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【第三章】 困っている女の子は助けるべし、と誰かが言っていた

●65 side ドロシー

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 目を覚ますと、頭上に広がっていたのは青空ではなく、天井だった。
 見慣れた実家の天井ではないが、ここがベッドの上であることは間違いないだろう。

「…………うっ」

 身体を起こそうとすると、激しい眩暈がした。
 仕方がないので、再びベッドに身体を預ける。

「大丈夫? 急に起き上がると危ないよ」

 声の主は私の額に、冷たい布を置いた。
 ひんやりとした心地よさを感じながら、声の主である少女に尋ねる。

「あなたは一体、誰ですか?」

「あたしはただの冒険者。しかもかなり弱い、ね」

 少女は優しく微笑みながら私を見つめた。
 間違えるわけがない。
 彼女は、珊瑚色の髪のヒーローだ。

「どうして私を助けに来てくれたのですか……?」

「これ」

 少女はキラキラ光るガラス玉を私に握らせた。

「これ……ヒーローが来てくれるお守り……」

「なにそれ。ショーンってばそんな風に言ったの?」

「あなたはショーンくんのお知り合いの方ですか?」

 お揃いの物を持っているということは、知り合い以上の関係であることは確実だ。
 そうとは知らずに二人のお揃いの品をもらった上に、割ってしまった。

「うーん、知り合いってほどショーンのことを知ってはいないんだけど。でも一緒にクエストをこなした仲よ」

 なんだか微妙な反応だ。
 知り合いと友だちの中間くらいの関係だろうか。

「あたしの名前はヴァネッサ。あなたは?」

「……ドロシー、です」

 ヴァネッサに名前を尋ねられたため答えると、彼女の手が伸びてきた。
 私も彼女に向かって手を伸ばす。

 あのとき助けを求めて伸ばした手が、やっと握られた。
 この瞬間を、ずっとずっと待っていた。

「ヒーローが、来てくれた……」

「自分で名乗っておきながら、あらためて言われると、恥ずかしいわね」

「恥ずかしくなんてありません。あなたは私のヒーローです」

 ヴァネッサの手をぎゅっと握りながら、呟く。

「私はきっと、救われたかったんです。伸ばした手を、温かい手で掴んでほしかった」

 ヴァネッサの手からは体温が伝わってくる。
 この村の人たちが失ってしまった、体温が。

「とっても温かい、です」

「寒かったの?」

「……そうかもしれません。私はずっと、寒さに凍えていたのです。そのことに気付かない振りをしていました」

 抽象的で意味の分からないことを言う私を、ヴァネッサは否定しなかった。

「寒いなら、一緒に南へ行かない? きっと暖かいわ」

「南、ですか?」

 突然、話が飛んだ。
 私が目をぱちくりとさせると、ヴァネッサは照れた様子で私を勧誘してきた。

「ドロシーさえ良ければだけど、あたしと一緒に旅に出ない?」

「旅……考えたこともありませんでした」

 この村から出ることなんて、考えたこともなかった。
 自分はこの村で生まれてこの村で死ぬものだとばかり思っていた。

「きっと楽しいわ。大変なことも多いと思うけど」

「旅ですか。うーん……」

「あのね、私、自分で言うのもアレだけどすごく弱いんだ。だから大変な旅になるかもってことは先に伝えておくわね。それも考慮して決めて」

 勧誘するときには、そんなことを言わなければいいのに。
 まっすぐというか、愚直というか。

 ……きっとそんなヴァネッサだから、私は救われた。
 彼女と一緒なら、どんな困難でも乗り越えられる気がする。
 だから私はもう、大丈夫。

「手を掴んでくれるヒーローがいるなら、私は『大丈夫』です」

「うん?」

「あなたが弱くても構いません。私が強いので」

「カッコイイこと言うわね」

 ヴァネッサはリュックから地図を取り出して、ベッドの上に広げた。

「ねえ、もしかして毒蜂退治が得意だったりしない? ここへ来る途中に毒蜂の巣を見つけたんだけど、あたしじゃ手を出せなくて。このあたりに巣があるの」

「毒蜂退治ならお安い御用です。ネクロマンサーは痛覚のない死体を操りますから。村に転がっている魔物を連れて行きましょうか」

「うっわー、頼もしい!」

 とはいえ出発するのは明日以降になるだろう。
 この状態のまま出発しても、魔物たちの格好のエサになるだけだ。
 だから、今夜は。

「ここで会ったのも何かの縁です。私に旅のお話を聞かせていただけませんか?」







――――――――――――――――――――

ここまでお読みいただきありがとうございました。

この作品には章ごとにテーマがあります。
第一章のテーマは『〇〇〇〇〇〇〇〇ある』
第二章のテーマは『愛と差別』
第三章のテーマは『正義と各々の世界』でした。

第三章、そして、だんだんと表出してきた物語大枠の謎も、楽しんで頂けていたら幸いです。

もし面白かったり、応援してやってもいいよと思ってくださったら、お気に入りボタンを押して頂けると、とても嬉しいです!

今後も『勇者パーティーを追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~』をよろしくお願いします^^


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