9 / 172
【第一章】 勇者パーティーから追放されたら、美少女に拾われた!?
●9
しおりを挟む「ショーンよ。お主、毛布もかぶらずに寝たのか?」
目を開けると、空が明るくなっていた。
何事もなく夜が明けたようだ。
「毛布なんて持ってないので。魔法で出現させることも出来ませんし」
「それならそうと、さっさと言わんか。妾には仲間にひもじい思いをさせる趣味は無いのじゃぞ?」
さっさと言えと言われても、昨晩魔王リディアは驚くべきスピードで寝てしまった。
毛布をかぶって三秒でぐっすりだった気がする。
「妾は『一年という契約が切れてもこのまま魔王リディア様と旅がしたい』とショーンに言わせたいのじゃ。ゆえに旅は快適でなければならぬ。頼みごとがあるならすぐに言うのじゃぞ」
欲しいと言えば、俺も布団と毛布で寝られるのか?
すごいVIP待遇だ。
勇者パーティーでは、野宿で毛布をかぶることなんてなかった。
というか、どんなパーティーであろうと、野宿で布団と毛布にありつけはしないだろう。
「妾との旅はすごいであろう? 早速、契約が終わっても妾と旅を続けたくなったであろう?」
魔王リディアは得意げな顔をしている。
外見が美少女なだけに、こういった表情はとても可愛らしい。
「さあショーンよ、朝食じゃ。たらふく食べるがよい」
焚火の前にはまたしても魚の串焼きが並んでいた。
そういえば朝になったのに焚火が消えていないと思ったら、新たな薪が大量投下されている。
「あんた……リディアさんも魚を食べるんですか?」
「なんじゃ。独り占めしたかったのか? 欲張りな男じゃのう」
「そうではなく。魔王だからもっとゲテモノっぽいものを食べるんだと思っていました」
魔王リディアは魚の刺さった串を一本手に取ると、串ごとバリバリと食べ始めた。
「妾は雑食じゃ。毒に耐性もあるから、食べようと思えば何でも食べられる」
「なる、ほど……?」
雑食というのは肉でも魚でも野菜でもゲテモノでも食べられるということ……だよな?
今、魚と一緒に串もバリバリ食べていたけど……魔王リディアの言う雑食って、木や石も食べられるということ?
「うーむ。さすがに石はどうじゃろう。まずそうじゃから食べたことはなかったが、今度期待に応えてやろうか?」
「期待はしてません。食べなくていいです」
石を食べる美少女は、まるで貧困のために石しか食べる物が無いみたいで、絵面的に見ていて悲しくなりそうだ。
「どうした? 早く食べないと勇者たちがダンジョンを閉じてしまうぞ?」
魔王リディアの言葉にハッとした俺は、急いで焼き魚を食べ始めた。
もちろん串は食べられそうもなかったが。
* * *
食事を終えた俺たちは、山道を歩いてダンジョンに到着した。
移動を始める前に、魔王ならダンジョンの前までひとっ飛びで行けるのではないかと尋ねると「景色を見ながら歩くのが旅の醍醐味じゃ」と一蹴された。
さらに俺は、情緒の無い人間という烙印を押されてしまった。
だからモテないのだと……余計なお世話だ。
「ほうほう。勇者パーティーはすでにダンジョンに潜ったようじゃのう」
「そんなことが分かるんですか?」
「中にいるのが誰かまでは分からんが、四人の人間が中におる。このタイミングでこのダンジョンに挑んでいる冒険者など、いくらもおるまい?」
四人。
きっと勇者パーティーだ。
勇者、戦士、僧侶、魔法使い。
自然と彼らの顔が思い浮かんでしまい、溜息を吐いた。
「そう暗い顔をするな。勇者パーティーを追放されたその日から、プリティな魔王と一緒に旅をすることになったと、自慢してもよいぞ?」
「魔王と一緒にいることがバレたら厄介なことになりそうなので、絶対に言わないでくださいね」
「つまらんのう」
魔王リディアは拗ねているが、魔王と一緒に旅をしていることがバレたら、きっと俺はお尋ね者だ。
呑気に旅をしている場合ではなくなる。
「確かにのう。旅はのんびりするからいいんじゃ。逃げるように旅をするのでは、楽しさは半減どころではないからのう」
俺の考えを呼んだ魔王リディアはそう言うと、ダンジョンに手をかざした。
「立ち話もよいが、そろそろダンジョンへ入るぞ。勇者たちにダンジョンを閉じられる前に、呪いのアイテムを見つけるんじゃろう?」
「あっ、はい!」
俺はさっさとダンジョンに潜る魔王リディアに続いて、ダンジョンへと足を踏み入れた。
22
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる
まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。
そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる