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【第二章】 美少女と、善人の村で愛を知る
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しおりを挟む「……だからあの子には、苦労をせずに、幸せに暮らしてほしいんだよお」
全員がテーブルに戻ってからも、ヘイリーの父親の娘自慢は続いた。
特にヘイリーは歌が上手いという話は、もう三度も聞いた。今日一日で耳にタコが出来そうだ。
「あなたは、とてもいいお父さんなんですね」
ヘイリーの父親は、いくら語っても飽きないほどに娘のことが好きなようだ。
娘自慢に絡み酒という面倒くさい癖は持っているが、これが理想的な親の姿なのかもしれない。
「えぐっ……んぐっ……」
感情の昂ったヘイリーの父親は、ついに酒を片手に泣き始めた。
よくあることなのか、村長はヘイリーの父親の男泣きを気にもしていない様子だ。
「そんな目に入れても痛くないヘイリーが、魔物にさらわれて今も泣いているかもしれないと思うと……俺は毎日生きた心地がしないんだ……」
ヘイリーの父親が俺の肩を揺さぶった。
助けを求めて魔王リディアをチラ見すると、彼女の冷めた瞳と目が合った。
あ。これは助ける気ゼロだ。
「だからって無策で魔物の家に飛び込むわけにはいかねえ。いや、一度は飛び込んだんだけどよ。あれは間違いだった」
俺の気など知らず、ヘイリーの父親は俺のことを揺さぶり続けている。
もし俺が酒を飲んでいたら、激しい揺れのせいで今頃嘔吐しているだろう。
「俺が無駄死にしたら、家にいる母ちゃんを一人にしちまう。娘を失って、俺まで失うなんて、そんなの母ちゃんが可哀想だ。だから俺は、死ぬわけにはいかないんだよお」
「この人は愛妻家でもあるんですよ」
「……へ、へえ」
村長がヘイリーの父親が愛妻家だという情報を付け足してくれたが、情報の追加よりも俺を助け出してほしい。
「母ちゃんを一人残すなんて俺には出来ないが、だからってヘイリーを諦められるわけがないんだよお。大事な娘なんだもんよお、うおおお」
ついにヘイリーの父親は号泣し始めた。
おかげで俺に対する激しい揺さぶりは収まったが、号泣は号泣で対処に困る。
しばらく好きに泣かせていると、だんだんとヘイリーの父親は落ち着きを取り戻した。
そして、不穏なことを言い始めた。
「でもなあ、もし旅のお方でも魔物からヘイリーを救出できなかったら……村の男衆で魔物の家に乗り込むつもりだ」
「本気ですか?」
「村の男衆には協力を頼んである。あとは村長が首を縦に振ってくれればいいだけだ」
これは村長も初耳だったようで、先程まで酒でとろんとしていた目を見開いて驚ている。
「そうですか……村人たちは、あなたへの協力を承諾しているのですね」
「ああ。いざとなったら自分の命を優先するという条件付きだがなあ。一家の大黒柱がいなくなったら困る家は多い。だから俺もその条件は仕方がないと思ってる。むしろそんな状況なのに協力してくれるなんて、ありがたい話だあ」
「この人が一人で乗り込んだときには、魔物には全く歯が立たなかったんです」
二人の会話にただ耳を傾けている俺に、村長がまた補足情報をくれた。
「仕方ないだろお。人間対魔物じゃあ、魔物の方が圧倒的に有利なんだからさあ」
「その通りですよ。一人で魔物に挑んで、生きて帰って来られただけで儲けものです」
「だが、武器を持って男衆全員で立ち向かえば、あの魔物を殺せるはずだあ。夜中に魔物の家を焼き払ってもいいかもしれない。あの魔物は四肢を引き裂いて内臓を……」
「こら。子どももいる場で物騒なことを言うのはよしなさい……ああ、そうでした。子どもがいるのでしたね。少し早いですが、そろそろお開きにしましょうか」
部屋に戻った俺と魔王リディアは、布団を敷いて就寝する準備を始めた。
「酔っぱらいに絡まれた感は否めませんが……楽しかったですね」
「料理も美味じゃったのう」
「はい。みなさん、善い人たちでしたね」
「ああ、悪い人間ではない……明日になっても、そのことを忘れるでないぞ」
何となく魔王リディアが最後に言った言葉が気にかかり意図を尋ねようとしたが、布団に入った彼女は瞬く間に眠っていた。
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