97 / 102
【第五章】 隠された名前
第89話
しおりを挟む「どうしてあなたたちは、人間の心臓から花を咲かせるの? どうしてあんな惨い殺し方をするの?」
徐々に核心をついて行こうと思っていたのに、どうしても気になっていた質問が口から飛び出てしまった。
こうして話してみると『死よりの者』は見た目ほど怖い存在ではない。
彼らが優しいのは私が“扉”であることも関係しているだろうが、それにしたってあんなに残酷な殺し方をするような者たちとは思えない。
過去の出来事で芽生えた人間に対する恨みが、彼らにそうさせているのだろうか。
≪ 人間は死者に花を供えます。だから我らも死者に花を供えるのです。我らの花を。 ≫
『死よりの者』から告げられた答えは、まず私の質問を前提から覆すものだった。
私は『死よりの者』が心臓に花を突き刺すことで相手を殺しているのだと思ったが……死者に供える?
「あなたたちは、花を使って相手を殺すわけではないの?」
≪ 花は供えるものです。人殺しの道具ではありません。 ≫
その言い方をされると、私が花を人殺しの道具として見ているみたいに聞こえるからやめてほしい。
「あなたの言う通り、花は人殺しの道具ではないけれど……だって心臓から咲いていたのよ?」
≪ 我らは血液を花に変える魔法を使うことが出来ます。あの花は、死者の血液から作成されています。 ≫
『死よりの者』の答えは、私にとって衝撃的なものだった。
血液を花に変えることが可能って、それは。
「そんな魔法が使えるなら、あなたたちは敵無しなんじゃないの!?」
相手の血液を花に変えられるなら、全身の血液を花に変えてしまえば、簡単に相手を殺すことが出来る。
相当強力な魔法のはずだ。
≪ かつて我らが日本の兵として戦っていた頃は、その魔法で敵国の人間を殺していました。ですが、だからこそ、我らは決してあの魔法で人殺しをしません。その行為は我らの禁忌なのです。 ≫
日本での経験は、人間だけではなく『死よりの者』にも暗い影を落としているようだ。
『死よりの者』は、他の『死よりの者』と知識を共有しているため、より実感に近い形で日本での虚しさを感じているのだろう。
「そうだったの。変なことを言ってごめんなさい」
私は『死よりの者』の背中をそっと撫でた。
ただの雑談で嫌なことを思い出させてしまった。
せっかく協力してくれているのに、その相手を暗い気分にさせるなんて、最低な行ないだ。
知らなかったとはいえ、自己嫌悪に陥りそう。
≪ “扉”が気にすることではありません。何が言いたいのかと言うと、我らはあの魔法を、死者に花を供える意味で使用しています。あれは我らの追悼の意なのです。 ≫
『死よりの者』は私の落ち込んだ様子を察知したのか、明るい調子で言った。
「追悼の意。そうだったのね。私はあれを見て……」
恐ろしいと思ってしまった。
そのことが、今は恥ずかしい。
* * *
「まもなく休憩ポイントです。ここで一旦休憩を挟みましょう」
セオの掛け声とともに『死よりの者』たちは、川の近くに着地をした。
そして私たちを下ろすと、リフレッシュのためか川で水浴びを始めた。
「ふわあ、よく寝た」
地面に下ろされたミゲルは、目を擦りながら伸びをした。
眠そうだとは思っていたが、まさか最初の三時間で寝るとは思っていなかった。
「ミゲルは将来、大物になると思うわ」
「おれもそう思う」
若干の嫌味も入っていたのだが、ミゲルには通用しなかった。
「怯えて暴れられるよりもずっといいですよ。暴れられると落下の危険性が高まりますからね」
「それはそうですね……ねえ、ミゲル。まだ眠い?」
「ああ、ちょっと眠いかも。今日は一日、普通に働いてたし」
前金を貰っているのに、まさか今日も働いているとは思わなかった。
あのお金は自分が不在の間のために、とっておきたかったのだろうか。
「それならこの後はミゲルがペリカンさんののど袋に入るのはどうかしら。あっちの方が快適に眠れるでしょ?」
「いくらおれでも、口の中はなあ……」
「安全面から考えてもその方が良いかもしれませんね。いくらミゲル君が軽いとは言っても、ミゲル君の服はそれ以上に破れやすそうですし」
セオがミゲルの服を見て言った。
蜂型の『死よりの者』は肩を持って飛ぶため、服が破れると落下の危険がある。
「安物の服で悪かったな」
「貶したいわけではありません。町に到着したら丈夫な服を買いましょう。その服のまま移動を続けるのは危険ですので」
「そうそう。ミゲルには新しい服を買ってあげるから、その服はペリカンさんのよだれで多少は濡れても良いじゃない。ね?」
ミゲルは自身の服を見てから少し考えて、頷いた。
「新しい服を買ってくれるなら、口の中に入って運ばれてやってもいいかな。ドロドロベチャベチャになった服は捨てることにする。どうせ安物だし」
「ありがとう、ミゲル! たとえグッチョグチョになったとしても、私たちは仲間だからね!」
ハイタッチをするミゲルと私を見て、セオは首を傾げていた。
「お二人がどんなものを想像しているのかは分かりませんが……のど袋は、お二人が思っているよりも綺麗ですよ?」
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します
たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』
*書籍化2024年9月下旬発売
※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。
彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?!
