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【第四章】 腹筋が割れてた方がモテそう、とあいつが言っていた
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しおりを挟むBブロックは、Aブロックのような圧倒的な闘いではなく、きちんと武闘大会の体を保っていた。
強者はいたが、Aブロックで暴れていた人ほどの強さではなかったことも理由の一つかもしれない。
そしてこの予選試合の肝は、一対一の試合ではなく、団体で行なう試合だという点だ。
五人中二人が、次の試合へと進むことが出来る。
つまり、三人を蹴落とせばいいのだ。
このルールで何が起こるかと言うと……弱者同士の蹴落とし合いだ。
わざわざ強者に立ち向かう必要は無い。
自分と強者以外の三人を蹴落とせばいいのだから。
Bブロックでは、他の参加者と比べて明らかに細い参加者が、全員から狙い撃ちされていた。
まるで俺の未来を見ているようだ。
「俺もああやって狙い撃ちされるのかも」
「どの参加者も分かってないねえ。立ち回りが下手すぎる」
俺が危機感を覚えていると、隣でルースが不満げに呟いた。
「どういうことですか?」
「この武闘大会は審査員の得点で順位が決まる。そりゃあ、やられて気絶したら大幅な減点だが……あれだけの攻撃を躱しきったとなれば、今逃げている参加者が一気に首位だ」
「下手な攻撃は、他の参加者に得点を与えるかもしれないということですか。なるほど」
この武闘大会は、ただ力が強い者だけが勝つわけでもないらしい。
得点の基準は明示されていないが、攻撃だけではなく、攻撃を躱したり受け流したりでもポイントが入るようだ。
さらに、これだけの観客がいるということは、運営は観客を楽しませたいはずだ。
もしかすると芸術点のようなものもあるのかもしれない。
俺が狙うべきは、きっとこれだ。
「おっと。少々口が滑ったな」
ルースはわざとらしく自身の唇に人差し指を当てると、俺にまたウインクを飛ばしてきた。
「僕の独り言を聞いたからには、大会を盛り上げてくれるんだよな?」
「……わざと聞かせたくせに」
そのとき歓声が上がった。
どうやら全員から逃げていた細い参加者が、ついにやられたらしい。
倒れたことによる大幅減点によりトーナメント戦には進めないだろうが、同じ細い者として、健闘をたたえよう。
* * *
Cブロックの試合は、強者同士が正面からぶつかり合っているようだ。
そんなようなことを、実況の男が言っている。
聞こえてくる大きな音からも、強者同士が剣を交えていることが伺える。
どうして試合内容が曖昧かと言うと、俺はCブロックの試合を観戦せずに、武器庫に置かれた武器とにらめっこをしているからだ。
Bブロックの試合のように集中砲火をされた場合の対処を考える必要がある。
当初は短剣で闘うつもりだったが、短剣一本では複数人から襲われた際に不利だ。
「短剣を二本に増やせば……いや、地味か?」
運営側は武闘大会が盛り上がることを望んでいる。
「見栄えがして、それでいて複数人からの攻撃をなんとかできるものは……」
俺は武器庫の中をくまなく確認した。
どの武器も見事に木で出来ている。
もしかして運営ギルド内の誰かが作ったのだろうか。
「ん? 武器だけじゃなくて防具や装飾品まであるんだ。防具は鉄、装飾品は木や布、貝で出来たものみたいだ」
盾があれば複数人からの攻撃を防げるかもしれないが、身軽さは無くなる。
うーむ、どうしたものか。
「私物の武器の持ち込みは認められてないけど、武器庫にあるものはどれだけ使ってもいいんだったよね?」
誰にともなく呟くと同時に、Cブロックの試合が終了したようだった。
* * *
Dブロックの五人がリングに集合した。
俺以外の全員がマッチョだ。
それにしても大きな町とはいえ、一つの町にこんなにもマッチョが多いのは珍しい気がする。
過去に勇者パーティーで滞在したときは…………ああ。あのときは富豪の屋敷に招待されて、ほとんどの時間を屋敷で過ごしたのだった。
だから町にこれほどマッチョがいたなんて知らなかった。
……というか、あまり町を歩かなかったのだから、わざわざ変装をしなくても身バレはしなかったかもしれない。
なんだか自分が自意識過剰な気がしてきて、羞恥心が湧き上がってくる。
と、それはさておき。
今は闘いに集中しないと、大怪我を負う可能性がある。
さらに予選で負けたとなると、魔王リディアに何を言われるか分からない。
俺は気を引き締め直して、対戦相手を観察した。
一人は大剣を手にしていて、一人は巨大なハンマーを手にしている。
一人は盾と長剣を持っていて、一人は何の武器も持っていない。
そして俺は…………防具を身に付け弓を持っての参戦だ。
「Dブロックの試合、始め!」
審査員の掛け声とともに、試合が始まった。
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