上 下
56 / 102
【第三章】 旧校舎で肝試し

第52話 真相の断片

しおりを挟む

「ハロー、いつでも美人なローズちゃんで~す。本当にあたしって美人よね~、あなたもそう思うでしょ? もともとの赤髪も似合ってたけど、黒髪は黒髪で神秘的な感じがしてイイと思うのよ。やっぱり素材が良いと何でも似合っちゃうのよね~」

 相変わらずローズはへらへらとした笑顔を浮かべながら登場した。

「さてさて、今日は何の話をしようかな。『死よりの者』の話はいっぱいしたから、今日は視野を広げて国についての話をしましょうか。今あなたがいるこの国の名前は分かる? 学園名にもなっているからさすがに分かるわよね。ハーマナス王国よ」

 そういえば、原作ゲームでもそんな設定だった。
 ほとんどが学園の中での出来事のため、あまり国については触れられていなかったが。

「国が運営している学園だから、ハーマナス学園。国には学園が他にもあるけれど、国が運営しているのはこの学園のみ。あとは全部私立の学園よ。王子殿下がこの学園に通っているのも、ここが国の運営する学園だからなの。よく分からない私立の学園に通って、王子殿下を利用しようと企む輩に変な教育をされたらたまらないからね」

 この学園は国の運営だったのか。
 そういえば学園内では外での階級は適用されず、平民も貴族も平等な扱いを受けている。
 なるほど、それは学園が国営だからこその対応なのか。
 ただし、上納金の多さで部屋のランクが変わる寮は、国営ではないのかもしれない。
 身分を排除した平等な学園を作っているのに、寮がこれではちぐはぐだ。きっと寮を作るまでには複雑な事情があったのだろう。

「そしてハーマナス王国は、貧富の差が激しい国なの。いいえ、貧富の差が激しいというよりも……金持ちなのは一部だけ。貧しい人たちの方がずっと多いわ。学園内は貴族ばかりだから気付かなかったでしょ? 学園内にいる平民だって、学園に通っている時点で裕福な方だわ」

 気付かなかった。
 原作ゲーム後半に出会うミゲルは貧乏だったものの、町自体はそれほど貧しくは見えなかった。

「町は一見普通だけど、一歩路地裏に入れば、ゴミを漁る子どもたちや物乞いたちの姿が見られるわ」

 ローズは私の疑問を想定していたらしく、すぐに答えをくれた。

「ハーマナス王国には、鉱山や油田が無い。海に面していないから海産物も採れない。優れた技術も設備も持っていない。この国には、他国に輸出をする力が無いのよ」

 寮で食べる食事はどれも美味しかったが、言われてみると海産物はほとんど入っていなかった。
 それに原作ゲームでは、最先端技術は一切登場しなかった。
 それはこの世界が技術の代わりに魔法を発展させてきたからだと思っていたが、もしかすると単にゲームの舞台であるハーマナス王国が発展途上国だったからなのかもしれない。

 魔法や剣術の授業にばかり気を取られていたが、地理や世界情勢についても勉強しておいた方が良さそうだ。

「そんな国でも、唯一、優秀な魔法使いになることが出来れば、貧乏から抜け出せる。強力な魔法が使えれば、出来ることの幅が格段に増えるからね。この国で金持ちなのは、優秀な魔法使いの血統ばかりなのがその証拠よ」

 公爵家であるローズの両親は強力な魔法使いだ。
 その強力な魔法使い同士の子であるローズは、いわばサラブレッドである。

「でもね、こんなダメダメな国だけど、王が悪いわけでもないのよ。王の失策のせいだったら、革命が起きれば国の状況は変わるけれど、そういうわけじゃない。このままでは誰が王になろうとも、この国は豊かにはならないでしょうね」

 ローズは、ローズにしては珍しく、疲れた表情で長い溜息を吐いた。

「あたしが王妃候補だから言うわけじゃないけれど、むしろ王はよくやっていると思うわ。だってこんなにもダメな国なのに、他国に占領されていないんだから。帝国にすり寄ってお金を渡して守ってもらうっていうプライドの無い方法だけれど、それでも他国に蹂躙されるよりはマシだわ」

 確かに今の話を聞くと、国自体がとても弱いように思える。
 この状態で他国に侵略されていないのなら、それだけでも頑張っていると言えるのかもしれない。

「だって考えてもみて。戦争になったら、ろくにご飯も食べていない人たちが戦いに出るのよ。勝てるわけがないじゃない。だから帝国にお金を渡して守ってもらうしかない。プライドでは、人の命は守れないのよ」

 プライドでは人の命は守れない。
 ローズは今の言葉を、自分に言い聞かせているようだった。

「その結果、帝国に渡す金を工面する必要が出て、この国は貧乏になっている。よくないスパイラルね。でもここから抜け出す方法を、誰も知らない」

 ここまで話したローズは、一旦俯くと顔を上げた。
 その顔は俯く前と違って、またいつもの明るい表情に変わっていた。

「な~んか暗くなっちゃったね。まあ貧乏だけど、悪い国ではないわ。土も気候もそこそこいいから、木や草が育つし、竜巻や地震なんかの大きな災害も起こりにくいわ」

 そして満面の笑みで、投げキスをしてきた。

「ま、そんなハーマナス王国だけど、よろしく。頑張って生きてね~!」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。
ファンタジー
今回は公爵令嬢に転生ですか。あ、でも子沢山の末っ子らしい。 ま、チートスキルがあるわけでもないし、普通の人生ですよって…え?ちょっと待って?番ですか?聖女ですか?花?なにそれ?……いやいやいや、記憶を『忘れない』で転生を繰り返してるだけの何の取り柄も無い私に、無理難題吹っかけないでくださいよ? 『忘れない』けど、思い出せない、このポンコツの私にどうしろと? ──3歳から始まる異世界見聞録。 龍にエルフに獣人に……その他もろもろ世界での目標は、成人まで生き延びる事。 出来れば長生きしたいんです。 ****** 3歳児から始るので、最初は恋愛的なものはありません。 70話くらいからちょこちょこと、それっぽくなる……と良いな。 表紙のキャラも70話以降での登場人物となります。 ****** 「R15」「残酷な描写あり」は保険です。 異世界→現代→異世界(今ココ)と転生してます。 小説家になろう。カクヨム。にも掲載しております。 挿絵というほどのものでは無いのですが、キャラのラフ画をいくつか載せていきたいと思っています。

完 モブ専転生悪役令嬢は婚約を破棄したい!!

水鳥楓椛
恋愛
 乙女ゲームの悪役令嬢、ベアトリス・ブラックウェルに転生したのは、なんと前世モブ専の女子高生だった!? 「イケメン断絶!!優男断絶!!キザなクソボケも断絶!!来い!平々凡々なモブ顔男!!」  天才で天災な破天荒主人公は、転生ヒロインと協力して、イケメン婚約者と婚約破棄を目指す!! 「さあこい!攻略対象!!婚約破棄してやるわー!!」  ~~~これは、王子を誤って攻略してしまったことに気がついていない、モブ専転生悪役令嬢が、諦めて王子のものになるまでのお話であり、王子が最オシ転生ヒロインとモブ専悪役令嬢が一生懸命共同前線を張って見事に敗北する、そんなお話でもある。~~~  イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

処理中です...