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「バカねぇ、貴方」

 キャサリーの呆れたような声に、胸の辺りがムカムカする。

「モールス、だったかしら。カトリーナさんが貴方の元嫁だって話したら、項垂れて帰っていったわよ」
「…うるさいな。お前に迷惑をかけないから余計なことはするな」
「あら、もう巻き込まれたと思うけれど」
「……」

 そうね、とキャサリーは呟く。俺以外の男は可愛いと呟くその笑みで俺を見る。

「結婚に愛は求めてはいけないわ。貴方も、早いこと諦めなさい。何度も言ってるじゃなぁい?私と慰め合いましょうって」

 首に手を絡めてくるのを振り払う。

「冗談じゃない。お前は何が不満なんだ?旦那に愛されているだろう」
「あれは一方的な愛情というのよ」
「…何が気に入らない」

 一方的な愛情のどこがいけない。一方的なのが嫌なら、自分も相手を愛せばいいだけのこと。

「俺はお前のそういうところが嫌いだ」
「そう。私は貴方が好きよ、だからカトリーナさんが大嫌いだけれど」
「カトリーナを悪く言うな。そしてお前のそれは、恋愛じゃない。ただの家族愛だ」

 キャサリーが本当に俺に想いを寄せていることは薄々気付いてはいる。けれどその気持ちに答えることは今も今までもなかったし、この先もないだろう。

「…私の方が綺麗よ」
「どこが?」

 俺が嫌いなのは、俺を裏切ったカトリーナのような奴等だ。キャサリーの夫は俺と被るところがある。だからいつしかキャサリーに嫌悪感を抱くようになっていた。

「色んな男と寝て、旦那を裏切っているくせに」
「…女はそう言われるのね。男は他の女と寝ても、責められはしないのに」

 その言葉に多少の引っ掛かりを感じるけれど、興味はない。だから話を延長するのはやめた。

「それより、ここに頻繁に出入りするのはやめてくれ。変な噂が立つだろう」
「貴方がカトリーナさんを殺さないか見に来ているだけよ」
「殺すわけないだろう」
「そうかしら」

 キャサリーは頬に手を当ててうっとりと笑う。

「男はいつだって身勝手で、傲慢で、貪欲で、最低な生き物なのだから」
「……それは」
「なあに?」
 それは、お前の旦那のことを言っているのか?
 そう言いかけて俺はやめた。
 何となく、そこは踏み込んではいけないような気がしたから。それに気が付いたように彼女は微笑み、どこか悲しそうにカップの残りの茶を飲み干した。
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