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【第三章】 困っている女の子は助けるべし、と誰かが言っていた

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「しかしショーンよ。ヴァネッサを正義のヒーローとして向かわせるのは悪手じゃと思うぞ」

「どうしてですか?」

 ドロシーの元にヴァネッサを向かわせるという案に、魔王リディアは賛成ではないようだった。
 難しい顔で唸っている。

「ドロシーの問題は、正義のヒーローとは相性が悪いからじゃ。ドロシーは、世間一般で言う正義とは反する世界で生きておるじゃろう? ヴァネッサのまっすぐなところは長所じゃが、短所でもある。ヴァネッサは、それこそドロシーの世界を踏み荒らしてしまうのではないか?」

「正義とは、その内容はもちろんですが、タイミングも正義を正義にするのだと、俺は思っています」

「タイミングとな」

 この世界に、絶対の正義はない。
 タイミングが正義を作ると言っても過言ではないだろう。

 よく出される例だが、相手が憎み合っている国の兵士であろうと人を殺すことは悪だ。
 しかし相手の国と戦争中であれば、相手国の兵士を殺すことは正義とされる。

 ……正直、この例は俺にはよく分からない価値観だが、正義をよく表していると思う。
 正義とは『タイミング一つで姿を変える、よく分からないもの』だ。

「確かに今の状態でドロシーにヴァネッサをぶつけるのは悪手だと俺も思います。しかしヴァネッサが呼ばれるのは、ドロシーが合図玉を割ったとき、つまりヒーローを必要とするときです」

「ドロシーの世界が保たれている間は、ドロシーは合図玉を割らない。そういうことじゃな?」

「はい。ドロシーが合図玉を割るのは、彼女の世界が壊れたときです。その時点でなら、ヴァネッサの正義は正義になるのではないでしょうか」

 俺の言葉を聞いた魔王リディアは、口の端を上げてニヤリと笑った。

「……ショーンよ。お主、ユニークスキルを使ったな?」

「さあどうでしょう」

「ユニークスキルを消したいと言いながら、使いまくりではないか」

「乱用はしてませんよ」

 ラッキーメイカーのユニークスキルを消したい気持ちは本当だ。
 しかし事実として、今の俺はスキルを所持している。
 スキルを所持しているのに使わずに最悪の結末を迎えてしまったのでは、きっと俺は後悔をする。
 そうならないために使うだけで、ユニークスキルでチートを披露したいわけではない。

 それにまだ会ってもいないドロシーのことを考えて、あらかじめヴァネッサに合図玉を渡すなんてファインプレーは、俺には出来ない。
 あと合図玉をヴァネッサに渡そうと言い出したのは魔王リディアだ。

「どうであろうな。あの場で合図玉を取り出してヴァネッサの興味を引いたのはショーンであろう」

 どうやら魔王リディアは俺の言葉を全く信じてはいないようだ。
 まあ別に構わないが。

「それはさておき、ショーンよ。ヴァネッサと一つずつ持つことにしたものを、勝手に他の女にあげるのは、良くないと思うぞ。妾はお主をそんな軽薄な男に育てた覚えはない」

「そもそもリディアさんに育てられた覚えがないです」

「ああ可哀想に。ヴァネッサもドロシーも、悪い男に引っかかってしまったのう」

「俺は悪い男じゃないですよ」

 確かにヴァネッサと二人で分けたものを、勝手にドロシーに渡したのは褒められた行為ではないかもしれないが。

「あの二人なら上手くやれると思うんです。タイプが違うからこそ補い合える気がします」

「戦闘力は低いが、基本的にまっすぐで太陽のような性格のヴァネッサ。戦闘力は高いが、精神的に脆く危ういところのあるドロシー。確かに悪い組み合わせではないのう」

 あの状態のドロシーをヴァネッサが救ってくれたらこれ以上のことはない。
 それに戦闘力から考えて一人旅が危険だろうヴァネッサの旅に、ドロシーという強い旅の仲間が加わったら、安全な旅になるはずだ。

「またどこかで二人と再会できると良いですね」

「……で、どっちが本命なんじゃ?」

「えっ!?」

 俺がしみじみしていると、魔王リディアが変なことを聞いてきた。

「元気でドジっ子なヴァネッサか? 薄幸で守ってあげたくなるドロシーか?」

「いえ、俺はそんなんじゃ」

「なるほど。乳のデカい方か」

「何がなるほどなんですか! そんな決め方はしませんよ!?」

「そうか。それはすまなかった」

 俺に自身の言葉を否定された魔王リディアは、まだニヤニヤと笑っている。

「ショーンは貧乳が好きだったのか」

「乳で女性は選びません!」




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