上 下
93 / 172
【第五章】 美少女と、魔物の住処で性(さが)を知る

●93

しおりを挟む

 森の中をしばらく歩いていると、ピンク色の髪を高い位置で二つに結んだ少女の魔物と遭遇した。
 頭からは獣の耳が生えており、背中には大きな黒い羽が生えている。
 見た感じコウモリ型の魔物のようだ。

「えっ!? 魔王様!? どうしてこんなところに」

 コウモリ型の魔物が言い終わらないうちに、魔王リディアは自身の隣を歩いていたエラを蹴り飛ばした。
 魔王リディアの強烈な蹴りにより、エラは遥か遠くへと吹っ飛んだ。

「今、魔王はお忍び旅行中じゃ。ゆえに魔王という単語を使ってはならん。お忍びじゃからな」

 魔王リディアはエラに「魔王」という単語を聞かせないようにするために蹴り飛ばしたのだろうが、コウモリ型の魔物は魔王リディアの過激な行動に若干怯えている。

「は、はい。分かりました」

 もしかすると、俺がするべき反応もこのコウモリ型の魔物のようなものなのかもしれない。
 しかし慣れとは怖いものだ。
 エラがピンピンした様子で戻ってくることを知っていると「また蹴られたな」という感情しか湧かない。

「あのー……それでは、何とお呼びすれば?」

「妾のことはリディア、こっちはショーン、そして向こうに飛んで行ったあいつは、エラでも雌豚でも好きに呼ぶといい」

 コウモリ型の魔物が恐る恐る尋ねると、魔王リディアは笑顔で答えた。

「雌豚……? はい、分かりました」

「さっそくじゃが、お前の住処に案内してはくれんかのう。えーと、名前は何と言うのじゃ」

「名乗りが遅れて申し訳ありません! ケイティと申します。えっと、ケイティの住処に来るのですか? 大した接待は出来ませんが……」

「構わん。寝る場所さえあれば、それで良い」

 魔王に自宅訪問をしたいと言われて、断ることの出来る魔物がいるだろうか。
 いや、いない。

「分かりました。すぐにケイティが案内します!」

 予想通り、ケイティは自宅訪問を承諾した。
 直前にエラが蹴り飛ばされる様子も見ているので、断る選択肢はなかったのだろう。
 何だか申し訳なくなってきた。
 せめて俺はケイティに対してフレンドリーに接することにしよう。

「ところで。お前の住処には他の魔物もおるのか?」

「はい。仲良しのお友達と二人で暮らしています」

「では案内の前にその友人とやらにも、魔王という単語を使ってはいけない旨を伝えてきてはくれぬか」

「かしこまりました。すぐに伝えてきます!」

 飛び立とうとするケイティの手を、魔王リディアが掴んだ。

「少し待つのじゃ。くれぐれも今の話をエラにはしないように。あいつにも魔王関連の話を聞かれたくはないのじゃ」

「承知しました!」

 魔王リディアがケイティに根回しを頼むと、ケイティは敬礼をしてから飛び去って行った。
 彼女の住処はどこにあるのだろう。
 もう夕方だから、住処があまり遠くではないと良いのだが。

「ちょっとリディアちゃん!? 蹴られるのは別にいいけど、ある程度は加減してくれると嬉しいなあ!?」

 ケイティが去ってから、ピンピンした様子のエラが戻ってきた。
 頑丈というレベルではない気がする。
 蹴られた際、上手に受け身を取っているのかもしれない。

「もしかして……エラさんって、蹴られ慣れてるんですか?」

「リディアちゃんのような女の子の蹴りくらい、どうということはないわ。訓練受けてるからね」

 魔王リディアの蹴りは、女の子の蹴りと呼ぶには強すぎる気がする。
 少なくとも俺の知っている女の子は、一回の蹴りで大人を吹っ飛ばすことは出来ない。
 ……と、いうか。

「蹴られる訓練って何ですか!? そういうお店では蹴られる訓練をするんですか!?」

「あらあらあら。ショーンきゅんってば、こっちの世界に興味が出てきちゃった!? それなら私が、手取り足取り身体に教え込んであげるわ。あーんなことやこーんなことまでね」

「全力で遠慮します!」

 俺の隣で、魔王リディアが次なる蹴りを繰り出そうと足を上げた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

ザ・聖女~戦場を焼き尽くすは、神敵滅殺の聖女ビームッ!~

右薙光介
ファンタジー
 長き平和の後、魔王復活の兆しあるエルメリア王国。  そんな中、神託によって聖女の降臨が予言される。  「光の刻印を持つ小麦と空の娘は、暗き道を照らし、闇を裂き、我らを悠久の平穏へと導くであろう……」  予言から五年。  魔王の脅威にさらされるエルメリア王国はいまだ聖女を見いだせずにいた。  そんな時、スラムで一人の聖女候補が〝確保〟される。  スラム生まれスラム育ち。狂犬の様に凶暴な彼女は、果たして真の聖女なのか。  金に目がくらんだ聖女候補セイラが、戦場を焼く尽くす聖なるファンタジー、ここに開幕!  

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ
ファンタジー
クラウス・アイゼンシュタイン、二十五歳、C級冒険者。滅んだとされる死霊術士の末裔だ。 勇者パーティーに「荷物持ち」として雇われていた彼は、突然パーティーを追放されてしまう。 S級モンスターがうろつく危険な場所に取り残され、途方に暮れるクラウス。 そんな彼に救いの手を差しのべたのは、五百年前の勇者親子の霊魂だった。 五百年前に不慮の死を遂げたという勇者親子の霊は、その地で自分たちの意志を継いでくれる死霊術士を待ち続けていたのだった。 魔王討伐を手伝うという条件で、クラウスは最強の女勇者リリスをその身に憑依させることになる。 S級モンスターを瞬殺できるほどの強さを手に入れたクラウスはどうなってしまうのか!? 「凄いのは俺じゃなくて、リリスなんだけどなぁ」 落ちこぼれ死霊術士と最強の美少女勇者(幽霊)のコンビが織りなす「死霊術」ファンタジー、開幕!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...