上 下
7 / 10

7 落ちこぼれ二人組

しおりを挟む

「レクシーが受けてる授業、魔物討伐実践だっけ? その授業の後って必ずぐったりしてるね。そんなに厳しいのー?」

 何も知らないキャロルが、砂まみれの私を見て質問した。
 授業中に着ていたジャージは着替えたが、髪も顔も砂で汚れてしまったようだ。

「今日は魔物退治でぐったりしてるんじゃなくて、校庭を耕してぐったりしてるの」

「そんなことまでするの? なんで? 筋トレ的な?」

「ジェイデンの馬鹿が校庭に穴をあけたからよ」

 私はジェイデンを恨めしそうに睨んだ。
 ジェイデンを恨むのは筋違いだと分かってはいるものの、恨まずにはいられなかった。
 なぜなら魔物を倒した後、まともに校庭を耕すことが出来たのは私一人だけだったからだ。
 他の生徒たちは全力疾走をした後のような息の上がった状態で、弱々しく校庭を耕していた。
 つまり、全く戦力にならなかった。

 このままでは次の授業に間に合わないと判断したマチルダ先生が一緒に校庭を耕してくれたおかげで、マチルダ先生が校庭を耕す凛々しい姿が見られたことだけは良かったけど。
 マチルダ先生の鍛え上げられた筋肉は、思わず見惚れてしまうほどだった。

「私も筋肉ムキムキになりたいなあ」

「マジでー? じゃあ筋肉ムキムキになったら私のことお姫様抱っこしてね」

 キャロルが私の二の腕をプニプニと摘まみながらウインクをした。

 これは、私に筋肉ムキムキは無理だと思ってるな!?

「そういえば。穴と言えば、町の結界に穴があいたんでしょ? 最近町に魔物が入り込んでるのはそのせいだって噂になってるよ」

 キャロルは筋肉話には興味が無かったのか、すぐに別の話題を振ってきた。

「ただの噂だよ。正式な発表は無かったはず。まだ兵士たちが結界を点検してる最中だからね」

「その点検っていつ終わるわけ? 結界ってかなり広範囲でしょ」

「さあね。一通り点検が終わったら、新たな点検が始まったりして」

「それあるかもー」


 最近、町は騒がしい。
 町に魔物が入り込むようになったからだ。
 国に張り巡らされた結界のどこかに穴が空いているのではないかと、もっぱらの噂だ。
 幸い入り込んでいるのは小さな魔物だけのため、今のところそれほど大きな被害は出ていない。

「でももし小さくても、毒の棘を持つタイプの魔物が入り込んだら……」

 先程の魔物討伐実践の授業は、それを見越してのものだったのかもしれない。
 もしアレと同じタイプの魔物が町に現れても対処が出来るように、あらかじめ練習をさせてくれた可能性がある。

「でも……私一人じゃ対処できないよ」

 今日の魔物討伐実践で私は何も出来なかった。
 それどころかジェイデンには足手まとい扱いまでされてしまった。

「私も早く魔法のコントロールが出来るようにならないと……」


   *   *   *


「はあ。声楽の授業は憂鬱だわ」

「レクシーに憂鬱じゃない授業なんてあるの? 私には無い!」

 私が溜息交じりに愚痴を言うと、キャロルは胸を張りながら胸を張れないことを言い出した。

「それって元気よく言うこと?」

「だって勉強嫌いなんだもん。レクシーもでしょ?」

 私は嫌い……ではない。苦手なだけで。
 それに好きな授業だってある。

「基礎魔法実践の授業は好きよ。基礎的な魔法なら多少リズムがおかしくても使えるし」

「この前、卵割ってたじゃん」

 図星をつかれて、ぐぬっ、と声が漏れた。
 私は先日、唯一得意だと思っていた基礎魔法実践の授業でも落ちこぼれてしまったのだ。

「卵の浮遊魔法は応用だと思うのよ。絶対に基礎魔法じゃない。だって難しかったもの」

 私以外の生徒は卵を割らずに浮遊させていたが。
 正直、私以外にも失敗する生徒がいると思っていたのに、みんな器用だった。

「レクシーのリズム感じゃ、卵を浮遊させるのは難しいかもね。レクシーはいつも魔力量でゴリ押してるだけだし」

 キャロルがあごに人差し指を当てながらそんなことを言った。

「私、魔力量でゴリ押してる……かしら」

「楽器学の先生の言葉を借りるなら。いくら肺活量があっても正しい吹き方をしないとフルートの音は出ないけど、大量に息を吹きかければその中の少しは上手い具合にフルートに当たって音が出る。って感じ?」

「つまり……どういうこと?」

「レクシーは、一の力で出来ることを百の力でやってるってこと。最高に効率が悪いけど、出来はする。みたいな」

 な、なるほど?
 大は小を兼ねる、のような魔法の使い方をしている感じだろうか。
 通りで細かい調節が苦手なわけだ。
 そんな無理やりな魔法の使い方で、魔法のコントロールなんて出来るわけがない。

 それにしても。

「もしかして、キャロルって頭良い?」

 私が自分で理解していないことを、こうも簡単に説明するなんて。
 落ちこぼれ仲間のキャロルが、まるで優等生みたいだ。

「今頃気付いたの?」

 キャロルは何でもないことのように言った。

「は!? じゃあなんで落ちこぼれなんかやってんのよ!?」

 私とキャロルは、影で「落ちこぼれ二人組」と呼ばれているのに。
 頭が良いなら、キャロルは何故そんな地位に甘んじているのか。

「私は努力と勉強が嫌いなんだよねー。授業をサボるからおのずと成績が悪くなるってわけ。テストとか課題は割と出来るタイプだよ」

 しっかり授業に出ても成績の悪い真の落ちこぼれは私だけだったことを知り、私はがっくりと項垂れた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百年に一人の落ちこぼれなのに学院一の秀才をうっかり消去しちゃいました

平田加津実
ファンタジー
国立魔術学院の選抜試験ですばらしい成績をおさめ、百年に一人の逸材だと賞賛されていたティルアは、落第を繰り返す永遠の1年生。今では百年に一人の落ちこぼれと呼ばれていた。 ティルアは消去呪文の練習中に起きた誤作動に、学院一の秀才であるユーリウスを巻き込んでしまい、彼自身を消去してしまう。ティルア以外の人の目には見えず、すぐそばにいるのに触れることもできない彼を、元の世界に戻せるのはティルアの出現呪文だけなのに、彼女は相変わらずポンコツで……。

【完結】わたくし、悪役令嬢のはずですわ……よね?〜ヒロインが猫!?本能に負けないで攻略してくださいませ!

碧桜 汐香
恋愛
ある日突然、自分の前世を思い出したナリアンヌ・ハーマート公爵令嬢。 この世界は、自分が悪役令嬢の乙女ゲームの世界!? そう思って、ヒロインの登場に備えて対策を練るナリアンヌ。 しかし、いざ登場したヒロインの挙動がおかしすぎます!? 逆ハールート狙いのはずなのに、まるで子猫のような行動ばかり。 ヒロインに振り回されるナリアンヌの運命は、国外追放?それとも? 他サイト様にも掲載しております

平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子

深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……? タイトルそのままのお話。 (4/1おまけSS追加しました) ※小説家になろうにも掲載してます。 ※表紙素材お借りしてます。

【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

処理中です...