしこまりました。すぐに伝えてきます!」
飛び立とうとするケイティの手を、魔王リディアが掴んだ。
「少し待つのじゃ。くれぐれも今の話をエラにはしないように。あいつにも魔王関連の話を聞かれたくはないのじゃ」
「承知しました!」
魔王リディアがケイティに根回しを頼むと、ケイティは敬礼をしてから飛び去って行った。
彼女の住処はどこにあるのだろう。
もう夕方だから、住処があまり遠くではないと良いのだが。
「ちょっとリディアちゃん!? 蹴られるのは別にいいけど、ある程度は加減してくれると嬉しいなあ!?」
ケイティが去ってから、ピンピンした様子のエラが戻ってきた。
頑丈というレベルではない気がする。
蹴られた際、上手に受け身を取っているのかもしれない。
「もしかして……エラさんって、蹴られ慣れてるんですか?」
「リディアちゃんのような女の子の蹴りくらい、どうということはないわ。訓練受けてるからね」
魔王リディアの蹴りは、女の子の蹴りと呼ぶには強すぎる気がする。
少なくとも俺の知っている女の子は、一回の蹴りで大人を吹っ飛ばすことは出来ない。
……と、いうか。
「蹴られる訓練って何ですか!? そういうお店では蹴られる訓練をするんですか!?」
「あらあらあら。ショーンきゅんってば、こっちの世界に興味が出てきちゃった!? それなら私が、手取り足取り身体に教え込んであげるわ。あーんなことやこーんなことまでね」
「全力で遠慮します!」
俺の隣で、魔王リディアが次なる蹴りを繰り出そうと足を上げた。
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