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13,またまた、その頃のファントム

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 エルステーネが宰相ともうさっさと結婚しろよと周りが言うほど新婚のような空気でイチャイチャしている頃。
 ファントムではアスロンと、その恋人のエミリーが誰もいなくなった城で叫んでいた。

「アスロン、お腹が空いたわ!もう王都には誰も居ないんですもの!」
「ええい、護衛の奴らはどこへ行ったのだ!!非国民め!」
「何でもいいから食べたいわ…!ねぇ、宝物庫の中身を売りましょうよ。そうしたら…」
「宝物庫の中身などありませんよ」
 凛とした声がその場に響く。その声の持ち主は、ファントムの元宰相の息子だった。アスロンと同学年であり、常に成績優秀者で、アスロンが目の敵にして居た男だ。
「お前!誰に断りを入れてこの城に!!」
「この城に警護もいなければ、貴方を守ろうとする者もいませんよ。貴方には守られる価値もない」
「なんだと!誰か、この者を処罰せよ!!」
 本格的に頭がおかしいのだと、宰相の息子ーー基アリゼウスはため息をついた。
「ここには風の噂も来ませんでしょうから教えて差し上げます。エルステーネ王女は新しく婚約し、一月後には公爵夫人となるそうです」
「なんだと!?はっ、傷物だからな!どうせどこぞのデブ男に嫁がされーー」
「相手はミリガンの宰相で、女性が放っておかないほどのイケメンでしたよ」
「なっーーあの尻軽め!!」
 お前が言うか、とアリゼウスは呆れてしまった。
「どうやらエルステーネ王女はこちらへ来るずっと前から、宰相殿と思い合っていたそうですよ。良かったのではないですか?貴方、エルステーネ王女が復縁したいとうるさいのだと騒いでおられましたし」
 最も、妄想なのは皆が分かっていることだったけれども。
「………おい、お前!エルステーネを連れてこい!私の前に土下座させて謝らせる!!私を侮辱するとは何事か!」
「…夢を見るのもいい加減になさってはどうですか、王子」
「私は王だ!!」
「…そうですか。では、王よ。大国ミリガンに勝てると思うなんて、貴方は本当に愚かでしたな」
「だ、黙れぇぇぇええええ!!!!」
 腰にかけていた剣を向けられるが、動じることなくそれを避ける。
 授業をサボっては居眠りしていたアスロンとは違い、真面目に剣術を習ったアリゼウスは文武両道といわれていた。蚊よりも遅い剣を避けられないハズがない。
 そろそろ鬱陶しくなる。そもそもここに来たのだって、最後の温情にという陛下の心だ。
 もういいか、と腰から短剣を抜いてアスロンの頰に霞める。
「ひいいいい!!!!」
 尻餅をついて微かに切れた頰から垂れた血を見て、アスロンがひいひい言っている。
「アスロンっ!」
 駆け寄る女を見下ろしてハッと笑う。
「…では、御機嫌よう。もう会う事もないでしょうが」

 この時、アリゼウスはまさかここまで言ったにも関わらず、アスロンが馬鹿なことを仕出かすとは思わなかったのだ。
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