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【第三章】 困っている女の子は助けるべし、と誰かが言っていた
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しおりを挟む「呪いのアイテム、売ってませんでしたね……」
「まあええじゃろ。呪いのインスタントカメラを買い取ってもらえたんじゃから、店に寄ったのも無駄ではない」
「昼食代にもならない額でしたけどね」
あの後アイテムショップに寄った俺たちは、店で呪いのアイテムを探したが、そういったものは売っていなかった。
代わりに手持ちの呪いのインスタントカメラを買い取ってもらったのだが、呪いのアイテムを取り扱っていないだけあって、大した値段はつかなかった。
もっとも他の店で売ってもあまり値段は変わらなそうなので、荷物を軽くする意味も込めて売り払った。
「ショーンとリディアは、ずっと二人で旅をしてるの?」
巨大グモの住処を目指して歩きつつ、ヴァネッサが質問した。
町から離れた場所に巨大グモの住処があるらしい。
「ずっとではないですね。一緒に旅を始めたのは最近です」
「へえ。何がきっかけで一緒に旅をすることになったの?」
「実は俺、元いたパーティーを追放されまして。そのときたまたま出会ったリディアさんに拾われたんです」
「追放って何をやらかしたのよ」
「やらかしたと言うか、何もやらなかったと言うか」
正確には、何もやらなかったように見えた、だが。
しかしこれをあまり主張すると、負け惜しみみたいになるのでやめておいた。
「妾はショーンと出会う前も旅をしておったぞ。旅は最高じゃ」
「いいなあ。あたしも旅がしたいなあ」
ヴァネッサは心から羨ましいのだろう声を出した。
「ヴァネッサさんも旅に出たらいいじゃないですか。冒険者なんでしょう?」
「冒険者……になりたい一般人かな、あたしは」
ヴァネッサはそう言って自身の長剣を抜いた。
長剣の刃が太陽の光を反射している。
ヴァネッサの長剣はとても綺麗で、使い込まれているようには見えない。
「冒険者ギルドに登録してる時点で、冒険者だと思いますよ」
「……あたしはこの町から出たことがないの」
「冒険者なのに、町から出ないんですか?」
ヴァネッサは長剣を鞘にしまうと、溜め息を吐いた。
よく見ると鞘も新品同様の状態だった。
「旅をするためには強くなくちゃいけないの。あたしのような若い女は特にね。ギルドの受付やってるお姉さんも言ってたけど、世の中ってクズが多いのよ」
そういえばギルド受付の女性がそんなことを言っていた。
ついでに俺がそういった輩かもしれないとまで言われた。
子ども連れでも怪しいと疑いたくなるくらい、クズによるトラブルが多いのだろう。
「当然のことだけど、強くなるためには修行をしなくちゃいけない。装備も揃えないといけない……だけどね。その前に、まずは今日のご飯代を稼がないといけないの。生きていくために」
俺は運よく勇者パーティーに所属していたため、金銭面で困ることはなかった。
ダンジョンに潜れば換金できるアイテムはどんどん入手できるし、町ではよく接待を受けていた。
しかし普通の冒険者ではこうはいかないだろう。
「生活費のために一日中働いて、ぐったりしながら帰ってきて、泥のように眠る。そして翌日、また一日中働いて、帰ってきて寝る。その翌日も一日中働いて帰ってきて寝る……きっとあたしの人生は、そうやって旅に出る前に終わるのよ」
ヴァネッサのような人は決して珍しくはないのだろう。
やりたいことがあっても、まずは生活を安定させなければ、着手できない。
しかし生活を安定させるためにはその分働かなくてはならない。
だから仕事で時間と体力を使って……肝心のやりたいことまでは手が回らなくなる。
「もし何かきっかけがあったら、あたしは一歩踏み出せるのかしら。それともここで足踏みしているうちに、きっかけがあっても動けないダメ人間になっちゃったかしら」
ヴァネッサは誰に言うでもなく独り言のように呟き続けた。
「旅に出て、魔物の被害に遭っている人を助けたかったの。ダンジョンをクリアして消滅させて、ダンジョンから出てくるモンスターによる被害を減らしたかったの。あたしはそういう、ヒーローみたいな冒険者になりたかったんだ」
立派な夢だと思う。
俺が旅をしてきての感覚だが、人助けを目標にしている冒険者は少ない。
未知の動物やアイテムを探して冒険する者や、自分の力を試したい者、ダンジョンに魅せられた者、魔物に復讐をしたい者、単純に旅を楽しむ者。
そういった冒険者が大半のように思う。
「ヒーローみたいな冒険者になりたいとか言って、ヒーローになれないどころか、旅にすら出られないでいる。あたしには才能が無いのかな。ヒーローになる才能が」
俺が静かにヴァネッサの話に耳を傾けていると、ヴァネッサは自身の頬をペチンと叩いて、暗い表情を吹き飛ばした。
「ごめんね。暗くなっちゃったよね」
「お気になさらず」
俺は別に暗い話が悪いとは思わない。
何事にも善い面と悪い面がある。
善い面だけを見て判断するのは、物事をきちんと見ていないのと同じことだ。
同様に、明るい話と暗い話の両方を聞くことで、語り手のことをきちんと知ることが出来る気がする。
「さあ。切り替えて、今回のクエストの話をしよう!」
「クエストじゃー!」
ヴァネッサは完全に切り替えたらしく、声の調子からして元気いっぱいになった。
呼応するように魔王リディアも元気に返事をした。
「今回の目的は、巨大グモの目玉を入手すること。一匹の巨大グモに目玉は何個もあるけど、戦わずに手に入れるのは難しいと思った方がいいわ」
「ほうほう」
「簡単なのは、巨大グモを倒してから目玉を取り出す方法ね。むしろこれしか無いかも……巨大グモの見つけ方は、大きな蜘蛛の巣を目印にするといいみたい」
「大きな蜘蛛の巣とは、あんな感じのやつか?」
「そうそう。ちょうどあんな感じの蜘蛛の巣……」
ここでヴァネッサがひときわ大きな声で叫んだ。
「出たーーーっ!?!?」
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