王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。
しかも、私……ざまぁ対象!!
ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!!
※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。
感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
婚約破棄の現場に遭遇した悪役公爵令嬢の父親は激怒する
白バリン
ファンタジー
田中哲朗は日本で働く一児の父であり、定年も近づいていた人間である。
ある日、部下や娘が最近ハマっている乙女ゲームの内容を教えてもらった。
理解のできないことが多かったが、悪役令嬢が9歳と17歳の時に婚約破棄されるという内容が妙に耳に残った。
「娘が婚約破棄なんてされたらたまらんよなあ」と妻と話していた。
翌日、田中はまさに悪役公爵令嬢の父親としてゲームの世界に入ってしまった。
数日後、天使のような9歳の愛娘アリーシャが一方的に断罪され婚約破棄を宣言される現場に遭遇する。
それでも気丈に振る舞う娘への酷い仕打ちに我慢ならず、娘をあざけり笑った者たちをみな許さないと強く決意した。
田中は奮闘し、ゲームのガバガバ設定を逆手にとってヒロインよりも先取りして地球の科学技術を導入し、時代を一挙に進めさせる。
やがて訪れるであろう二度目の婚約破棄にどう回避して立ち向かうか、そして娘を泣かせた者たちへの復讐はどのような形で果たされるのか。
他サイトでも公開中
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。
木山楽斗
恋愛
私は、恋愛シミュレーションゲーム『Magical stories』の悪役令嬢アルフィアに生まれ変わった。
彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。その性格故に、ゲームの主人公を虐めて、最終的には罪を暴かれ罰を受けるのが、彼女という人間だ。
当然のことながら、私はそんな悲惨な末路を迎えたくはない。
私は、ゲームの中でアルフィアが取った行動を取らなければ、そういう末路を迎えないのではないかと考えた。
だが、それを実行するには一つ問題がある。それは、私が『Magical stories』の一つのルートしかプレイしていないということだ。
そのため、アルフィアがどういう行動を取って、罰を受けることになるのか、完全に理解している訳ではなかった。プレイしていたルートはわかるが、それ以外はよくわからない。それが、私の今の状態だったのだ。
だが、ただ一つわかっていることはあった。それは、アルフィアの性格だ。
彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。それならば、彼女のような性格にならなければいいのではないだろうか。
そう考えた私は、地味に謙虚に生きていくことにした。そうすることで、悲惨な末路が避けられると思ったからだ。
乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました
雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた
スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ
この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった...
その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!?
たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく
ここが...
乙女ゲームの世界だと
これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話
「悲劇の悪役令嬢」と呼ばれるはずだった少女は王太子妃に望まれる
冬野月子
恋愛
家族による虐待から救い出された少女は、前世の記憶を思い出しここがゲームの世界だと知った。
王太子妃を選ぶために貴族令嬢達が競い合うゲームの中で、自分は『悲劇の悪役令嬢』と呼ばれる、実の妹に陥れられ最後は自害するという不幸な結末を迎えるキャラクター、リナだったのだ。
悲劇の悪役令嬢にはならない、そう決意したリナが招集された王太子妃選考会は、ゲームとは異なる思惑が入り交わっていた。
お妃になるつもりがなかったリナだったが、王太子や周囲からはお妃として認められ、望まれていく。
※小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる