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【第二章】 たとえ悪役だとしても
第36話
しおりを挟む「ローズ様ーーーーー!!!!!」
オレンジ色の夕焼け空に投げ出された私は、ジェーンの叫び声を聞きながら、地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。
あーあ。ローズとしての人生はこんな形で終わるのか。
元の世界では逃げてばかりの『私』だったけど、この世界ではローズとして頑張ろうと思っていたのに。
私なりに、自分の正義を貫こうとしていたのに。
それも今日で終わりのようだ。
さようなら私。
さようなら世界。
さようなら……………………ん? 私、落ちたはずよね?
いつまで経っても衝撃が襲ってこないため、恐る恐る目を開けると、私の身体は無傷だった。
それに目の前には落下しているとは思えない景色が広がっている。
黒い靄越しにゆっくりと景色が動いていて、落下しているというよりは飛んでいるみたいだ。
「え? どうなっているの? また異世界転生?」
混乱する私の目に、さらに混乱するものが飛び込んできた。
コウモリのような大きな羽に、羽に負けないくらいの大きな耳。細い身体から生えている六本の腕。
そう、空中で私の身体を抱えているのは、『死よりの者』だったのだ。
「キ、キャむぐっ」
叫ぼうとした私の口を『死よりの者』が手で押さえた。
≪叫ぶことはおやめください。我と一緒にいるところを見られるのは、あなた様も不都合なはずです≫
言われてみると確かにそうだ。
私は叫ぶのをやめて状況を整理することにした。
私は今、『死よりの者』に抱えられている。
そして『死よりの者』は、空を飛んでいる。
今、私たちがいるのは、周辺の景色から考えて女子寮の裏手側のあたりだ。
私が考えていると、『死よりの者』は地面に着地し、そっと私を降ろした。
つまり、そこから導き出される答えは……。
「もしかして、私のことを助けてくれたの?」
≪はい。我らは“扉”に死なれては困りますから≫
「それは、えっと……ありがとうございました?」
はてなマークを浮かべながら『死よりの者』に頭を下げた。
理由はよく分からないが、敵とはいえ助けてもらったからにはお礼を言わなければならない。
しかし、どうしても気になることがある。
以前の『死よりの者』が言っていたあの単語を、ここにいる『死よりの者』も使っていた。
「あのー、“扉”ってなに? あなたたちは私のことをそう呼んでいるわよね?」
≪“扉”とは…………え? あなた様は、もしかして我の言葉が聞こえているのですか?≫
「聞こえているわ。というか聞こえるようにテレパシーを送ってるんじゃないの?」
『死よりの者』は、信じられないとばかりに手を自身の口にやった。
こういう仕草は人間と同じなのか、と少し意外な気がした。
≪でも、今までは一度も……いつから聞こえていたのですか? もしかして、初めから?≫
「初めから? ローズはあなたと昔から会っていたの?」
≪“ローズは”って、ローズは“扉”の名前ですよね? つまりあなた様の≫
「え!? あ、うん。確かに今は私がローズだけど……」
≪よく分かりませんが……先程の質問に答えるなら、我自身はあなた様とは初対面です。ただ“扉”は有名ですから。我らは“扉”のことを一方的に知っているのです≫
『我ら』というのは『死よりの者』のことだろう。
そして『死よりの者』たちの間で、ローズは有名らしい。
ということは、『死花事件』を起こす前にも、ローズは『死よりの者』を使って事件を起こしていた可能性がある。
そんな話は原作ゲームでも出てこなかったが、ローズが公爵令嬢ゆえに金と権力で事件が握りつぶされていたのかもしれない。
もしそうだとしたら、ローズはすでにとんでもない悪人だ。
夢に出てきたローズがあの感じだったから油断をしていた。
私が一人で青褪めていると、外が騒がしくなってきた。
「ローズ様ー! ローズ様、どこですかーーー!?」
多くの足音とともにジェーンの泣きじゃくる声も聞こえてきた。
屋上から落ちたはずが、地面に叩きつけられずに消失した私を探しているのだろう。
「ねえ。あなたが私を助けるところって、誰かに見られたかしら?」
≪煙幕として黒い靄をまとっていたので、姿は見られていないはずです。では、我はもう行きます≫
そう告げた次の瞬間には、『死よりの者』は私の目の前から消えていた。
そういえば、どうしてこのタイミングで学園に『死よりの者』がいるのだろう。
原作ゲームでは夏までは何の動きも無いはずなのに。
「ローズ様ーーー!! 返事をしてくださーーーい!!!」
謎は山積みだが、とりあえずは気を失って倒れた振りをしておくことにした。
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